人事・労務の注目用語
高年齢者雇用安定法
こうねんれいしゃこようあんていほう
公開日時:2021.05.27 / 更新日時:2022.03.09
高年齢者雇用安定法は、働く意欲のある高年齢者が活躍できる環境を整備することを目的とした法律です。この法律では、企業に対して一定年齢までの雇用確保措置を講じるよう定めています。前身の「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法(1971年制定)」から社会に応じで改称・改正が行われ、現在の形となりました。2021年4月1日から施行された改正法では、70歳までの雇用延長措置を努力義務として定めています。一連の改正の背景には、少子高齢化による労働人口の減少や、年金支給年齢の引き上げと支給額の引き下げ等の問題が挙げられます。意欲とスキルのある高年齢者が活躍できる環境づくりを行うことで、労働人口の確保および高年齢者の生活の安定、やりがいの獲得が期待されています。
改正に伴い人事・労務が対応すべきこと
高年齢者雇用安定法の改正にあわせて、企業は高年齢者の雇用制度を変更する必要があります。2021年に施行された改正法の内容を説明するとともに、企業の人事・労務担当者が把握すべき要点を解説します。
1. 2020年改正内容のおさらい
2020年に改正され、2021年4月から施行が始まった法改正内容のポイントは、雇用継続の年齢が65歳から70歳まで引き上げられた点です。高年齢者を雇用する企業は、高年齢者のさらなる就業機会確保のために、「70歳まで」の就業確保措置を講じる努力義務が発生します。
2020年改正:高年齢者就業確保措置
(1)70歳までの定年引き上げ
(2)定年制の廃止
(3)70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
(4)70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
(5)70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
2020年の改正の一つ前、2012年の改正では、企業の義務として「65歳までの定年引上げ」「定年廃止」「65歳までの継続雇用制度の導入」のいずれかの措置を取ることが定められました。
2020年の改正では、定年と継続雇用の年齢を65歳から70歳までに引き上げることを努力義務としています。また、「70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入」「70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度の導入」と、「雇用ではなく就業を確保する措置」が追加されています。
2020年の改正で変更されなかったポイントとしては、65歳までの雇用確保措置の義務があります。「65歳までの定年引上げ」と「65歳までの継続雇用制度の導入」は企業が必ず行わなければならない措置として義務付けられています。
2. 企業に求められる就業確保措置
2020年の改正法は、2021年4月1日に施行されました。前述した改正内容に対応していない企業は、新たに定められた措置をすぐに講じる必要があります。
改正部分については「努力義務」であることから、企業側は対象者を一部に限定する基準を設けられます。ただし、「会社が必要と認めたものに限る」「性別を限定する」などは基準として不適切です。労使間で協議の上、基準を設定しましょう。
措置については、
(1)70歳までの定年引き上げ
(2)定年制の廃止
(3)70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
(4)70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
(5)70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
の5つ全てを導入する必要はありません。いずれか1つ、または複数の措置を労使間で協議の上、労働者側の要望を加味しながら導入します。従業員個々にどの措置を適用するかについては、当該従業員の希望を聞き取り、それを尊重して決定します。「高年齢者就業確保措置」の(4)(5)については、過半数労働組合や労働者代表の同意が必要です。
上記の措置はすぐに導入する必要がありますが、形だけの簡単な取り組みを行うのでは不十分です。高年齢者が安全な環境下で働けるよう、職場環境の改善や労働者の健康・体力の把握とそれに応じた対応、就業中の災害防止対策なども策定します。また、高年齢者が定年前とは異なる業務にあたることになった場合、業務のための研修や教育、訓練を行うことが望ましいとされています。
高年齢者が継続して働ける体制をトータルで整える必要があるのです。
2021年4月以降の法律的な影響は?
2020年改正法では、70歳までの就業確保措置は努力義務とされています。2012年改正時には65歳までの雇用確保措置を事業主の義務と定めており、事業主が必ず実施しなければならないものであったのに対し、2020年改正法では「努めること」を義務としています。これにはどのような違いがあるのでしょうか。
1. 義務と努力義務の違い
法律において、義務と努力義務の違いは強制力にあります。
「義務」とされた場合、その法のおよぶ範囲において、その事項は「絶対に守らなければならないもの」となります。「努力義務」とされた場合は「その法のおよぶ範囲において守ってもらいたい事項ではあるものの、それ自体に強制力や罰則がない」という規定となります。とはいえ、努力義務とされているものを「実施しなくていい」と判断するのは適切ではありません。
2012年の改正で65歳に引き上げられ雇用確保の措置をさらに70歳まで引き上げた今回の改正に対して、対応に苦慮する企業も少なからず存在しています。2020年の高年齢者雇用安定法改正に関する国会審議の中で政府が「70歳までの雇用確保は段階的実施が順当」とする旨の見解を示していることから、企業への負担を考慮して70歳までの就業確保措置が努力義務として定められたと考えられます。
2020年の改正法でも引き続き義務とされている「65歳までの定年引上げ」「定年廃止」「65歳までの継続雇用制度の導入」については、いずれかを必ず実施する必要があり、仮に実施しなかった場合は法違反に該当します。
ただし、高年齢者雇用安定法には罰則が設けられていないため、法違反であっても罰金刑に処されることはありません。法違反があった場合には、労働局やハローワークの指導対象となり、指導後も是正されない場合には企業名が公表される可能性があります。
2. 努力義務に違反するとどんな罰則を受ける?
2020年改正内容の措置を講じなかった場合の罰則はありません。しかし、前述のとおり労働局・ハローワークから行政指導を受けるとともに、措置導入のための計画作成を勧告されます。それでも是正されなかった場合には、企業名が公表されます。
罰則がないからと何も着手せずにいるのは、努力義務を怠っている状態です。「企業に求められる就業措置」で紹介した措置に一つずつ取り組み、自社における高年齢者の雇用を継続する体制を構築する必要があります。
70歳までの雇用延長措置が難しい場合は、67歳まで引き上げを行ったあとに70歳まで引き上げるなど、継続雇用制度を段階的に導入することも可能です。
まとめ
高年齢者雇用安定法が2020年に改正され、2021年4月1日から施行されています。2020年の法改正の内容は義務ではなく「努力義務」とされていますが、70歳までの就業確保に向けて各企業が取り組みを実施しなければなりません。
また、「義務」である2012年改正時に定められた「65歳までの雇用確保措置」を怠ると、最悪の場合は企業名を公表され自社のイメージの低下や、従業員の離職などを招く可能性があります。
改正内容に沿って正しく、着実に対応を進め70歳まで働ける環境づくりを行いましょう。これらの取り組みによって従業員のモチベーションの向上や離職率の低下といった効果も期待できます。高年齢者雇用安定法の規定への対応を通じ、意欲とスキルのある人材が長く活躍できる環境を構築しましょう。