
育児・介護休業法で定められた措置を除き、休職制度の導入は義務ではないものの、実際には多くの企業が休職制度を導入しています。
企業には、休職制度の適切な運用が求められています。
休職とは
休職とは、従業員が個人的な事情により就労が困難になった場合に、雇用関係を維持したまま一定期間仕事を休むことができる制度です。休職制度は労働基準法のような法律で定められた制度ではなく、各企業が就業規則を定めて独自に設計できます。人事担当者としては、この柔軟性を生かしながら、企業の実情に即した制度設計を行うことが重要です。
休職の期限
休職期間に法律の定めはなく、個々の企業の就業規則によって期間は異なります。一般的に休職期間の上限は、短い場合で数か月、長い場合で最長3年程度です。期間設定においては、従業員の回復に必要な時間と企業運営への影響のバランスを考慮する必要があります。特に、メンタルヘルス不調による休職の場合、十分な回復期間を確保しつつ、組織への影響を最小限に抑える工夫が必要です。
欠勤との違い
休職は企業が従業員の労働義務を免除する制度であるのに対し、欠勤は労働義務がある状態で従業員が仕事を休むことを指します。
また、欠勤は比較的短期間の突発的な欠務を指すのに対し、休職は長期間にわたり、計画的に取得されるケースが一般的です。
欠勤を巡る問題については、以下の記事もぜひ参考にしてください。
休業との違い
休業は企業側の都合や法令の規定によって従業員に仕事を休ませる制度です。休職は従業員個人の事情に基づく休みという点で大きく異なります。
労働基準法第26条の規定により、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合は、休業手当(平均賃金の60%以上)の支払い義務が生じます。一方、休職の場合は原則として賃金支払義務は発生しません(ノーワーク・ノーペイの原則)。
休業手当については、以下の記事で詳しく解説しています。
休職の主な種類・理由
休職制度には、従業員のさまざまな事情に応じて複数の種類があります。企業は、各休職制度の特徴や適用条件を理解し、適切に運用することが求められます。ここでは、実務でよく見られる休職の種類とその内容について説明します。
私傷病休職
業務・通勤外に生じた病気やけがにより、長期間の治療や療養が必要となった場合に認められる休職です。うつ病や適応障害などのメンタルヘルス不調も含まれます。
なお、業務に起因する病気やけが、または通勤中の事故による休職の場合は、労働災害(労災)の対象となります。
労災については、以下の記事で詳しく解説しています。
事故欠勤休職
「事故」という名称ではありますが、実際は予期せぬ事態により就労が困難になったケースを指します。例えば、なんらかの容疑による逮捕・勾留などが該当します。
自己都合休職
従業員本人の都合による休職で、家族の介護や育児、そのほかやむを得ない私的事情がある場合に認められます。
起訴休職
従業員が刑事事件で起訴された場合に適用される休職です。無罪推定の原則から、判決が確定するまでの間、解雇せずに休職扱いとすることがあります。
組合専従休職
労働組合の専従者として活動する場合に認められる休職制度です。専従期間中は、労働組合から給与が支払われ、企業との雇用関係は休職扱いで維持されます。
公職就任休職
従業員が国会議員や地方議会議員などの公職に就任する場合に認められる休職です。公職への就任期間中、雇用関係を維持したまま職務を離れることができます。
留学休職
従業員が国外の教育機関で学ぶ場合に認められる休職制度です。私費による自己啓発目的の留学と、企業の福利厚生の一環として行われる留学があり、後者の場合は企業から学費や滞在費などが支給されることもあります。
出向休職
関連会社などへの出向に伴い、原籍会社との関係で休職扱いとなるケースです。出向には、出向元企業に籍を残したまま出向先で勤務する在籍出向と、籍自体を移す転籍出向があり、前者の場合に休職扱いとなることがあります。出向期間中の労働条件や給与の取り扱いについては、出向契約で別途定められるのが一般的です。
休職中の給与の取扱い
休職中の給与や各種手当の取扱いは、企業にとって重要な実務上の課題です。「ノーワーク・ノーペイ」の原則を踏まえながらも、社会保険料の徴収や税金の処理など、人事担当者が適切に管理すべき事項は多岐にわたります。ここでは、休職中の給与に関する実務のポイントを解説します。
基本給
休職中は労務の提供がないため、労働基準法第24条で定める「ノーワーク・ノーペイ」(労働なければ賃金なし)の原則により、基本給は支給されないのが一般的です。ただし、企業の規定により、一定期間は給与の一部を支給するケースもあります。
賞与・手当
通勤手当や役職手当、賞与などについても、基本給と同様に支給されないケースが多くあります。ただし明確な規定はなく、個々の企業の規定により異なるため、就業規則の記載内容に応じた対応をとる必要があります。
社会保険料
休職中も社会保険(健康保険・介護保険・厚生年金保険)の被保険者資格は継続します。これらの保険料は、給与の支給の有無にかかわらず、通常通り企業負担分と本人負担分の両方が発生します。
一方、労働保険(雇用保険・労災保険)の保険料は、支給される給与をもとに算出されるため、無給の場合は発生しません。
税金
所得税は給与の支給がない場合、源泉徴収の対象となりません。ただし、住民税は前年の所得に基づいて課税されるため、休職中も納付義務が生じるケースが多いです。
社会保険料と税金は給与から差し引いて徴収されることが一般的ですが、休職中給与の支給がない場合は天引きができません。そのため、あらかじめ休職中の徴収方法についてルールを定めておくことが大切です。
休職中に受給できる手当
休職中は基本的に給与が支給されないため、従業員の生活維持が課題となります。しかし、休職理由や状況に応じて、健康保険や雇用保険から各種手当を受給できる制度が整備されています。ここでは、休職中に従業員が利用できる主な手当制度について説明します。
傷病手当金
健康保険の被保険者が病気やけがで働けない場合に受給できる制度です。支給開始日(休業4日目)から最長1年6ヶ月の期間、直近12カ月の標準報酬月額の平均額の3分の2が支給されます。
傷病手当金の支給条件や支給額については、以下の記事で詳しく解説しています。
労災保険給付
業務災害や通勤災害による傷病の療養のため働けない場合に受給できる給付金です。休業4日目から給付が開始され、休業補償給付(給付基礎日額の約60%)と特別支給金(同約20%)が支給されます。
企業独自の休職手当
就業規則や福利厚生制度として、企業が独自に定める休職手当が用意されている場合もあります。
従業員を休職させる時の企業の対応・注意点
休職制度を適切に運用するためには、申請時から復職までの各段階で、企業には適切な対応と判断が求められます。また、休職者への配慮と円滑な職場復帰の支援も重要な課題です。ここでは、人事担当者が押さえておくべき実務上の対応と注意点を時系列に沿って解説します。
休職申請時
従業員から休職の申し出があった場合、まず就業規則に基づいて休職理由の妥当性を確認します。休職の種類に応じて、必要な証明書類の提出を求めます。私傷病休職の場合は診断書、留学休職であれば入学許可証、公職就任休職では当選証書など、それぞれの事由を証明する書類の提出を求めることが一般的です。
休職が認められた場合は、休職期間や復職要件、休職中の給与・手当の取扱い、社会保険料の支払方法などについて説明します。特に私傷病休職の場合は、産業医との連携体制を整え、傷病手当金の申請準備も行います。
休職に関する情報の取扱いについても、休職の種類に応じて適切に判断する必要があります。特に健康上の理由による休職の場合は、プライバシーの保護と必要な情報共有のバランスを慎重に検討します。
休職期間中
主治医や産業医の意見を取り入れながら、定期的な状況確認と報告体制を整備します。特にメンタルヘルス不調による休職の場合は従業員に過度な負担を与えないよう、連絡手段や頻度について医師の指示に従い配慮します。
休職期間の延長
当初の休職期間を超えて療養が必要な場合、診断書や本人との面談により状況を確認します。就業規則の規定に基づき、期間延長の可否を判断し、必要な手続きを行います。
復職時
復職の可否は、主治医の診断書と産業医の意見を考慮して総合的に判断します。必要に応じて短時間勤務などを活用し、段階的な職場復帰を支援します。
休職期間満了時
復職の目途が立たない場合は、就業規則の規定に従って解雇を検討することもあるでしょう。ただし、労働契約法第16条により、解雇には客観的に合理的な理由が必要とされ、社会通念上相当と認められない場合は権利の濫用として無効となるとされています。
まとめ
休職は、従業員の雇用を守りながら会社の秩序も維持する重要な制度です。休職から復職支援に至るまで、従業員の健康管理に配慮しながら、包括的な管理体制を整備する必要があります。
また、休職制度を適切に運用するためには日頃の勤怠管理が重要です。特に長期休職につながりやすい心身の不調は、出退勤時間の乱れや急な欠勤の増加として現れることが少なくありません。
今後も労働環境や法制度の変化に合わせて、休職制度を柔軟に見直していくことが求められます。従業員の健康と企業の持続的な発展の両立を目指し、適切な休職制度の運用と管理体制の整備を進めていきましょう。
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