
本記事では、ICカードを利用した勤怠管理の基本からメリット・デメリット、導入時の注意点まで、人事担当者が知っておくべき情報を解説します。
勤怠管理の基本については、以下の記事をご覧ください。
勤怠管理とは?客観的記録を残す目的や必要性、方法などを徹底解説
ICカードを利用した勤怠管理とは
ICカードを利用した勤怠管理とは、ICチップが埋め込まれたカードとカードリーダーを使用して、従業員の出退勤時間を正確に記録・管理するシステムです。従来のタイムカードや紙ベースの管理と比較して、データ改ざんの防止や集計作業の効率化などの利点があります。
ICカードを利用した勤怠管理の仕組み
従業員は出社時と退社時にICカードをカードリーダーにかざして打刻を記録します。また、打刻記録は一般的には勤怠管理システムで収集して利用することが多く、残業時間や休憩時間の計算、有給休暇の管理なども含めて、給与計算や労務管理に活用できます。
ICカードの種類と特徴
勤怠管理で使用されるICカードには、主に接触型と非接触型があります。現在は操作性と利便性の高さから非接触型が主流になっています。特に、交通系ICカード(Suica、PASMOなど)にも採用されているFeliCa規格が普及しています。
接触型ICカード
- 物理的な接触が必要で、読み取り装置に挿入して使用
- セキュリティ性が高い
- 経年劣化により接触不良が起きることがある
非接触型ICカード
- リーダーにかざすだけで情報を読み取り可能
- 使い勝手が良く、打刻ミスが少ない
- 代表的な規格としてFeliCa(フェリカ)やMIFARE(マイフェア)がある
ICカードを利用した勤怠管理システム導入のメリット
ICカードを利用した勤怠管理システムの導入は、人事部門の業務効率化だけでなく、企業全体のコンプライアンス強化や従業員の公平な労務管理にも貢献します。ここでは、多くの企業が実感している具体的なメリットを解説します。
出退勤記録の正確性向上
ICカードによる打刻は、従業員自身が実際にカードリーダーにカードをかざす必要があるため、代理打刻などの不正行為を防止できます。また、正確な時刻記録が可能となり、労働時間の把握精度が向上します。
最新のICカードを利用した勤怠管理システムでは、二重打刻防止機能、異常値アラートなどの不正防止機能が充実しています。また、就業規則に基づく自動丸め計算、実労働時間と管理時間の明確な区別、法定労働時間を超える勤務の自動検知機能により、労働時間記録の精度向上に貢献します。
ICカードの多目的活用と既存カード連携によるコスト効率
社員証や職員証としてICカードを活用することで、複数のカードを持ち歩く必要がなくなり、従業員の利便性が向上します。1枚のカードで入退室管理、勤怠管理、社員食堂の精算など複数の用途に対応できるため、カード管理の手間を大幅に軽減できます。
また、交通系ICカード(FeliCa規格)を勤怠管理にも利用できるシステムを選ぶことで、専用カードの発行コストを削減できます。従業員は普段から持ち歩いている交通系ICカードをそのまま使用できるため、カードの紛失リスクも低減され、再発行コストの抑制にもつながります。特に大規模な企業では、カード発行コストの削減効果が大きく、導入コストの回収を早めることができます。
人事・労務管理業務の効率化
出退勤データの自動集計により、従来手作業で行っていた勤怠集計業務が大幅に効率化されます。特に中堅・大手企業では集計作業の工数削減効果が顕著で、人事部門の業務負担を軽減できます。
ICカード方式は物理的な打刻記録として客観性が高く、勤怠データの信頼性向上により、給与計算前の確認作業や修正作業も最小限に抑えられます。
法令遵守の強化
2017年1月に策定された「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、客観的な方法による労働時間の把握が求められています。ICカードを利用した勤怠管理は、このガイドラインに準拠した労働時間管理を実現する方法のひとつです。
特に2019年4月からは、管理監督者等を除く全従業員の労働時間把握が義務化され、より厳格な管理が求められています。タイムカードやICカードによる客観的な記録は、労働基準監督署の調査時にも信頼性の高い証拠として活用できるため、法令遵守体制の強化につながります。
多様な勤務形態への対応
フレックスタイム制や変形労働時間制など、複雑な勤務形態にも柔軟に対応可能です。システム設定により、各従業員の勤務体系に応じた適切な労働時間計算を自動化できます。同一企業内で正社員、契約社員、パート社員など異なる雇用形態や、事業部ごとに異なる勤務体系が混在する場合でも、システム上で従業員属性ごとのルール設定が可能です。
多様な勤務形態については、以下の記事もあわせてご覧ください。
データ連携と分析の容易さ
勤怠データを人事システムや給与計算システムと連携させることで、データ入力の二重作業を排除できます。また、蓄積されたデータを分析することで、業務効率化や人員配置の最適化につながる有益な情報を得られます。例えば、部署別・時間帯別の残業傾向を分析することで、業務量の偏りや特定時期の人員不足を可視化し、適切な人員配置や業務プロセスの改善が可能です。
ICカードを利用した勤怠管理システム導入の注意点
ICカードを利用した勤怠管理システムには多くのメリットがある一方で、導入時に考慮すべき課題もあります。スムーズな導入と運用のために、事前に以下の点に注意して準備を進めましょう。
初期導入コストの検討
ICカードを利用した勤怠管理システムの導入には、ハードウェア費用(ICカードリーダー、ICカード発行費用)、ソフトウェア費用(システム導入・設定費用)、およびネットワーク環境整備や従業員教育などの追加コストが発生します。特に複数拠点がある企業では、リーダー設置台数に応じて費用が増加するため、投資対効果の見極めが重要です。
導入コストは企業規模や選定するシステムによって異なります。中長期的な人件費削減効果や労務リスク低減効果と比較し、適切な投資判断を行いましょう。
ICカード紛失・破損時の対応
従業員がICカードを紛失・破損した場合の対応フローを事前に整備しておく必要があります。代替カードの発行手続きや仮打刻の方法など、緊急時の運用ルールを明確にしましょう。
具体的な対応策の例
- 仮カードの即時発行:各拠点でICカードを即時発行できる体制を整える
- 代替打刻方法の用意:管理者による代行打刻機能や、一時的なPINコード入力による打刻など
- 紛失・破損時の罰則規定の整備:悪用防止のため、社内規則に明記する
- セキュリティ対策:紛失報告を受けた時点で即時に旧カードを無効化する機能を整える
システム障害への備え
勤怠管理は日々の業務に直結するため、システム障害対策は重要です。オフライン対応機能(一時的な通信障害時のデータ保存機能)やバックアップ電源(UPS)の設置を検討しましょう。また、完全なシステムダウン時に備え、手書き記録用紙の準備や代替打刻方法の策定も必要です。クラウドサービス導入時はSLA(サービスレベル合意)やバックアップ体制を事前確認し、障害発生時の連絡体制や復旧手順をマニュアル化しておきます。これらの準備を整えることでトラブル時の混乱を最小限に抑えられます。
従業員教育の必要性
新システム導入時には、全従業員への操作方法の説明や運用ルールの周知が必要です。これまで紙やタイムカードで管理していた企業では、変更に伴う抵抗感を軽減するための丁寧な説明が求められます。特に高齢の従業員や変化に抵抗感を持つ従業員に対しては、個別フォローを行うことで導入の障壁を下げられます。
ICカードによる勤怠管理とほかの打刻方法の比較
勤怠管理システムの打刻方法は、ICカード以外にも生体認証やスマートフォンアプリなど、さまざまな選択肢があります。自社の状況に最適な方法を選ぶため、それぞれの特徴とメリット・デメリットを比較してみましょう。
勤怠管理で重要な「打刻」については、以下の記事もあわせてご覧ください。
生体認証との比較
指紋や静脈などの生体認証は、カード紛失のリスクがなく、なりすまし防止効果が高いというメリットがあります。一方、ICカードは生体認証と比較して導入コストが低く、従業員のプライバシーへの配慮という点で受け入れられやすい傾向があります。
項目 | ICカード | 生体認証 |
初期コスト | 中程度(カード作成費用が必要) | 高い(専用端末が高額) |
読み取り機 | タイムレコーダーやICカードリーダー | 生体認証デバイス(指紋、静脈、顔) |
運用コスト | 機器の保守費用、カード紛失時には再発行費用 | 機器の保守費用以外はほぼなし |
なりすまし防止 | カード貸借による不正の可能性あり | 防止効果が非常に高い(生体情報は複製困難なため) |
プライバシー面 | 運用方式によって、カードの携帯・管理が必要 | 生体情報提供への抵抗感がある場合も |
使用感 | かざすだけで簡単 | 気温や湿度等の環境要因による認証エラーが発生する場合あり |
導入実績 | 非常に多い | 増加傾向だが比較的少ない |
スマートフォンアプリとの比較
スマートフォンアプリでの打刻は、場所を選ばず打刻できる利点がありますが、不正打刻のリスクも存在します。ICカードは物理的な打刻が必要なため、確実な労働時間の把握が可能です。テレワークと出社が混在するハイブリッドワーク環境では、ICカードとスマートフォンアプリを併用する企業も増えています。
項目 | ICカード | スマートフォンアプリ |
確実性 | ネットワークが不通でも打刻可 | ネットワークが不通の場合打刻不可 |
正確性 | 機器の設置場所でしか打刻ができないため、客観的で正確 | どこでも打刻できてしまうので正確性が低い |
初期コスト | リーダー設置費用が必要 | ほぼなし(個人または会社貸与のデバイス活用) |
使い勝手 | カードをかざすだけで簡単 | アプリの起動や操作が必要 |
オフライン対応 | カード情報の記録が可能 | 基本的に不可(対応しているアプリもあり) |
テレワーク対応 | 不向き(一部のアプリで対応) | 非常に適している |
システム選定のポイント
ICカードを利用した勤怠管理システムを導入する際は、自社の勤務体系や組織構造に合ったシステムを選定することが重要です。失敗しない選定のために特に注目すべきポイントを以下にまとめました。
勤怠管理システムの導入ポイントについては、以下の記事もあわせてご覧ください。
自社の勤務体系・雇用形態との適合性
フレックスタイム制や変形労働時間制、裁量労働制など、自社の勤務体系や雇用形態に対応可能なシステムを選ぶことが重要です。特に複数の勤務形態が混在する企業では、各雇用形態に応じた労働時間計算ルールや締日設定、残業計算などが柔軟に設定できるかを確認しましょう。
選定の際は、シフト選択機能の有無も確認するとよいでしょう。この機能があれば、従業員は出勤時にICカードをかざした後、その日のシフトをリーダー上で選択できます。シフト変更時に都度届出申請を提出する手間が省け、急な予定変更にも柔軟に対応できます。
また、シフト勤務や時差出勤、時短勤務など特殊な勤務パターンへの対応や人事異動や組織変更時の設定変更の容易さも重要なポイントです。
既存システムとの連携
人事システムや給与計算システムとの連携は重要な選定ポイントです。データ連携方法(リアルタイム連携、バッチ処理など)や連携形式(API連携、CSV/Excel入出力、専用連携モジュールなど)が自社環境に適しているかを確認しましょう。
特に給与計算との連携では、各種手当や控除項目の計算ロジックとの整合性やマスタ情報(社員情報、部署情報など)の一元管理方法についても検討が必要です。既存システムのベンダーへの確認や必要に応じて連携テストを実施することで、導入後のトラブルを防止できます。
サポート体制の充実度
導入時のサポートだけでなく、運用開始後のトラブル対応や制度変更時の設定変更など、継続的なサポート体制が整っているかを確認しましょう。特に労働関連法規の改正に迅速に対応できるシステムを選ぶことが重要です。
リーダー機器の故障時のサポート体制も重要な選定ポイントです。修理対応には主に「オンサイト保守」と「センドバック保守」の2種類があります。オンサイト保守では技術者が現地に訪問して修理を行うため、迅速な復旧が可能です。一方、センドバック保守では機器を製造元や販売元に送付して修理を行うため、発送から返却までの期間は代替機が必要になります。勤怠管理は日々の業務に直結するため、故障時の対応スピードと代替機の有無を事前に確認しておくことで、業務への影響を最小限に抑えられます。
勤怠管理システムのサポートについては、以下の記事もあわせてご覧ください。
拡張性と将来性
将来的な組織変更や事業拡大、新たな勤務制度の導入などに柔軟に対応できるシステムを選ぶことが重要です。マスタ設定やユーザー権限の追加・変更のしやすさ、モジュール単位での機能拡張の可否、カスタマイズの柔軟性などを確認しましょう。
リーダー機器自体の拡張性も重要な選定ポイントです。最新のタイムレコーダーは単なる打刻機器ではなく、多機能端末として活用できます。例えばアマノのリーダーでは、勤怠打刻に加えて、シフト選択や時間外勤務の申請、半休取得の申請などの各種届出機能を備えています。さらに、お弁当の注文といった付加的なサービスにも対応可能です。特に、製造現場や小売店舗など、従業員全員にPCやスマートフォンを貸与できない環境では、機器を多機能端末として活用することで、業務効率化と従業員の利便性向上を同時に実現できます。
また、法改正や新しい働き方(リモートワーク、ジョブ型雇用など)への対応状況やベンダーの開発ロードマップ、サポート期間も重要な判断材料となります。
システム導入の流れ
ICカードを利用した勤怠管理システムの導入は、計画的に進めることで混乱を最小限に抑え、スムーズな移行が可能です。一般的な導入プロセスを段階ごとに解説しますので、導入計画の参考にしてください。
現状分析と要件定義
自社の勤務体系や就業規則、現行の勤怠管理の課題を整理し、新システムに求める要件を明確にします。労働時間管理の実態調査や問題点の洗い出し、部門ごとの特殊な勤務ルールの確認も行いましょう。法令遵守や業務効率化などの目的に応じて優先順位を決め、「絶対に必要な機能」と「あれば便利な機能」を明確に区別することで、要件定義の精度が高まります。
システム選定と導入計画
複数のシステムを比較検討し、自社に最適なシステムを選定します。選定後は具体的な導入スケジュール(マスタ設定、テスト、移行準備、本番稼働など)や移行方法、従業員への周知計画などもあわせて策定します。特に予算や人員配置、関連部署との調整スケジュールを明確にしておくことが重要です。
テスト運用と従業員教育
本格導入前に一部門でのテスト運用を行い、課題を洗い出します。勤務パターンごとの計算ロジック検証や、異常値の検出精度確認、既存システムとの連携テストなど、多角的な検証が必要です。
リーダー機器の導入時には、実際のカードと機器を使用した打刻テストを実施することが重要です。出勤・退勤、休憩開始・終了などの基本操作だけでなく、遅刻や早退、直行・直帰など特殊なケースの打刻方法も確認しておきましょう。また、複数の機器を設置する場合は、すべての機器で同一の設定と動作が保証されているかを検証することも必須です。
従業員教育においては、操作方法だけでなく打刻の意義についても説明し、マニュアルの作成や実機を使った研修会を実施することで、スムーズな移行を促進できます。
本格導入と運用定着
テスト結果を踏まえて本格導入し、運用ルールの浸透を図ります。初期段階では旧システムとの並行運用やヘルプデスク体制の強化などのサポート対策も検討しましょう。導入後は定期的に運用状況を確認し、必要に応じてルールやシステム設定の見直しを行います。
アマノでは、ICカードの発行サービスも承っております。詳しくは次の資料をご参照ください。
まとめ
ICカードを利用した勤怠管理システムは、正確な労働時間の把握や業務効率化、法令遵守の強化など、現代の人事労務管理に求められる多くの課題解決に貢献します。導入に際しては、自社の勤務体系や組織規模に適したシステムを選定し、従業員への丁寧な説明と段階的な移行を行うことがポイントです。
労務管理の厳格化や働き方の多様化が進むなか、システムの導入は、人事部門の業務効率化だけでなく、企業全体の生産性向上と従業員の働きやすさにもつながる重要な取り組みといえるでしょう。
ICカードを利用した勤怠管理システムのラインナップが豊富
アマノではICカードを利用できる勤怠管理システムを豊富にご用意しております。もちろんICカードと併用してスマホやPCの打刻も可能ですので、出社する場合はICカードを利用して打刻、テレワークではPCで打刻のように環境に応じて使い分けが可能です。その他にも社員証や職員証の作成も承っております。詳しい内容は以下のリンクからご確認下さい。