企業防災とは?
国から推進されている企業防災とは何か、その内容と必要性を解説します。
1. 企業防災の内容
企業防災とは、企業が災害に備えて従業員や設備への被害を最小化するための取り組みと、災害発生時の企業活動の維持や早期回復のための取り組みを指します。
災害が多い日本では、大地震や台風の被害を受けたときに備え、各企業は従業員や顧客に対する安全配慮義務を守るために企業防災に取り組む必要があります。
企業防災の取り組み
①防災対策 | 企業が災害に備えて、従業員や設備への被害を最小化する取り組み |
②事業継続(BCP) | 災害発生時の企業活動の維持や早期回復のための取り組み |
企業防災には、これまで企業が取り組んできた防災対策に加えて、事業継続の観点が必要です。事業継続においては、「生命の確保」「二次災害の防止」「地域貢献・地域との共生」「二次災害の防止」のそれぞれが重要な位置にあり、重なり合って存在していますが、「生命の安全確保」をあらゆる取り組みの基礎とすることが求められています。
2.台風や豪雨、地震に備える必要がある
日本やその周辺諸国で発生する地震の数は、世界のおよそ1割にあたります。これは世界の活火山の約7%が日本に存在していることに起因しています。大地震が発生した場合、四方を海に囲まれた日本では津波が発生するリスクも存在しています。
また、地理的、地形的、気象適所条件から、台風や豪雨、豪雪等の自然災害が発生しやすく、企業はこれら災害に備える必要があります。
台風は毎年夏から秋にかけて複数回日本に上陸し、また近年では記録的な豪雨による洪水や土砂災害が発生しています。企業は「大災害が発生した場合の初動対応」を策定して社内に周知し、この時期に改めて初動対応を確認するなど被害の最小化を目指す取り組みを実施することが求められます。
また、阪神淡路大震災や東日本大震災、熊本大地震などの大震災時の被害を踏まえ、都市・地方問わず大型地震に備えた対策が求められています。
台風接近時に必要な企業の対応は?
ここでは、台風や豪雨災害発生時に企業が取るべき対応について解説します。
1.台風や豪雨災害発生時の対応を定めた法律は?
通勤が困難になるような強い台風が発生した場合でも、「台風の際に従業員を就労させてはならない」と定めた法律はないため、出社させるかどうかの判断は企業側が行うことになります。ただし、通勤時に従業員が負傷した場合、安全配慮義務違反とみなされることも考えられます。さらに、訴訟に発展した場合には、企業側が損害賠償責任を負う可能性があります。
例えば行政機関や医療機関、インフラ企業、マスコミなどの業種では、災害時であっても出社しなければならないケースもあります。このような場合には、前日までの状況を見て、社内やオフィスに近い宿泊施設に寝泊まりさせるなどして安全に最大限配慮するのが一般的です。
2.台風接近時の行動基準を明確にする
台風接近時に、状況に応じた指示を従業員に対し迅速に出せるよう、事前に行動基準を設定し明確化しておきます。出社、時差出勤、休業のいずれを選択するのか、その判断は「鉄道の運行情報」と「気象情報」を基準にするのが現実的です。
従業員の多くが鉄道を利用して通勤している企業では、鉄道の運行情報を参考にした行動基準を策定します。都市部の鉄道会社では、台風が直撃する前日に翌日の運行計画を発表するケースが増えています。
従業員の多くが徒歩、自転車、自家用車で通勤している企業の場合、気象庁から発表される警報を参考にした行動基準を策定します。大雨や洪水、暴風などの警報が出ている場合、時間通りに出社できない、通勤途中で飛来物によって負傷してしまうことが予想されます。
台風接近時の行動基準の例
- 始業時間の1時間前までに暴風警報が発令され、公共交通機関の運行が停止している場合は休業または在宅勤務とする
- 業務時間中に暴風警報が発令された場合は、直ちに帰宅し在宅勤務とする
3.従業員への連絡
台風接近時、上陸・直撃前の休業や時差出勤などに関する従業員への連絡が、業務時間外になることも考えられます。事前に従業員への連絡方法を整備しておき、緊急時でも従業員がすぐに会社からの連絡に気付けるようなフローを整えておきましょう。
台風に関する情報を収集し、意思決定を行う担当者も事前に決めておきます。従業員への連絡についても、安否確認システムやメールなどを利用して一斉に連絡できるようにしておくと緊急時でも迅速かつスムーズです。
4.台風接近時の就業規則を定める
台風接近時には時差出勤や休業とする場合の給与規定や、勤怠に関する就業規則を定め従業員に周知します。
基本的には、「ノーワークノーペイの原則」によって、実働がない場合はその分の給与を支払う義務はありません。例えば、台風の直撃による電車の運休を見越して退勤時間よりも数時間早く退勤させたときには、その時間分の給与をカットできます。
しかし、実際は通常通り給与を支払う、または何かしらの補償を行う企業が多くあります。
5.初動対応の仕方
災害時の初動対応で重要なのは、人命を保護することです。災害時にはさまざまな危険があり、少しの油断で従業員に何らかのトラブルが発生してしまいます。
台風の場合、地震のように予見できない自然現象ではないため、警戒情報が出た段階から準備を行えば、被害を抑えられます。具体的には以下のような対策が有効です。
- 防災セットを準備しておくと同時に置き場所を周知する
- 避難ルートを確認し周知する
- 社外にいる従業員へ連絡し帰宅を指示する、あるいは避難場所を伝達する
台風が上陸したときには、河川の水位や土砂災害に関する情報をテレビやラジオ、気象庁のホームページなどで逐一確認し、危険があると考えられる場合には早めの避難を指示します。
避難後は、従業員やその家族の安否を確認し、従業員が安全に帰宅できるように支援します。
また、人命保護を優先しつつ、自社の情報や財産保護のために以下の対応を行います。
- 重要な資料の保管場所を変えて万が一に備える
- 浸水に備えて低層階のパソコンを上の階に移動させる
- 重要データのバックアップを取っておく
地震に備えた防災対策とは?
続いて、地震と地震に関連する災害の被害を最小限にするために有効な地震災害対策のポイントを紹介します。
地震は発生時の揺れだけでなく、地震に関連する火災や津波などが発生し、震源地を中心に大規模な被害をおよぼすことがあります。地震による被害を拡大させないために、企業は日頃から各種の対策を行う必要があります。
具体的には地震発生時の役割分担を決定し、家具や什器の耐震対策、データのバックアップ、備蓄用品の確保、避難計画策定を行います。
1.災害発生に向けた役割分担決め
地震発生時には、「誰が何をするのか」を明確にしたうえで、情報伝達や避難指示を行う必要があります。迅速な対応をするためには事前にどのような役割が必要なのかを把握し、大まかな担当者を決定したうえで防災訓練を実施します。具体的には、とりまとめ、指示だしを担当するリーダー(災害対策本部長)の他に以下の役割担当を決めておくとよいでしょう。
災害発生時に備えて決定しておく役割分担
総務担当 | 災害対策本部の立ち上げ・運営、各担当の調整、本部長の事務方 |
情報連絡担当 | 被災情報等の収集、通信手段の確保、緊急連絡、広報など |
避難・誘導担当 | 避難ルート・場所の確認、誘導など |
消火担当 | 初期消火 |
救出・救護担当 | 救出、応急処置、負傷者の搬送など |
設備・復旧担当 | 設備の緊急停止、被害状況調査、建築物の緊急点検、補強、危険物漏えいの緊急措置など |
社員救援担当 | 安否確認、帰宅計画の実行、支援物資の備蓄・配布、被災従業員の生活支援など |
2.オフィス家具やPCの転倒・落下・移動防止対策
東京消防庁が東日本大震災の際に家具類の転倒・落下・移動に関する調査を行ったところ、20%の事業所でオフィス家具類の転倒や落下、移動があったことが分かっています。特に高層階にオフィスを構えている場合、コピー機や自販機などの大型の機器が揺れによって移動し、従業員が間に挟まれて負傷したり逃げ遅れたりしてしまう危険性があります。
従業員の安全を確保するために、オフィス家具や什器類が動かないよう対策しましょう。以下のチェック項目については定期的に確認し、安全なオフィス環境を維持することが重要です。
チェック項目
- 廊下、通路などに避難の障害となる物が置かれていないか
- オフィス家具類等の転倒防止措置をしているか
- コピー機や自動販売機のような重量物の転倒・移動防止措置がされているか
- 家具類の転倒・落下・移動により窓ガラスが割れるのを防ぐため、窓付近に物は配置されていないか
- デスクトップ型のパソコンやモニターは固定されているか
3.情報のバックアップ
重要な情報は適宜バックアップを行い、災害時のデータ破損に備えます。バックアップするデータは、顧客、財務、売上に関するデータ等、事業を継続する上で重要度の高いデータを最優先とします。
4.備蓄用品や救急・救護用品の確保
備蓄物資は、食料・飲料水など生命の維持に必要な物資と、入浴・排泄に必要な物資の2つに大別できます。帰宅できるまで従業員がオフィス内で過ごす可能性があることを考え、食料、飲料、毛布などは従業員数分用意します。また顧客や地域住民のことも考え、従業員数よりも多めに備品を用意しておくと安心です。用意する量は3日分が目安です。
また、災害が起きた後の情報収集や手当て、片付けに備えて、ラジオや工具、救急・衛生用品も用意しておきます。
5.帰宅困難者対策や避難ルートの準備
遠距離通勤者が多い企業では、地震後の交通機関の運休や通行止めによって帰宅困難者が発生することを見越し、帰宅困難者になり得る従業員数を把握・確認する必要があります。帰宅困難者になり得る目安としては、自宅からオフィス間の距離が20キロ程度あるかどうかです。
帰宅困難者になり得る従業員数を把握した後は、帰宅困難者向けの宿泊場所や宿泊する際の設備の設置についても事前に検討します。また、災害発生後の避難先の決定と、避難ルートの確認と周知も重要です。
確認事項
- 社内で安全な場所はどこか
- 緊急時の出入り口はどこか
- 避難場所に指定されている公園や学校の確認
- 避難場所までのルート
まとめ
日本は災害の多い国です。災害時でも事業を継続し、従業員や顧客に対する安全配慮義務を守るためにも、国内の各企業は企業防災に取り組む必要があります。
台風接近時は、従業員の安全への配慮として、休業や時差出勤などの対応が求められます。その際、それら対応について円滑に判断するために、事前に災害時の行動基準や就業規則を定めることが重要です。それと同時に、台風の情報を集め、出社させるかを判断する責任者や従業員への連絡手段を決定するなど、災害対策に関する体制を構築する必要があります。
地震の場合、台風のように事前に災害を予見できないため、「地震が発生する前に対策を講じる」ことが重要です。これには、被害の拡大を最小限に抑える効果があります。事前の対策を確実に実施し、また従業員には万が一の際の避難先や避難ルートを共有して周知しながら、災害発生時に備え定期的に避難訓練を行いましょう。
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