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来春施行の労働時間上限規制・年休取得義務化等への実務対応

公開日時:2018.10.24 / 更新日時:2022.03.09

働き方改革関連法は2019年4月より順次施行されます。今回はその中でも真っ先に対応が求められる労働時間関係の改正について、その実務対応のポイントを取り上げます。
大津 章敬 氏

大津 章敬 氏

社会保険労務士

社会保険労務士法人名南経営 代表社員/株式会社名南経営コンサルティング 取締役

従業員と企業の双方が「この会社で良かった」と思える環境を実現する人事労務コンサルタント。企業の人事制度整備・就業規則策定など人事労務環境整備が専門。中でも社会保険労務士としての労働関係法令の知識を活かし、労働時間制度など最適な制度設計を実施した上で、それを前提とした人事制度の設計を得意とする。「中小企業の「人事評価・賃金制度」つくり方・見直し方」(日本実業出版社)など18冊の著書を持つ。

はじめに

いよいよ来春から話題の働き方改革関連法が施行されます。この法律は労働基準法をはじめとした8つの法律から構成されていますが、その主要事項の施行スケジュールは図表1「働き方改革関連法施行スケジュール」のとおりとなっています。

企業の人事管理に大きな影響が予想され、労使での十分な議論が必要な同一労働同一賃金については2020年4月の施行とされていますが、それ以外の多くの事項については2019年4月から施行されます。但し、労働時間上限規制と同一労働同一賃金については中小企業に与える影響が大きいとして、それぞれ施行時期が1年延期されています。

最優先で対応が求められる事項と労働時間上限規制への最低限の対応

今回の法改正は非常に広範に亘りますが、すべての企業に共通して最優先で対応が求められる事項ということで考えると以下の3点に絞られます。

  1. 年次有給休暇の取得義務化の対応
  2. 新36協定への対応(中小企業は2020年度より)
  3. 労働時間把握強化への対応

このように書くと、今回の法改正で目玉とされる労働時間の上限規制への対応についてどのように考えるのかという意見があるのではないかと思いますが、実は労働時間の上限規制の影響を受ける企業というのは実際にはそれほど多くありません。今回の労働時間の上限規制の主要な内容は以下のとおりです。

  1. 特別条項を締結する場合においても、上回ることができない年間の時間外労働時間を1年720時間とする。
  2. ①の1年720時間以内において、一時的に事務量が増加する場合について、最低限、上回ることのできない上限(法定休日労働を含み、単月では100時間未満、2~6ヶ月平均では80時間以内)を設定する。

過重労働対策は既に多くの企業で進められていることから、この基準を超えた過重労働をしている従業員というのは実はあまり多くありません。もちろん特定の従業員について発生する可能性があるということがあるかも知れませんが、それは個別に業務設計の見直しを行うなどの対策を進めることが重要であり、全社の労働時間管理自体を見直すという話ではありません。

よって、今回の労働時間上限規制については「月80時間を超えるような時間外・休日労働をさせない」、「週1回の法定休日は確実に取得させる」という労働時間管理の基本の基本を徹底することがまずは重要であると言えます。

最優先対応事項①「年次有給休暇の取得義務化の対応」

それでは以下では最優先対応事項である3つのテーマについて順番に取り上げて行きましょう。まずは年次有給休暇の取得義務化への対応です。

年次有給休暇は、原則として入社6ヵ月後に10日が付与され、その後、毎年徐々に付与日数が増え、最大20日が付与されることとなっています。また週所定労働日数が少ないような従業員については比例付与といって、所定労働日数に対応した日数の年次有給休暇が付与されています。これまではその取得は従業員に委ねられており、結果的に1日も取得されていないとしても法的には特に問題はありませんでした。

しかし、2019年4月以降に付与される年次有給休暇からは、その付与日数が10日以上の労働者に対し、年次有給休暇のうち5日については、付与日から1年以内の期間に、なんらかの方法により取得させなければならないとされました。

この改正に対する対応ですが、①取得促進策と②管理方法の両面からの検討が求められます。

①取得促進策

法律の条文を読むと、会社が5日の時季指定をすることが原則と定められていますが、実務としてはまずは各従業員の自主的な取得を促すことが基本となるでしょう。夏休みの期間に取得キャンペーンを実施するといったことも選択肢になろうかと思います。但し、製造業など、従業員が個別に年次有給休暇を取得することにより、生産活動に支障が生じることも考えられるような場合には労使協定を締結し、計画的付与を行い、全社や工場単位で休業するということもあるでしょう。その際は社内外に示す年間カレンダーにも影響することから特に早めの対応が求められます。

また一般的に取得率が低いとされる管理職の場合は、終日のお休みを取ることに抵抗感があるケースが見られます。そうしたケースにおいては半日単位の年次有給休暇の取得促進なども有効です。このように業種や役職などによっても対策は異なりますので、まずは年次有給休暇取得状況の実態把握を行った上で課題を抽出し、最適な取得促進策を検討しましょう。

②管理方法

次に検討する必要があるのが、管理方法です。今回の法律では、付与日から1年以内に5日の年次有給休暇を取得させなければならないというルールになっています。法律の原則では入社半年後が基準日となり、年次有給休暇が付与されることになることから、社員の入社日によって管理対象となる1年がすべて異なることになります。この管理はかなり煩雑になることから、管理方法を定め、場合によってはシステムの導入なども検討すべきかも知れません。

こうした状況もあり、今後は年次有給休暇の基準日を例えば4月1日に統一するといった斉一的取り扱いを導入する企業が増加することが予想されます。この場合には法律よりも前倒しで年次有給休暇を付与することになりますが、5日取得の管理は大幅に軽減されることになります。なお、今回の法律では年次有給休暇の取得状況を記録する管理簿の作成が義務付けられました。今後の労働基準監督署の監督指導では確実にチェックされると想定されますので、その整備も重要です。

最優先対応事項②「新36協定への対応」

2019年4月1日以降の時間外労働・休日労働に関する協定(以下、「36協定」という)については、36協定届の様式が変更となります。なお、中小企業は2020年4月からの適用ですので、1年間は旧様式で届け出ることになります。

新しい様式における主な変更点は以下のとおりとなっています。

①特別条項を設ける場合と設けない場合の2種類の様式が用意された。
②特別条項を設ける場合の様式は2枚組となり、2枚目に特別条項の内容を記載するようになった。
③特別条項を設ける場合には、健康確保措置を定めることが必要になった。
④その他法改正の内容が反映された。

この中でも特に重要なのが③の健康確保措置です。特別条項を発動し、限度時間を超えて労働させる場合には健康障害発生のリスクが高いため、以下の10個の選択肢の中から1つ以上の措置を選択し、36協定届の中で定めることが求められています。

  1. 労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること
  2. 1ヶ月における深夜労働の回数を一定回数以内とすること
  3. 勤務間インターバルを設定すること
  4. 勤務状況及び健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること
  5. 勤務状況及び健康状態に応じて、健康診断を実施すること
  6. 年次有給休暇取得の連続取得を含めてその取得を促進すること
  7. 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること
  8. 勤務状況及び健康状態に配慮し、必要に応じて適切な部署に配置転換をすること
  9. 必要に応じて産業医等による助言・指導を受け、又は労働者に産業医等による保健指導を受けさせること。
  10. その他

健康確保措置については、今後の労働基準監督署による監督指導においては重点的に確認されることになると予想されますので、確実な実施と記録を徹底しておきましょう。

図表:時間外労働・休日労働に関する協定届
図表:時間外労働・休日労働に関する協定届

最優先対応事項③「労働時間把握強化への対応」

今回の働き方改革関連法では、労働安全衛生法についても様々な改正が行われています。例えば産業医の機能強化や長時間労働者への医師による面接指導制度の基準の見直しなどが行われていますが、実務的に早急な対応が求められるのが労働時間把握強化への対応です。

長時間労働者の面接指導を適切に行うためには、そもそも労働時間が適切に把握されていなくては意味がありません。そこで今回、管理監督者を含むすべての労働者を対象として、タイムカードやパソコンのアクセスログなど客観的な方法その他の適切な方法により、労働時間を把握しなければならないということが義務付けられました。従来は、管理監督者について、深夜を除く労働時間は把握していなかったという企業も少なくないと思いますが、来春以降はその客観的な把握が求められるようになります。その結果として、管理監督者の隠れ長時間労働が明らかになるかも知れません。管理監督者について率先して。働き方改革を進めていくような取り組みも求められることでしょう。

まとめ

今回は、来春施行される法改正の中から特に対応が求められる事項について重点的に取り上げました。現実にはこれら以外にも改正点はありますので、別途全体像の確認を行いながらも、ここで指摘した事項については優先的に対応いただければと思います。

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