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労働安全衛生法

ろうどうあんぜんえいせいほう

公開日時:2021.05.11 / 更新日時:2022.03.09

労働安全衛生法は、「職場における労働者の安全と健康を確保」するとともに、「快適な職場環境を形成する」目的で1971年に制定されました。具体的には企業に対し安全・衛生委員会の開催、産業医の選任など安全衛生管理体制の確立と危害防止措置や健康診断、安全衛生教育などの労災防止のための措置の実施を定めています。労働安全衛生法では従業員の健康を守る観点から、労働時間の管理を行うよう企業に義務付けています。2019年4月の法改正後には、労働基準法上では必要とされていなかった雇用形態の従業員に対しても「労働時間の客観的な把握」が必要となり、企業にはより厳密な労働時間の管理や健康保持の対策が求められます。

労働安全衛生法において特に企業が重視すべき責務

労働安全衛生法は労働者の安全や衛生を守るための規則が第1条~第123条にもわたってまとめられています。その中でも重要度が高い措置について解説します。

1.安全衛生管理体制を整備する

従業員の数が一定数を超えると事業所に安全衛生を確保するための管理体制を整備する義務が生じます。企業が必ず構築する必要がある安全衛生管理体制とは主に以下にまとめられます。 安全管理者、衛生管理者等を選任しなかった場合、企業に50万円以下の罰金が科されます。

安全衛生管理体制を整備するための措置

10人以上50人未満の事業所 労働者数10人以上50人未満の事業所に衛生推進者を選任する
50人以上の事業所 労働者50人以上が所属する事業所ごとに免許を持つ安全管理者や衛生管理者を選任する
安全衛生委員会を開催して事業所の安全や衛生について討議する
産業医を選任する

2.危険防止措置

危険防止措置は業務上で労働者が直面する可能性がある危険や健康障害を防止するための措置です。事業者は、設備や作業によって労働者が危険な目にあったり、ケガをしたり、病気になったりすることがないよう、防止措置を講じる義務があります。労働安全衛生法で定められた危険防止、健康障害防止を怠った場合、6か月以下の懲役または50万円以下の罰則が科されます。

危険防止に必要な措置

危険防止措置 ➀機械、器具その他の設備による危険の防止
➁爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険の防止
③電気、熱その他のエネルギーによる危険の防止
④掘削、採石、荷役、伐木等の業務における作業方法から生ずる危険の防止
⑤労働者が墜落するおそれのある場所、土砂等が崩壊するおそれのある場所等に係る危険の防止
(労働安全衛生法20条、21条)
健康障害防止措置 ①原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康被害の防止
②放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康被害の防止
③計器監視、精密工作等の作業による健康被害の防止
④排気、排液または残さい物による健康被害の防止
(労働安全衛生法22条)
健康や風紀、
生命保持に必要な措置
・作業場での通路、床面、階段等の保全並びに換気、採光、照明、保温、防湿、休養、避難、清潔に必要な措置
・その他労働者の健康、風紀及び生命の保持のため必要な措置
労働災害防止の措置 ・労働者の作業行動から生ずる労働災害を防止するため必要な措置
(労働安全衛生法24条)
急迫した危険の防止措置 ・労働災害発生の急迫した危険があるときは、直ちに作業を中止し、労働者を作業場から退避させるために必要な措置
(労働安全衛生法25条)

危険防止措置は、デスクワークが中心で危険防止措置で想定されている状況が発生しない職場では考慮しなくてもよい場合があります。

3.安全衛生教育措置

安全衛生教育の中には、実施しなかった場合罰則が発生する義務としての教育と、努力義務としての教育があります。雇い入れ時の安全衛生教育を行なわなかった場合は50万円以下の、特別教育を行なわなかった場合は6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金が企業に科されます。

安全衛生教育の種類

実施する義務がある教育内容 ・雇い入れ時の教育
・作業内容変更時の教育
・危険有害業務従事者への特別教育
・職長教育
努力義務とされている教育内容 ・労働災害防止のための業務に従事する者への能力向上教育
・危険又は有害な業務に就いている者に対する安全衛生教育
・職長教育

4.健康保持や健康増進のための措置

健康保持や健康増進のための措置として従業員が50人以上いる事業所では健康診断の実施、結果の通知と保存に加え、健康診断の結果を労働基準監督署へ報告することが義務付けられています。2015年12月からは、従業員が50人以上の事業場所に対して「ストレスチェック制度」が導入されており、企業は長時間労働が続く従業員に対して医師の面接指導をはじめとした健康管理を行う必要があります。また、健康診断の不実施は法違反となり、企業には50万円以下の罰金が科されます。健康診断を受けることは労働者にとっても義務であるため、自社の従業員が健康診断の受診を拒否した場合は、就業規則等の定めによって、懲戒処分の対象とすることが可能です。

このほか、インフルエンザや新型コロナウイルスなどに代表される伝染病の罹患患者の就業禁止措置も健康保持や健康増進のための措置の中に含まれています。

労働安全衛生法における労働時間管理のポイント

2019年の労働安全衛生法の改正によって、企業には従業員の健康管理の面から労働時間を管理するよう義務付けられました。労働安全衛生法の労働時間管理の目的、労働基準法で定められている労働時間の管理との違い、具体的な管理方法について厚生労働省のガイドランを基に解説します。

1.労働基準法の労働時間管理と労働安全衛生法の労働時間管理の違い

労働基準法では法定労働時間や時間外労働、休日の規定など、労働時間や休日の観点から労働時間の時間管理を行うよう定めています。一方、労働安全衛生法では健康面から労働時間管理を行うよう定めています。そのため、従来通り労働基準法の時間管理だけを行うのでは不十分です。改正後の労働安全衛生法においては、労働基準法上では時間管理が不要だった管理監督者や裁量労働制の適用者も、健康管理の問題から時間管理が必須となっています。

また、働き方改革関連法によって労働時間管理の他に「健康管理時間」が定められました。健康管理時間は、一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」の適用者の労働時間を把握するために必要な時間管理の物差しです。高度プロフェッショナル制度で働く従業員の健康管理時間が著しく長くなった場合は、医師の面接指導を行うように企業に義務付けています。

使用者による様々な時間把握義務使用者による様々な時間把握義務

2.労働時間管理のポイント

働き方改革関連法による労働安全衛生法改正により、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が新たに定められました。これにより、労働安全衛生法上の労働時間管理として必要なことが明記されました。

労働安全衛生法に基づく労働時間管理は、労働基準法の時間管理に関する規定のように違反した場合の罰則は特に設けられていません。ただし、ガイドラインで示された労働時間管理を適切に行わずにいることは法違反となり、従業員の健康悪化が起きた場合は損害賠償請求への発展や、不適切な労働時間管理の実態が広まり社会的信用を損なうなどリスクがあります。

・法改正と新ガイドラインのポイント

  • 労働時間の物理的把握の義務、自己申告は認められない (タイムカード、ICカード、勤怠管理システム、パソコンのログなど客観的な記録に基づく記録が必要)
  • 労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録する必要がある
  • 実際の労働時間と記録上の労働時間の乖離がある場合は実態調査を行う
  • 管理監督者や裁量労働制適用者(みなし労働時間制適用者)も正確な労働時間管理を行う必要がある
  • 長時間労働者への医師による面接指導制度が導入された

まとめ

労働者の安全と健康を守る義務の指針になるのが「労働安全衛生法」であり、安全衛生管理体制の構築や安全衛生教育、健康保持など多岐にわたります。労働安全衛生法の改正により、労働者の健康管理の面から労働時間管理の義務が定められ、労働基準法では正確な労働時間管理が必要ないとされている管理監督者やみなし労働時間制の労働者にも正確な労働時間管理が必要となりました。法違反とならないよう適正な労働時間管理を行うには厚生労働省が定めているガイドラインに従い、勤怠管理システムを用いた客観的な労働時間の把握や、長時間労働者に対する医師の面接指導を導入する必要があります。

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