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キャリアアンカーとは?診断方法や企業での活用方法を解説

公開日時:2023.01.26

近年、働き方の多様化だけではなく、新たな技術による仕事の衰退・創出、業務細分化などにより、「幸福感を上げるためにはどのような仕事環境・内容を選択することが良いか」を考える機会が増えました。その中で、企業にとっては従業員のキャリア形成の方法や、離職防止の対策といった、人事運営に悩む場面も多いのではないでしょうか。

個人が生涯を通してキャリアを形成する上で、「キャリアアンカー」という指標があり、組織単位で取り入れることにより潤滑な人材活用が期待できます。 本記事では、キャリアアンカーの概要から分類方法、人材運営への活用のポイントなどを解説します。

キャリアアンカーとは

キャリアアンカーとは、「人それぞれが働く上で最も大切にしている価値観」を指します。

キャリアアンカーのアンカーは日本語で「錨(いかり)」という意味で、マサチューセッツ工科大学の組織心理学者であるエドガー・シャインが提唱した、生涯キャリア形成への軸についての考え方です。

この章では、キャリアアンカーの具体的な意味と注目されている背景を解説します。

キャリアアンカーの意味

キャリアアンカーは1970年代に、マサチューセッツ工科大学ビジネススクールの組織心理学者であるエドガー・シャインが提唱した、キャリア形成の概念です。

アンカーは和訳で「錨(いかり)」を意味し、船が流されないために錨を下ろすように「一人ひとりがキャリアについて意思決定をする上で中枢となる価値観や能力」と定義されています。

なお、キャリアアンカーは個人の根底にある価値観であるため、一定の経験を蓄積して形成されたあとは、生涯に渡って大きく変化しないといわれています。

キャリアアンカーが注目される背景

キャリアアンカーは、企業が人材を確保したり、従業員の価値観・資質を生かしたりするための取り組みとして注目されています。そこには、グローバル化や働き方改革推進による多様な価値観の創出と、人材流動性の増幅が関係しています。人材の流動性が増すことによって、企業は従業員に対して働き続けやすい環境を整備することが急務となりました。

また、少子高齢化による労働力不足も重なり、従業員一人ひとりに、適材適所で最大限の能力を発揮してもらう必要が生まれたことも理由の一つでしょう。キャリアアンカーによって従業員を適材適所に配置できれば、生産性の向上も見込めます。

次の章では、キャリアアンカーを把握するメリットを踏まえて具体的に解説します。

従業員のキャリアアンカーを把握する目的

従業員のキャリアアンカーを把握することで、一人ひとりが重点を置く価値観や、目的に合致した働き方の提案が可能となります。

また、従業員自身がキャリアアンカーを認識することで、働く目的や、やりがいに合った働き方が明確になります。それによって各自に適した働き方が選択でき、労働意欲や満足感につながるでしょう。

各従業員に適した人材配置によって、企業側が受けるメリットとしては、従業員の仕事に対するモチベーション上昇による生産力の向上が挙げられます。

さらに、従業員が希望する働き方や仕事内容のミスマッチを防ぎ、離職率の低下につながることも期待できるでしょう。

キャリアアンカーの8つの分類

キャリアアンカーは大きく分けて次の8つに分類され、それぞれ特徴が異なります。

①管理能力

②技術的・機能的能力

③安全性

④創造性

⑤自律と独立

⑥社会貢献

⑦全体的な調和(ワークライフバランス)

⑧チャレンジ

多くの人は、いずれかの項目に当てはまる可能性が高くなっています。そして、企業がキャリアアンカーによる従業員の適切な活用を行うために、把握すべきポイントともなります。ここから、適職例も踏まえて具体的に解説します。

①管理能力

管理能力タイプの場合、「人同士を結びつけ、対人関係を処理し集団を統率したい」という意欲があると判断できます。

組織の期待に応えることが喜びであり、責任ある仕事を担いたいといった願望があります。出世意欲が強い経営者タイプであり、ポジション異動にも積極的であることが特徴です。

向いている企業内でのポジション:管理職

②技術的・機能的能力

技術的・機能的能力が軸にある人は、特定の仕事に対して高い熱量を持つことが特徴です。自分の専門性・技術向上に喜びを見出すため、地道な積み上げも得意な人が多いでしょう。

管理職として部下をまとめるよりも、第一線で特定の分野を極めたいという意欲があります。なお、異動での業務内容変更によって、意欲が低下する可能性もあります。

向いている企業内でのポジション:企画職、営業職、技術職

③安全性

安全性タイプが軸の場合、「一つの企業に勤めることで将来的な安定を確保したい」など、冒険をしない堅実的な志向が強いといえます。

キャリア形成にも保守的で、部署異動などの環境の変化を好まないことが特徴です。このタイプは、リスク回避能力に長けている人材が多いとされています。

向いている企業内でのポジション:危機管理、リスクマネジメント

④創造性

創造性タイプは、クリエイティブに「ゼロから新規商品や価値を生み出したい」という願望を持つことが特徴です。

起業家的な思考を有し、リスクに立ち向かって新しい創造を継続できる仕事が適します。なお、このタイプは最終的に独立を視野に入れている傾向があります。

向いている企業内でのポジション:新規事業の立ち上げ、商品の開発、社内ベンチャーなど

⑤自律と独立

自律と独立タイプは、組織で決められたルールややり方にとらわれず、柔軟性のある働き方を好みます。

集団行動よりも単独行動を望む人が多いでしょう。独立心があり、指示された通りでなく自分なりの方法で業務を遂行したいという意欲があります。

向いている企業内でのポジション:特になし。ポジションよりも働き方を重視するため、自分のペースで仕事を進められるように勤務環境を工夫する必要があります。

⑥社会貢献

社会貢献に重点を置く人は、社会や企業への貢献意欲が高いことが特徴です。

人の役に立ちたい傾向があり、自分の仕事で貢献できた際に大きな喜びを感じます。実直で献身的な資質を持っているため、人材育成に能力を発揮したり、不正に対して厳しく指摘したりできるといった特徴があります。

向いている企業内でのポジション:教育や人事、監査など

⑦全体的な調和(ワークライフバランス)

ワークライフバランスを軸としている人は、仕事とプライベートを両立させることを重要視しています。

私生活と仕事が同程度大事であり、精力的に勤務をこなしながら育児や家事も積極的に行うため、リモートワークや休暇制度への関心が高いことが特徴です。

向いている企業内でのポジション:特になし。ポジションよりも働き方を重視し、柔軟に働けるような制度を充実させる必要があります。

⑧チャレンジ

チャレンジタイプは、困難な問題やライバルとの競争などに打ち勝とうとする傾向があります。

不可能を可能にするバイタリティを持ち、挫折してしまいそうな問題を解決した際に価値を感じることが多いでしょう。淡々とこなす業務よりも、課題に挑戦したり自己研鑽したりといったことを好みます。

向いている企業内でのポジション:新規事業の開発、難しい仕事の責任者など

実際にはいずれか一つの項目だけではなく、それぞれの特徴を複合的に持ち合わせていることが想定されます。そのため、人材配置の際には参考・目安としてください。

キャリアアンカーの診断方法

キャリアアンカーの診断方法は、価値観に対する40問の質問に対して、「まったくちがう」~「その通り」までの6段階で回答した結果を集計して行います。回答によってキャリアアンカーの8タイプの各スコアが加算され、最も高得点であったタイプが自分のキャリアアンカーとなります。

この診断方法はエドガー・シャインが著書「キャリア・アンカー―自分のほんとうの価値を発見しようー」で提唱している方法であり、著書の中に診断で用いる40の質問が記載されています。診断の際に用いてください。

ただし、キャリアアンカーで算出した診断結果は一つの指標であり、絶対的なものではありません。そのため、参考程度に留めた上で人材活用を検討してください。また、各タイプに良し悪しがあるわけではなく、それぞれの長所・短所があることを前提に人事運営を行いましょう。運営に際しては、従業員の価値観を断定しすぎないよう注意が必要です。

企業におけるキャリアアンカーの活用方法

キャリアアンカーは企業活動において、「採用活動」「人員配置・異動」「人材育成」など、さまざまな活用場面があります。ライフスタイルの変化などで仕事に制限が発生する場合でも、キャリアアンカーにより従業員の価値観を共有すれば適切な人材配置ができ、離職防止も期待できるでしょう。

この章では、企業での主なキャリアアンカー活用場面の3つである「採用活動」「人員配置・異動」「人材育成」の、それぞれの活用方法や得られる効果を詳細に解説します。

【中途採用】自社や職種に適性があるかの判断材料にできる

採用活動でのキャリアアンカー活用方法には、中途採用を行う際の筆記テストで導入することが挙げられます。

効果として、自社の社風に合うかどうかや、業界・職種への適性の有無について判断が可能です。また、適性のある人材採用は離職率の低下につながります。

なお、中途採用では効果が期待できる一方、新卒採用といった社会人未経験者は、本人の価値観が不確定であると想定されるため、効果が得られない可能性があります。

【人員配置・異動】従業員それぞれに適した働き方ができるようにする

人員配置におけるキャリアアンカー活用方法としては、キャリアアンカーを基準に、各従業員の持つ価値観や適性に合った仕事や働き方を考慮して配置したり、異動させたりすることが可能となります。

例としては、技術的・機能的能力をキャリアアンカーに持つ従業員に対しては、業務内容が変更となる異動は控える方が良いでしょう。反対に、管理能力に重点を置く人は、異動自体を好む傾向があります。それぞれのキャリアアンカーに沿った配置を提案することで、個人の希望・能力に適した働き方ができるようになり、離職率の低下や生産性の向上が見込まれます。

【人材育成】キャリアアンカーの活用方法を研修する

キャリアアンカーは人材育成でも活用できます。研修の場を設けてキャリアアンカーについて説明し、今後のキャリアを個人でも考える機会を提供することで、自身の適性や望む働き方を自覚させることが可能です。

価値観の自覚による効果としては、行動目標を立てやすくなり、モチベーションが向上すると想定されます。価値観がまだ定まっていない新卒採用者の場合でも、キャリア目標や譲れない価値観・考えについて早期に理解させることができるでしょう。

まとめ

本記事では、キャリアアンカーの概要や診断方法、導入によるメリット、活用方法などを解説しました。

キャリアアンカー診断を企業で活用する利点は、各従業員のキャリアアンカーを把握することで、個人の適性に合った人員配置や採用活動、人材育成を行うことが可能となることです。

適切な人材配置を行うためにも、キャリアアンカー導入による人事管理は重要といえるでしょう。なお、多様な働き方を実現するのに伴い、人事給与を一元管理できるシステムを導入すると、よりスムーズな人材運用が可能です。

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