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【社労士解説】副業を解禁する場合のメリット、デメリットや具体的な注意点を解説

公開日時:2022.03.14

2017年以降、政府は副業推進、解禁の流れを進め、日本企業の中でも副業を認めるケースが増えています。ただし、副業を解禁するにあたっての社内制度の整備方法やリスクを十分に把握できていないため、解禁を見送っている企業もいまだ少なくありません。今回は将来的に副業を解禁したいと考えている企業の経営者や労務担当者向けに、副業解禁のメリット、デメリットに加え、就業規則を作る際の注意点や法的問題などの疑問に社労士が回答します。
松井 勇策

松井 勇策

社会保険労務士、公認心理師

フォレストコンサルティング経営人事フォーラム代表。情報経営イノベーション専門職大学 客員教授(専門領域:雇用法制度・経営人事実務)名古屋大学法学部卒業後、株式会社リクルートにて組織人事コンサルティング、経営管理部門で上場監査・ITマネジメント等に関わる。その後独立。東京都社会保険労務士会 先進人事経営検討会議議長。
企業の経営や人事制度についての研究、労働法務の問題や法改正への対応、IPO支援、人事制度整備支援、ほかIT/広報関連の知見を生かしたブランディング戦略等を専門にしている。

副業解禁の動向を簡単に教えてください

2017年前後からの副業解禁の流れについて、政府が推進している政策と、日本企業や世界の企業の動向を踏まえて順を追って解説します。

政府の動向

これまでの政策の流れからすると、副業については近年、非常に積極的な政策が取られてきたと言えます。

副業を促進する政策の流れ

・副業解禁が広報される(2017年)
・モデル就業規則が改定、副業を認める方向へ文言が変更(2018年)
・働き方改革関連法で副業を含む多様な働き方の推進(2018年~)
・副業・兼業の促進に関するガイドラインの改定、副業ルールが具体化(2020年)

まず、2017年に「働き方改革」と歩調を合わせて、「副業解禁」が経済産業省から強く広報され、2018年には厚生労働省から提示されているモデル就業規則の改定がされました。結果、服務規律において副業を禁止する趣旨だった条項が書き換えられ、副業を認める方向の文言に変わりました。

その後の「働き方改革」の一連の政策や法改正は、労働時間管理の厳格化やさまざまな立場の方の雇用参加を可能にする制度や法令の集合体であり、「多様な働き方」を可能にする目的が政策の中心課題でした。これは政府が政策として副業を促進するという趣旨を全面的に裏付けるものだと言えます。

最近の2020年から2021年の動きとしては、厚生労働省から出されている副業・兼業の促進に関するガイドライン」が書き換えられ、副業への取り組み方針や管理についてのルールが一層具体的なものとなりました。また、労災保険法が副業者の保障を厚くする方向で改正されています。このほかにも、従業員が個人事業主として独立するような形で副業をすることを、企業が支援するよう促す内容の法改正も進んでいます。

企業の動向

企業の動向としては、近年副業を導入する企業は増加しています。帝国データバンクが2021年に実施した調査によれば副業・兼業を認めている企業は 18.1%で、4年前から増加しています。

副業・兼業の導入状況
副業・兼業の導入状況

規模別では、副業・兼業を認めている割合は、大企業が最も低くなっています。また、副業について「今後も認めない」割合は大企業が最も高く、総じて大企業ほど副業・兼業に慎重な姿勢であることが分かりました。

副業・兼業の導入状況 ~規模別~
副業・兼業の導入状況 ~規模別~

データ引用
Copyright TEIKOKU DATABANK, LTD. All Rights Reserved.

アジア地域・欧米における副業の現状

アジア地域の企業や働く人々に注目すると、日本以上に副業・兼業が進行している現状が見えてきます。
アジア地域では単に収入増を見込める以上の仕事、つまりビジネスをすることへの積極性が顕著です。アジアの各国の企業では、さらなる成長を求め貪欲に仕事を得ようとする積極性があり、個人レベルでも自分ができる事業を見付けてチャレンジしたいという傾向が強いことが伺えます。

ヨーロッパでは各国の法制度や事情により状況は異なり、副業・兼業についてあまり一般的に浸透しているとは言えない国もあります。対して米国では、副業・兼業が広く行われています。このように、国際的に副業・兼業の実施は進んでおり、自己成長のため積極的に副業を行う個人も少なくありません。

副業を認めることのメリット・デメリットは?

社員の副業を認める場合、事業や労務管理に与えるメリットとデメリットの両面を事前に把握しておく必要があります。考えられる具体的なメリットとデメリットをそれぞれ解説します。

メリット

副業・兼業には、企業に与えるプラスの効果が複数あります。

・うまく活用できた場合はイノベーションが促進される

副業・兼業には人材交流によるイノベーション効果が促進されるというメリットがあります。スタートアップ企業同士で人材交流の機会を持ったり、社員が事実上の兼業状態であったりする場合、それぞれの企業の優位性が相乗効果となり新しい製品やサービスが生み出され大きな効果を与えることがあります。

・社員の自立性や視野の拡大などの育成効果

自社外のものの見方を取り入れて仕事に生かせる、副業を通して自ら仕事を取りに行く、自立的に仕事を設計し推し進めていく姿勢が身に付くなど、自立性や視野の拡大の効果があります

例えば、ITエンジニアが副業としてソフトを作って販売したり、専門的な技術を持つ人材が兼業として複数の企業で就業したりというケースでは、自分で仕事を推し進める力がより要求されます。こうした副業・兼業の行動ノウハウが、本業にも良い影響を及ぼすことは十分に考えられます。

・人材流出を防ぐ

副業をしながら働いている優秀人材のニーズを満たすことができれば、仕事へのエンゲージメントが向上し人材流失を防ぐ効果も期待できます。また、収入を補填するタイプの副業でも、本業と良い形で両立できる環境があれば、人材の定着につながります。

デメリット

副業を解禁、制度として導入することで生じる可能性があるデメリットについて詳しく解説します。

・自社での勤務時間が短くなる

社員が副業を行うことで、その分、自社での勤務時間が短くなります。副業・兼業をしている社員に時間外労働をしてもらうことは難しくなり、副業・兼業分の自社の労働力の喪失につながります。

・ワークライフバランスが難しい

社員が副業をすると自社の仕事と合わせた労働時間が増加するので、通算で長時間労働になるだけでなく、体調不良になるリスクもあります。社内施策として副業をうまく運用できなかった場合、組織としての求心力の低下や、生産性の低下が起こることも考えられます。

・労務管理が複雑になる

自社以外の企業に社員が就労することで、労働時間の管理が難しくなります。自社の退勤後に副業先の企業で社員が労働する場合でも、自社で働いた分と副業先の分が1日の労働時間と通算されます。例えば、自社で残業した分の時間が法定労働時間に収まっている場合でも、副業先と通算した場合に法定労働時間を超えていれば割増賃金の支払い義務が発生する場合もあります。

・情報漏えいなどが生じるリスクもある

副業について適切なリスクマネジメント策が整備できていない場合、情報漏えいや権利侵害などが起きるリスクもあります。また、予期せぬ労基法違反や社会保険、税法上の違反事項が起きる可能性もあります。

企業の都合で副業禁止をするのは可能ですか?

2018年の「モデル就業規則」改定で副業を認める方向に文言が変更されて以降、企業が副業を全面的に禁止するのは難しくなりました。副業禁止ができない法的根拠、許可したうえで制限を加える場合の対応を解説します。

法律上は原則禁止・制限はできない

厚生労働省の「モデル就業規則」の改定で「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という一文が削除されました。一方で、副業そのものを規定した法律はなく、憲法が最も根本的な規範となります。

 

日本国憲法第22条第1項「職業選択の自由」

「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」

この条文では、職業選択の自由を保障しています。条件には「公共の福祉に反しない限り」とあり、副業の場合では「企業の利益に反しない限り」と読み替えることができます。

上記を踏まえると、「副業は無条件に禁止されるべきものではない」と言えます。また、2020年9月に改定された「副業・兼業に関するガイドライン」(以下、副業ガイドライン)では基本的な考え方として過去の裁判例を踏まえ、原則として副業・兼業を認める方向とするのが適当であるとしています。副業・兼業を制限することが許されるのは以下の例に限ります。

  1. 労務提供上の支障がある場合
  2. 業務上の秘密が漏洩する場合
  3. 競業により自社の利益が害される場合
  4. 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

「許可なく副業・兼業してはならない」と就業規則に記載する場合は、副業として申請された業務内容をこの①~④に該当するか否かで制限を付けるかどうか判断してください。精査して1から4に該当しないのであれば、企業は希望に応じて副業・兼業を認めていくべきでしょう。

就業規則で副業禁止・許可を定める場合

就業規則で副業について定める場合、「副業ガイドライン」の基準に沿って、企業側で制限が可能なケース①〜④にあたるかどうかをよく考慮しなければなりません。副業を許可する条項を置く場合であっても、安全配慮義務・秘密保持義務・競業避止義務・誠実義務を明確にしておくことが重要です。

まずは就業規則で会社として守って欲しい副業に関する決まりを記載しましょう。このほか、社員の副業開始時に、誓約書などを交わし、副業・兼業を認めても生産性低下が生じないようにする具体的な手段や、法的な合意を文書化しておくのも重要です。

文書に記載・合意しておく内容例

・就業規則に重ねて競業避止、秘密保持義務等の事項を記載
・生産性低下を防止するために以下を記載、または合意する
(1)副業先の勤務日数や勤務時間を伝える
(2)人身傷害の恐れや夜勤のないこと
(3)定期的な現場上長との面談を実施すること
(4)健康診断を受診すること

副業を許可する場合に注意しなければならない点は?

前述した「副業ガイドライン」では、副業に関する制度の趣旨や、企業が制度設計するうえで基本となる考え方もはっきりと提示されています。特に注目すべきは「企業と労働者の双方が納得して副業を進めるために、十分にコミュニケーションをとることが重要である」という点です。

社員それぞれの業務や生活の状態・副業を行いたい理由をアンケートや聞き取りなどで把握し、その情報にもとづいて実情にあった制度を構築することが重要です。収入を補填する副業へのニーズが強い企業や、技術を生かしたダブルワークがしやすい環境の企業など、状況は千差万別であるため、まずは自社の副業ニーズを丁寧に把握してください

労働時間の通算

副業で特に注意しなければならない労務管理が、労働時間の通算に関するものです。原則となる労働時間の考え方として、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」(労働基準法38条1項)という「労働時間の通算制」が原則です。

本業と副業で通算した労働時間が法定労働時間を超える場合、割増賃金の負担は以下のようにまとめることができます。

  1. まず労働契約の前後の順に所定労働時間を順次合算していき、法定時間外労働が発生した企業が割増賃金を負担するものとする。
  2. その当該の1日の労働の前後の順に所定外労働時間の発生順に合算していき、同様に、法定時間外労働が発生した企業に割増賃金の支払い義務があるとする。

1.の労働時間の通算と割増賃金の負担
A社の所定労働時間:6時間
B社の所定労働時間:4時間

先に労働契約を結んだA社で日中6時間働き、B社で夜4時間副業として働いた場合、後から労働契約を結んだB社が法定労働時間を超えた分の2時間の割増賃金の支払い義務を負う

2.の労働時間の通算と割増賃金の負担(所定外労働時間の発生順の合算)
A社の所定労働時間:6時間
B社の所定労働時間:4時間

A社で1時間残業をし、副業先B社で4時間働いた場合、B社と通算した労働時間が法定労働時間(8時間)を超えているため、1時間分の割増賃金の支払い義務はA社にある。B社で発生した2時間分の割増賃金は1のケースと同じくB社が負担する。

このほか、労働時間は、労働者が申告するとガイドラインに記載されています。企業としては労働者に申告するように伝える必要があります。また、申告は毎日でなくても、週次や、1か月に1回などの頻度で良いとされています。

ただし、労働者の申告にもとづく労働時間は本業と副業の前後関係が複雑だと間違ってしまう可能性が高くなります。この問題に対応するためガイドラインにより新たに「より簡易な管理モデル」が提示されました。

副業中に発生した通勤災害・業務災害の取り扱い

2020年9月から労災保険法が改正施行されました。従来の労災保険については、本業と副業の両方の会社で労災保険に加入し、いずれかの会社で労災事故が起こった場合、その会社の労災保険のみが適用となるため、労災補償額が低くなることがありました。

改正により、労働災害が起きていない事業場の労災保険も合算で適用されることになりました。また、労災自体の判断においても、複数の事業場の業務の負荷を総合的に判断することになっています。

たとえば、副業先Aから副業先Bに向かう途中の事故については、B社への通勤途中となりますのでB社において労災認定がされます。ただし労災によって補償される給与額は法改正により、A社とB社の両方の企業の給与額を算定の基礎として計算します。

副業制度に活用できる助成金はある?

副業に生かせる助成金や補助金は数多くあります。有効活用することで、イノベーションをさらに推し進める戦略的な投資や資金調達を行うことも可能になります。

今回は、地方での副業についての助成金から、厚生労働省の比較的新しい助成金を3種類、それ以外にも補助金を紹介しています。出向などの場合が主ですが、後述する「産業雇用安定助成金」が2021年に開始されています。2022年も存続する見通しです。

このほか、企業向けではありませんが、副業を通じて事業を行う人が使いやすい助成金についても触れます。助成金・補助金は年によって制度が変更されるため、最新情報を常に把握して活用してください。

地方公共団体の、地方の企業で副業を行うことに対する助成金

副業に関連する助成金として「副業人材を雇用したら出る助成金」は、地方公共団体において、主に地方創生やUターン就職の勧奨などを目的として設定されている場合があります。政府から、2020年に約1000億円の地方創生推進交付金を活用し、1人当たり年間50万円を上限に3年間で最大で150万円を支給することを想定している旨の方針が示されました。この方針に沿う形で、各地方自治体で、交通費の支援などの制度が設けられているケースがあります。メリットは大きいですが時限的な施策であることが多く、地域によって要件が違うため、よく内容や期限を確認しましょう。

一例として、熊本県が実施している「熊本県地域外副業・兼業人材活用促進事業費補助金」などがあります。

働き方改革推進支援助成金

事業の効率性向上のために使えるのが働き方改革推進支援助成金です。2022年度のこの助成金の正式な発表は4月以降となるためまだ最新の情報がありませんが、実施自体は決定していると考えられます。

事業の効率性向上のための機器の購入や、主に労働時間管理等のルール整備のためのコンサルティングへの投資費用に対して助成が行われる助成金です。社外の副業を生かすための機器の購入や、副業を含めた時間管理を行うためのシステムの導入などの助成が認められる可能性があり、副業を通じた施策について一層の効果の向上が図ることができます。

申請時には36協定の制定の確認やその他帳簿の確認など、細かい要件があるため社会保険労務士等の専門家に、申請支援を依頼するとよいでしょう。

副業・兼業労働者の健康診断助成金

独立行政法人労働者健康安全機構による助成金で、複数の会社で働く人の健康管理への取り組みを促すために設けられています。副業は法定労働時間以上の長時間労働を前提としている場合も多く、副業者自身や企業側での健康管理が重要です。上限は1労働者あたり1万円、1事業場あたり 10万円です。健康診断費用が助成されるため、副業中の社員の健康管理のために導入するとよいでしょう。

産業雇用安定助成金

産業雇用安定助成金は、他の企業への出向を労働者に指示し労働者も同意をし、一定期間の出向の後に復職させることを約束している「在籍型出向」を行うことが要件となっている助成金です。新型コロナウイルス感染症によって売上や生産量が落ち込み、雇用調整に踏み切らざるを得なくなった事業主の支援が目的です。

副業のために作られた助成金ではありませんが、助成金の条件として、ある日は出向元企業に出勤し、ある日は出向先企業に出勤する、一種の副業のような「部分出向」も助成金対象となる出向として認められています。

副業を行う個人向けの補助金など

副業を行う方で、特に個人事業を行う場合に生かせる補助金や助成金もあります。社員が副業を行うことによるイノベーション創出や事業への相乗効果を狙うことが副業制度の目的である場合、副業をする十分な環境を整備することで、より相乗効果が高くなり得る場合もあります。これらの補助金の活用を従業員に促すことも検討してみてください。

個人事業主向けの補助金の例

・小規模事業者持続化補助金
・IT導入補助金
・創業に関する補助金(助成金という名称のものもある)

まとめ

2017年から政府は副業推進、解禁の流れを進めており、企業も人材獲得やイノベーション促進の面から副業を認め、制度を導入するケースが増えています。厚生労働省の「副業・兼業に関するガイドライン」が改定されてから、副業を完全に禁止することは原則できなくなり、副業が促進される流れがさらに強まってきています。

ただし、情報漏えいや労務管理、社員の健康問題への懸念から副業を促進するのが難しい企業があるのも事実です。その場合、就業規則などで制限を設けたり、他社で副業をする場合の合意事項を設けたりと、限定的な形で副業を認める方法もあります。また、副業を制度として導入する場合は自社の副業ニーズを把握したうえで、労務トラブルにつながらないよう、留意すべき点を把握し事前に対策を講じることが重要です。社員から副業の希望があった場合は、副業を許可した場合の労働時間の通算、健康管理の方法などを考慮したうえで、自社で可能な副業の在り方や許可する範囲について検討しましょう。

※本記事は2022年2月時点の情報を基に作成しています。

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