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裁量労働制が見直しへ。 本人同意の撤回や健康・福祉確保措置の強化が盛り込まれる見通し

公開日時:2022.09.22 / 更新日時:2023.01.24

2022年7月、厚生労働省は裁量労働制の見直し案を提案する「これからの労働時間制度に関する検討会」の報告書を公表しました。見直し案の内容は、本人同意の撤回や健康・福祉確保措置の強化などです。今回は、現行の裁量労働制における問題点や課題を踏まえながら、検討会で議論された裁量労働制の見直し案について解説します。

現行の裁量労働制の問題点・課題

そもそも、裁量労働制とは「みなし労働時間」を基準に給与を計算する制度です。例えば、みなし労働時間が1日5時間であれば、実際に働いた時間が3時間や8時間でも5時間分の給与が支払われます。

また、裁量労働制は2種類あり、専門業務型裁量労働制の対象は19種あり、新たなデザインの考案業務、コピーライター、テレビのディレクターを始め、弁護士や公認会計士などの専門性の高い業務が該当します。一方、企画業務型裁量労働制は企画立案や調査・分析など行い、業務の遂行の手段、時間配分の決定などについて自身の裁量で行う業務が対象です。

裁量労働制は、本来裁量を持って多様な働き方を実現するための制度です。しかし、現状では次のような問題点や課題が指摘されています。

  • 長時間労働が常態化しやすい
  • 不適切な制度利用が起きている

現時点で顕在化している裁量労働制の問題点について詳しく見ていきましょう。

客観的な時刻記録を取ることが労務トラブル対策のスタートライン

現行の裁量労働制における問題点のひとつは、みなし労働時間を大幅に超過した長時間労働が散見されている点です。実際、厚生労働省の調査では下表のように、制度の適用者の方が非適用者よりも労働時間が長くなっています。

  1日の平均実労働時間数(時間:分)
適用 非適用
9:00 8:39
専門型 8:57 8:39
企画型 9:15 8:44

裁量労働制はあらかじめ決められた「みなし労働時間」を大幅に超えても、みなすとした時間の分だけしか給与が支払われません。たとえば、みなし労働時間が1日5時間の場合、法定労働時間内の8時間働いても1日の給与は5時間分のみです。

そのため、企業によっては支払うべき残業代を減らしたいという理由から、裁量労働制を導入する企業もあります。みなし労働時間内では到底終わらせられない量の業務を与えられた従業員が、過重労働による健康被害に陥る例も少なくありません。

このように、裁量労働制では長時間労働が常態化し、適用者に健康被害が生じている点が問題になっています。

不適切な制度利用が起きている

現行の裁量労働制におけるもう1つの大きな問題点は、不適切な制度利用が行われている点です。裁量労働制では、休日や深夜帯の勤務ではない、あるいはみなし労働時間・実労働時間ともに8時間以内であれば残業代を支払う必要がありません。

裁量労働制を適用できるのは前述したように、専門型や企画型の適用職種に該当する業務のみです。それにもかかわらず、データ入力や一般の営業職など裁量が大きいとは考えにくい職種の従業員に裁量労働制を適用し、残業代を支払わない企業の例があるのです。残業代削減のため、裁量労働制の制度の下で従業員に裁量のない業務を従事させるなどの不適切な適用が問題視されています。

厚生労働省が提示している見直し内容

厚生労働省が提示した見直し案の内容は、下表のとおりです。

 

見直し前の内容

見直し案の内容

対象業務

・専門型:19業務

・企画型:企画立案や調査・分析業務

・対象業務の拡大や縮小は、社会状況やニーズに応じて検討する

従業員の同意

裁量の確保

・企画型のみ同意必須

・同意の撤回は可能だが、手続きについて定めていない企業もあった

・専門型、企画型ともに同意必須

・同意の撤回があれば適用外とすることを担保する

・始業や終業時間についての裁量を明確化する

健康・福祉確保措置

・専門型:労使協定で決議する

・企画型:労使委員会で決議する

・決議方法は変わりなし

・現行の健康・福祉確保措置のメニューを追加、あるいは複数を組み合わせる

適切な制度運用の確保

・企画型:労使委員会を設置する

・専門型でも労使委員会を設置するなど、労使を通じた運用状況の確認や検証を行う

それぞれの項目について、以下で詳しく内容を解説します。

対象業務

現行の裁量労働制における対象業務は、前述したように専門業務型裁量労働制が19職種、企画業務型裁量労働制が企画立案や調査・分析などを行い、業務の遂行の手段、時間配分の決定などについて自身の裁量で行う業務です。これまでは政府は裁量労働制の適用範囲の拡大を目指してきましたが、制度改正の根拠となる調査データが不適切であったことから、議論が先送りとなっていた経緯があります。

今回の裁量労働制の見直し案では対象業務に関して、具体的な変更内容は述べられていません。社会状況やニーズに応じて、対象業務の拡大や縮小を検討することが望ましいとするにとどめています

従業員の同意、裁量の確保

厚生労働省の見直し案では、従業員の同意について専門型業務裁量労働制、企画型業務裁量労働制ともに必須とするよう求めました。

現行の裁量労働制では、企画型業務裁量労働制のみ個別の同意が必須です。同意の撤回は可能ですが、手続きについて定めていない企業も少なくありません。そこで、見直し案では同意の撤回があれば裁量労働制の適用外とし、同意を撤回したからと言って解雇や降格など不利益な扱いはしないよう担保することが必要と提案されました。

また、専門型業務裁量労働制の適用が決定されるのは、従業員の代表者や労働組合の過半数が同意することで結ばれる労使協定の締結です。個人の同意は必要としない一方で、円滑な運用のためには実際上の要件として同意を得るのが望ましいとされています。

実際、上記のように、専門型業務裁量労働制でも本人同意を要件としている事業場は46.3%と約半数にのぼります。

また、検討会では、始業や終業時間についても従業員の裁量によって決められる旨を明確化するよう提案されました。現行の裁量労働制では、たとえば「業務命令で〇時までに出社し、業務が終了するまで退勤できない」という状況も生じかねない運用のされ方があったためです。

本人同意や勤務時間の裁量について明確化されることは、適切な裁量労働制の制度運用に欠かせない事項であると言えます。

健康・福祉確保措置の強化

健康・福祉確保措置については、裁量労働制の適用者が健康的に働き続けられるよう、メニューの追加や複数を組み合わせることが提案されました。なお、現行の健康・福祉確保措置として定められているのは、以下のような内容です。

  1. 対象労働者の勤務状況や健康状態に応じて、代償休日または特別な休暇を付与する
  2. 対象労働者の勤務状況や健康状態に応じて、健康診断を実施する
  3. 年次有給休暇について、連続した日数を取得することを含めてその取得を促進し、働き過ぎを防止する
  4. 心とからだの健康問題について相談できる窓口を設置する
  5. 対象労働者の勤務状況や健康状態に配慮し、必要に応じて適切な部署に配置転換する
  6. 必要に応じて産業医等による助言・指導を受ける、または対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせ、働き過ぎによる健康障害を防止する

企画型の適用で定められている健康・福祉確保措置ですが、検討会では専門型についても同じように対応することが望ましいとしています。

労使コミュニケーションの促進を通じた適正な制度運用の確保

厚生労働省の見直し案では裁量労働制の適正な運用のために、労使委員会の設置などによって労使コミュニケーションを促進するよう提案されました。

裁量労働制の適用は、労使協定の締結や労使委員会の決議によって決められます。しかし、企業側が裁量労働制の適切な運用を怠った場合、適用が無効と判断される例もあります。

裁量労働制が無効と判断される不適切な運用の例

  • ・対象業務ではないのにもかかわらず、裁量労働制を適用していた
  • ・専門型に含まれる業務の補助業務にも裁量労働制を適用していた
  • ・労使協定を締結するにあたり、代表となる従業員を選出する選挙や会合が行われていなかった

上記のように不適切な制度運用が横行しないよう、検討会では労使委員会の設置は現行の企画型だけでなく、専門型にも設置し、適宜モニタリングや見直しをするよう求めています。

今後企業に求められる対応は?

前述した裁量労働制における見直し案のうち、企業がすぐに着手することが望ましいとされているのが以下の内容です。

  • 従業員の同意や裁量の確保
  • 健康・福祉確保措置の強化
  • 労使コミュニケーションの促進を通じた適切な制度運用

また、すでに裁量労働制を導入している企業では、以下に準じた対応が求められます。

  • 同意撤回に関する手続きの策定
  • 健康・福祉確保措置に追加するメニューの検討
  • 適切な制度運用における検証方法の検討(アンケートや面談など)

この他にも、過剰な長時間労働が常態化しないよう、勤怠管理や進捗管理などを徹底し、適宜チェックする仕組み作りが重要になってくるでしょう。

4.まとめ

裁量労働制は本来、適用者が裁量をもって成果を出すために導入される働き方です。しかし、長時間労働や不適切な適用が散見されています。これを受け、厚生労働省の検討会では制度が本来の目的で運用できるよう「本人の同意を必須とする」「同意の撤回も可能とする」「適用者の裁量確保」などの見直し案を提言しました。

対象者が業務過多にならないよう、見直し案に沿った運用をするには、従業員の労働時間管理や不必要な残業をさせないなどの仕組み作りが重要になります。そのためには、勤怠管理システムを活用した柔軟な管理が必要です。

なお、本記事の内容は2022年8月時点の情報であり、今後新たに方針が定まる可能性もあります。人事労務担当者は引き続き、裁量労働制に関する国の動きを注視していきましょう。

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