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従業員がコロナウイルスに感染したことを申告せず、問題が起きた場合、会社側に罰則はあるのでしょうか?

明確な罰則はありませんが、コロナウイルスに感染した場合の申告制度を定めていなかった場合、安全配慮義務違反になる可能性があります。
公開日時:2022.11.29 / 更新日時:2023.01.06
詳しく解説

Q. 従業員がコロナウイルスに感染したことを申告せず、クラスターなどの問題が起きた場合、会社側に罰則はあるのでしょうか。また、従業員に対して処罰は可能ですか?

200人規模の情報通信業界の人事担当です。最近のニュースで、コロナに感染しても会社に申告しない従業員の割合が3割程度もいることを知りました。

自社はテレワークとオフィスワークのハイブリットワークを導入しており、従業員の働く様子を完全に理解できていない部分があります。もしかしたら、自社にもコロナに感染したにもかかわらず、報告をしないで働いている従業員がいるのではないか。もしそんなことがあれば、会社への影響や被害があるのではないかと不安になりました。

万が一自社に、コロナに感染したにもかかわらず申告しなかった従業員によって問題が起きた場合、会社側に何か罰則はあるのでしょうか。また、そのような従業員に対して処罰は可能なのでしょうか?

A. 特に明確な罰則はありません。ですが会社側が感染した場合の申告制度を定めていなかった場合、安全配慮義務違反になる可能性があります。従業員への処罰は、就業規則上の懲戒事由に該当すれば、懲戒処分の対象になり得ます。

従業員がコロナウイルスの感染を申告しなくても、会社に明確な罰則はありません。しかし、会社側がコロナウイルスへの感染防止対策や、感染した場合の制度制定を怠り、従業員をコロナに感染させた場合には安全配慮義務違反となります。また、その際には従業員に損害賠償を請求される可能性があります。

コロナウイルスに感染した場合の申告制度を会社が明確に規定しているにも関わらず、従業員が申告せずにクラスターなどの問題を起こした場合は、就業規則違反として責任を問うことが可能です。もしコロナ感染の不申告が、就業規則上の懲戒事由に該当すれば、懲戒処分の対象にもなり得ます。

安全配慮義務違反とは

安全配慮義務とは、労働契約法第5条に「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定されています。

安全配慮義務違反の有無を争点としたシステムコンサルタントの死亡事件(判決決定日1999年7月28日)の判例において、裁判所は会社側に「労働時間、休憩時間、休日、休憩場所等について適正な労働条件を確保し、さらに健康診断を実施した上、労働者の年齢、健康状態等に応じて従事する作業時間及び内容の軽減、就労場所の変更等適切な措置を採るべき義務を負う」と言い渡しました。

上記の判例で示された安全配慮義務の定義から、以下の内容が会社として守るべき義務と言えます。これらを遵守していない場合は、安全配慮義務違反に該当する可能性が高いでしょう。

会社が遵守すべき安全配慮義務

  • ・労働時間の管理
  • ・休憩時間、休日、休憩場所の確保
  • ・定期的な健康診断の実施
  • ・労働者の年齢、健康状態に応じた作業内容の検討、就労場所の変更

上記判例の他、安全配慮義務違反とされた2つの判例を紹介します。

  • 新人研修の一環で、Aさんが歩行訓練をした際に両足を痛めたため、病院の受診を希望したが拒絶された。さらに訓練参加を強制され、後遺症が残ってしまった事件
  • 厳しいノルマや経費削減により、1か月の残業の平均時間が135時間に達し、うつ病の発症や身体表現性障害との診断がなされた。さらに、会社が本人に対して不当な扱いをしたため病状が悪化してしまった事件

 

安全配慮義務違反とされた場合、従業員側から賠償請求をされることもあります。

従業員と会社を守るために、安全配慮義務の内容は把握しておくべき重要事項であり、徹底した取り組みが必要です。

コロナにおける安全配慮義務とは

コロナ禍における安全配慮義務への取り組みとしては、以下のような例が挙げられます。

ただし、これらの対策を制定するだけではなく、従業員への周知徹底も必要です。

コロナにおける安全配慮義務を考慮した対策

  • ・従業員同士や来客との身体的距離を確保する
  • ・定期的な換気、消毒
  • ・従業員の体温・体調管理
  • ・感染申告制度の策定
  • ・コロナ感染者が出た場合の業務フローなど、社内ルールの策定
  • ・テレワークの導入
  • ・人混みを避けた時差通勤
  • ・コロナウイルスの流行地域に出張をさせない

会社は安全配慮義務として、生命、身体などの安全確保を前提とした労働環境を整備する必要があり、コロナウイルス感染防止も例外ではありません。

そのため、職場での感染予防に留まらず、二次感染防止などの対策を行う必要もあります。

安全配慮義務を怠ると、社内でクラスターの発生や取引先を感染させてしまうなど、二次感染発生のリスクがあります。さらに、他の従業員に対する安全配慮義務違反となったり、取引先に迷惑が生じて今後の関係にも影響を及ぼしたりする可能性があるため、十分な注意が必要です。

また、クラスターの発生規模によっては、営業停止を余儀なくされる場合があるため、自社でも想定して事前の対策を徹底することが重要です。

コロナ感染を申告しない従業員は約3割

コロナ感染の申告者の割合について、株式会社ライボが2022年7月に835人の20代~50代の社会人男女を対象に実施した「2022年 コロナ感染に関する意識調査」があります。その結果において、コロナ感染を報告していない人の割合は約3割に上りました。また、感染未経験者や、感染を疑う症状がなかった人のうち、5.6%が今後感染しても申告する予定はないと回答しています。

しかし、会社の就業規則にコロナウイルス感染時の申告義務規定がある場合、フルリモート勤務だったとしても従業員が就業規則違反の責任を問われる可能性があります。ただし、就業規則に申告ルールが規定されていなければ、特に責任を問われることはないでしょう。

同調査によると、「申告しない」回答の理由は「フルリモートワークなので、言わなくても良いという考えのため」がトップで36.1%、次いで「申告すると手続き等が面倒くさそうだから」が27.9%でした。続く3位は「休まざるを得ず業務に支障をきたすから」で23.0%となっています。

これらへの対処としては「申告しなかった場合は就業規則違反にあたり、罰則対象となる」のような申告制度を策定し、定期的かつ徹底した社内周知が必要です。ただし、申告制度を策定する際には、コロナ感染者に対する差別がなされないよう、プライバシー保護の配慮が不可欠です。

感染の申告ルール制定のポイント

コロナに感染した従業員の不申告による、さまざまなアクシデントを予防するためにも、コロナ感染の申告ルールを制定しましょう。また、現時点で基本的な感染防止策を行っていない場合には、基本的な対策も並行して実施する必要があります。

申告制度の制定には、「自己保健義務」に基づいた就業規則を制定する方法があります。自己保健義務とは、労働安全衛生法第66条5項、第66条の7の2項、第69条2項を根拠にした「自身の健康維持に努める必要がある」という労働者の義務を指します。これに基づき、健康に支障をきたした場合は、会社に速やかに報告するといったルールの制定が可能です。

さらに、従業員が報告する必要の有無の判断に迷った場合、対応する相談窓口の設置も重要です。先のアンケート結果で、「申告しない」と回答した人のうち、「手続き等が面倒そうだから」という回答が約3割ありました。そのため、手続きの方法を明確化し、日頃から周知を行う必要があります。

まとめ

本記事では、従業員がコロナウイルスに感染した場合の対応策や、会社側に求められる安全配慮義務、従業員側の不申告を防止するルール制定のポイントについて解説しました。

従業員がコロナウイルスの感染を申告しなかったことにより、感染拡大などの問題が発生しても、会社側に明確な罰則はありません。

しかし、会社がコロナウイルスの感染対策を怠ると、安全配慮義務違反として損害賠償を請求される場合があるため、感染リスクを最小限に抑える取り組みが必要です。

その対策の一つとして、従業員の不申告を防止するために、明確な申告ルールを定めることが有効でしょう。

申告ルールを定める際には、感染者への差別をなくすため、従業員のプライバシーに配慮しつつ、自己保健義務に基づいて就業規則として制定しましょう。同時に、相談窓口の設置や徹底した周知が求められます。

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