• ホーム
  • HR News
  • 【弁護士が解説】大学の任期付教員と研究者の無期転換 ―10年ルールの適用範囲

HR News

【弁護士が解説】大学の任期付教員と研究者の無期転換 ―10年ルールの適用範囲

公開日時:2023.02.10 / 更新日時:2023.08.29

国公私立の大学では、非常勤講師、任期付教員など、多数の教員が有期労働契約を締結して勤務しています。最近、有期雇用の教員の無期労働契約への転換を巡る労使紛争が増えつつあり、複数の裁判例が公表されています。

本稿では、人事・労務ほか私立学校からの法律相談や紛争案件を数多く手がける小國 隆輔弁護士に、大学の任期付教員や研究者等の無期転換について、現行法のルールと裁判例を解説していただきます。
小國 隆輔 氏

小國 隆輔 氏

弁護士、同志社大学法科大学院客員教授。同志社大学大学院法学研究科私法学専攻(博士前期課程)修了、同志社大学大学院司法研究科法務専攻(専門職学位課程)修了。2008 年弁護士登録。2018 年1 月、大阪市北区に小國法律事務所を開設し、人事・労務を中心に、企業法務・学校法務を手がけている。公職として、学校法人金蘭会学園非常勤監事、寝屋川市空き家等・老朽危険建築物等対策協議会委員、池田市職員分限懲戒等調査委員会委員等。著書として、『実務者のための人事・労務書式集』『Q&A私学のための働き方改革』『新型コロナの学校法務』ほか多数。

HP:弁護士法人 小國法律事務所

※本稿では、次の略称を使用しています。
 任期法:大学の教員等の任期に関する法律
 イノベ法:科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律
 有期労働契約:雇用期間の定めのある労働契約
 無期労働契約:雇用期間の定めのない労働契約

無期転換ルールの概要

まず、無期労働契約への転換について、労働契約法の定めを確認しておきましょう。
労働契約法18条1項は、次のように定めています。

有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換

第18条 同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が5年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。

2 略

とても読みづらい条文ですが、有期雇用の労働者が次の要件を満たせば、本人の希望によって、無期労働契約に転換することができる、というものです。

  1. 同一の使用者のもとで、有期労働契約を、少なくとも1回は更新していること
  2. 有期労働契約の契約期間が、通算で5年を超えていること
  3. 有期労働契約が終了する前に、無期転換の希望を申し出ること

ただし、有期労働契約を締結していない期間(空白期間)が原則として6か月以上あると、通算契約期間はリセットされ、ゼロに戻ってしまいます(労働契約法18条2項)。空白期間の後に改めて有期労働契約を締結しても、通算契約期間のカウントは0年から再スタートします。厚生労働省の資料では、空白期間による通算契約期間のリセットを、「クーリング」と呼んでいます(クーリング・オフではありません)。

なお、無期労働契約に転換した後も、正社員(専任教員)になれるわけではなく、所定労働時間、賃金等の労働条件は、原則として従前と同一です。
参考:用語集「無期転換ルール」

大学教員に適用される例外規定①-任期法

【1】任期法7条の定め

労働契約法18条1項による無期転換ルールには、いくつかの例外が定められています。

大学でよく利用される例外規定の一つが、任期付教員に関する例外規定(任期法7条)です。労働契約法18条が施行された2013年4月1日の1年後(2014年4月1日)に設けられたものです。
任期法7条の内容は、次のとおりです。

(労働契約法の特例)
第7条 第5条第1項(前条において準用する場合を含む。)の規定による任期の定めがある労働契約を締結した教員等の当該労働契約に係る労働契約法……第18条第1項の規定の適用については、同項中「5年」とあるのは、「10年」とする。

2 前項の教員等のうち大学に在学している間に国立大学法人、公立大学法人若しくは学校法人又は大学共同利用機関法人等との間で期間の定めのある労働契約(当該労働契約の期間のうちに大学に在学している期間を含むものに限る。)を締結していた者の同項の労働契約に係る労働契約法第18条第1項の規定の適用については、当該大学に在学している期間は、同項に規定する通算契約期間に算入しない。

任期法7条は比較的シンプルな内容で、次の2点の例外を定めています。

(1)大学の任期付教員については、無期転換に必要な通算契約期間を、「5年超」ではなく「10年超」とする(任期法7条1項)。

(2)大学在学中に、大学設置者との間で有期労働契約を締結していた場合、在学中の契約期間は、通算契約期間に算入しない(任期法7条2項)。

このうち、(1)は、「10年ルール」と呼ばれる例外規定です。任期付教員が無期転換をするために必要な通算契約期間は、「5年超」ではなく「10年超」だというものです。「10年以上」ではなく「10年超」なので、通算契約期間が10年ちょうどの場合も、無期転換を申し出ることはできません。

(2)は少しわかりにくい内容ですが、TA(ティーチング・アシスタント)やRA(リサーチ・アシスタント)などをしていた学生や大学院生が、同じ大学で任期付教員に任用された場合などには、TAやRAの期間は通算契約期間にカウントしない、ということです。

難しいのは、任期法7条の適用を受ける「任期付教員」の範囲です。
時折、大学で有期労働契約を締結している教員には、当然に10年ルールが適用されると認識されていることがありますが、明らかに誤解です。

詳細は任期法の法文に当たっていただきたいのですが、大まかにまとめると、任期法7条1項の10年ルールを適用するためには、次の要件を全て満たす必要があります。

◇大学の教授、准教授、助教、講師、助手であること(任期法2条2号)

◇労働契約において任期を定めていること(任期法2条4号、5条1項)

◇次の3つのいずれかに該当すること(任期法4条1項)
 ・先端的、学際的又は総合的な教育研究であることその他の当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性に鑑み、多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職に就けるとき
 ・助教の職に就けるとき
 ・大学が定め又は参画する特定の計画に基づき期間を定めて教育研究を行う職に就けるとき

◇教員の任期に関する規則をあらかじめ定めていること(任期法5条2項)

【2】任期法上の10年ルールに関する論点

任期法7条1項の例外規定については、非常勤講師にも適用されるのか、どのような教育研究であれば「先端的、学際的又は総合的」といえるのかなど、未解決の論点が複数あります。

私見ですが、任期法は「講師」にも適用されることから(任期法2条2号参照)、非常勤講師だという理由で適用除外とされることはないのだろうと思います。また、どのような教育研究が「先端的、学際的又は総合的」なのか、裁判所が法律を適用して判断することはできないですから、基本的に大学の裁量が尊重されると解するべきでしょう。

いずれにせよ、任期法の例外規定の適用を検討する際には、事前に顧問弁護士に相談するなど、慎重に手続きを進めることをお勧めします。教員の任期に関する規則には公表義務があるため(任期法5条4項)、先行する他大学の規則を参考にするのもよいかもしれません。

なお、大学の任期付教員以外にも、「大学共同利用機関法人等」の職員のうち専ら研究又は教育に従事する者にも、任期法7条の例外規定が適用されます(任期法6条~7条)。「大学共同利用機関法人等」に当たるのは、国立大学法人法別表第2に掲げられた法人と、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構及び独立行政法人大学入試センターです(任期法2条3号)。

【3】関連する裁判例

任期法に関する裁判例はとても少ないのですが、任期法4条1項1号の解釈について、次の裁判例が公表されています。

◇国立大学の再生医科学研究所の教授について、任期法4条1項1号の類型に当たるとした事例(大阪高判平17・12・28労判911・56)

◇任期法4条1項1号の「先端的、学際的又は総合的な教育研究であること」は例示であり、任期付教員を任用できるのはこれに限定されず、大学に一定の裁量が与えられているとした事例(広島高判平31・4・18労判1204・5)

◇介護福祉士養成関係を中心とした分野の講座を担当するなどしていた有期雇用の専任講師について、任期法4条1項1号の「その他の当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性に鑑み,多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職」に該当するとした事例(大阪地判令4・1・31労判1274・40)

いずれも、任期に関する規則に基づいて任用された教員について、任期法7条1項の10年ルールの適用を認めています。今のところ、裁判所は、規則の制定などの手続きをきちんと踏んでいれば、大学の判断を尊重してくれているといえそうです。

【4】まとめ

任期法上の10年ルールについて、ごく簡単にまとめると、次のとおりです。

①任期法上の任期付教員に該当すれば、10年ルールが適用される。

②大学設置者と有期労働契約を締結しているだけで10年ルールが適用されることはなく、任期法が定めるいくつかの要件を満たさなければならない。

③任期法には未解決の論点が複数あるため、10年ルールを利用する際には、顧問弁護士に相談するなど、慎重に手続きを進めるのが良い。

大学教員に適用される例外規定②-イノベ法

【1】イノベ法の定め

大学でよく利用されるもう一つの例外規定が、研究者等に関する例外規定(イノベ法15条の2)です。この例外規定も、労働契約法18条が施行された2013年4月1日の1年後(2014年4月1日)に設けられたものです。

イノベ法15条の2は、無期労働契約への転換について、次のような例外規定を置いています。

(労働契約法の特例)
第15条の2 次の各号に掲げる者の当該各号の労働契約に係る労働契約法……第18条第1項の規定の適用については、同項中「5年」とあるのは、「10年」とする。
 一 研究者等であって研究開発法人又は大学等を設置する者との間で期間の定めのある労働契約(以下この条において「有期労働契約」という。)を締結したもの
 二~四 略

2 前項第1号及び第2号に掲げる者(大学の学生である者を除く。)のうち大学に在学している間に研究開発法人又は大学等を設置する者との間で有期労働契約(当該有期労働契約の期間のうちに大学に在学している期間を含むものに限る。)を締結していた者の同項第1号及び第2号の労働契約に係る労働契約法第18条第1項の規定の適用については、当該大学に在学している期間は、同項に規定する通算契約期間に算入しない。

少しわかりにくい条文ですが、次の2点の例外を定めるものです。(1)の「研究者等」とは、科学技術に関する研究者、技術者と、研究開発の補助者をいいます(イノベ法2条11項)。

 (1) 研究者等が大学設置者と有期労働契約を締結している場合、無期転換に必要な通算契約期間を、「5年超」ではなく「10年超」とする(イノベ法15条の2第1項)。

 (2) 大学在学中に、大学設置者との間で有期労働契約を締結していた場合、在学中の契約期間は、通算契約期間に算入しない(イノベ法15条の2第2項)。

(1)は、任期法7条1項と同様の「10年ルール」を定める例外規定です。大学設置者(学校法人、国立大学法人、公立大学法人等)と有期労働契約を締結している研究者等については、無期転換に必要な通算契約期間は、「5年超」ではなく「10年超」となります。「10年以上」ではなく「10年超」なので、通算契約期間が10年ちょうどの場合も、無期転換を申し出ることはできません。

(2)も、任期法7条2項と同様の内容です。TA(ティーチング・アシスタント)やRA(リサーチ・アシスタント)などをしていた学生や大学院生が、同じ大学で有期雇用の研究者等として就職した場合などには、TAやRAの期間は通算契約期間にカウントしない、ということです。

【2】イノベ法上の「研究者」の範囲

イノベ法15条の2第1項を、もう少し詳しく見ていきましょう。イノベ法上の10年ルールが適用されるには、次の①と②の両方の要件を満たす必要があります。

①次のどちらかと有期労働契約を締結していること
・研究開発法人又は大学等の設置者
・研究開発法人又は大学等の設置者と共同研究開発等を行っている者

②次のいずれかに該当すること
・科学技術に関する研究者又は技術者
・科学技術に関する研究者又は技術者の補助者

大学で勤務する教員であれば、①の要件を満たすことは明らかです。問題となるのは、②の要件のうち、「研究者」の範囲です。大きく分けて、次の2つの考え方があり得ます。

・A説:有期労働契約に基づいて、その勤務先で、研究業務に従事する者を指す
・B説:その勤務先に限らず、研究者として生活している者を指す

例えば、甲大学で研究をしている教授が、乙大学で非常勤講師として有期労働契約を締結し、乙大学では授業の業務にのみ従事している(つまり、乙大学では研究をしていない)としましょう。

A説によれば、この教授は乙大学の「研究者」ではないので、イノベ法15条の2は適用されません。したがって、乙大学での通算契約期間が5年を超えると、無期転換権が発生することとなります。

これに対し、B説によると、この教授は日本中どこへ行っても「研究者」ですから、乙大学との有期労働契約にもイノベ法15条の2が適用されます。したがって、乙大学で無期転換をするためには、乙大学での通算契約期間が10年を超える必要があります。

【3】非常勤講師へのイノベ法の適用

では、大学の非常勤講師は、「研究者」に当たるのでしょうか。

最近の裁判例で、この論点を正面から取り扱ったものが公表されています(東京高判令4・7・6労判1273・19)。この裁判例は、私立大学の非常勤講師が、通算契約期間が5年を超えたとして無期労働契約への転換を申し込んだという事案です。大学側は、非常勤講師は「研究者」としてイノベ法15条の2第1項の10年ルールが適用されると主張して、無期転換を拒んでいました。

裁判所は、次のように述べて、当該非常勤講師は「研究者」に当たらないので、イノベ法上の10年ルールは適用されない、したがって通算契約期間が5年を超えた時点で無期転換を申し込むことができる、と判示しました。

イノベ法15条の2第1項1号の「研究者」というには、研究開発法人又は有期労働契約を締結した者が設置する大学等において、研究開発及びこれに関連する業務に従事している者であることを要するというべきであり、有期雇用契約を締結した者が設置する大学において研究開発及びこれに関連する業務に従事していない非常勤講師については、同号の「研究者」とすることは立法趣旨に合致しないというべきである。

判決文の言い回しは少々わかりづらいですが、その大学で研究業務に従事していなければ、イノベ法15条の2の「研究者」には当たらない、ということです。上記のA説を採用したと考えてよさそうです。

大学の非常勤講師は、授業の業務のみ担当することが一般的で、その大学で研究業務に従事することは稀でしょう。東京高裁判決を前提にする限り、私立大学の非常勤講師にイノベ法15条の2が適用される事例は、ほとんどなさそうです。

【4】まとめ

イノベ法上の10年ルールについて、ごく簡単にまとめると、次のとおりです。

①イノベ法15条の2の研究者に該当すれば、10年ルールが適用される。

②イノベ法15条の2の研究者とは、有期労働契約を締結している大学で、研究業務に従事している者をいう。

③大学の非常勤講師がイノベ法15条の2の研究者に該当する事例は、ごく稀と思われる。

任期法上の10年ルールとイノベ法上の10年ルールは、どちらも大学で広く利用されています。
2013年4月1日の労働契約法18条施行から10年が経過し、10年ルールを利用する大学においても、多くの任期付教員や研究者等が無期転換権を持つ時期になりました。

無期労働契約への転換は非常に難解なルールなので、運用を誤ると、訴訟や労働審判等の労使紛争に発展することもあります。当事務所にも多数のご相談が寄せられていますが、人事・労務の担当者の方には、労働法に詳しい弁護士などと連携を取りつつ、正確な情報に基づいて事務処理をしていただきたいと思います。

小國 隆輔弁護士執筆の他の記事はこちら

学校法務・企業法務に関するお悩みをお持ちの方はご相談ください

関連記事

お役立ち資料を無料でダウンロード!

大学教員の勤怠管理にも柔軟に対応

GUIDE

勤怠管理のパイオニア「AMANO」のノウハウをぎゅっと凝縮してお届けします!

01基礎知識

勤怠管理の意義と
重要性

02選び方

勤怠管理システム
選び方の基本

03実践編

勤怠管理システム
導入のポイント

全てを1つの資料にまとめた総集編「勤怠管理の選び方完全ガイド」無料配布中!

「高いシステムと安いシステムでは何が違うのか」を徹底解説