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【社労士監修】労働時間制度の見直しについて

公開日時:2025.12.01

労働時間制度の見直しが厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会で審議されています。労働条件分科会(第197回)の資料によると、2019年に働き方改革の一環として労働基準法が改正され、残業時間の上限規制が設けられました。しかし、労働時間制度にはまだ改善すべき余地も大きく、働き方も変化しているために従来の制度では現状にそぐわないといった問題も生じています。議論になっている主な改正点について解説します。
参照:第197回労働政策審議会労働条件分科会(資料)|厚生労働省
井上 敬裕 氏

井上 敬裕 氏

中小企業診断士・社会保険労務士

青果加工場の工場長を約9年間務めた後、40歳の時に中小企業診断士として独立。販路開拓支援、事業計画作成支援、6次産業化支援、創業支援などを行う。
平成27年社会保険労務士として開業し、給与計算を中心に労務関連業務を行っている。

社会保険労務士法人アスラク 代表社員
https://sr-asuraku.or.jp/about/

柔軟な働き方を実現する労働時間制

テレワークの普及とフレックスタイム制

テレワークはコロナ禍以降急速に普及し、その後すっかり定着しました。テレワークが定着したのは、実際にテレワークを経験することにより、仕事と生活を両立できる柔軟な働き方のメリットを多くの人が認識したことにあると思われます。テレワークをより柔軟な働き方にしているのがフレックスタイム制です。テレワークとフレックスタイム制は相性がよく、多くの企業でテレワークとフレックスタイム制がセットで導入されてきました。

フレックスタイム制は柔軟な労働時間管理制度ですが、もともとテレワークを前提として設計されたものではありません。使用する場合はテレワークのメリットを十分に生かせるように改善する必要があります。部分的なテレワークに対応できるようにフレックスタイム制を見直すことや、テレワークを行う際の新たなみなし労働時間制の導入が検討されています。

フレックスタイム制の改善

現行制度ではフレックスタイム制を部分的に適用することはできないため、テレワーク勤務日と通常勤務日が混在する場合にフレックスタイム制を活用しにくいという課題が生じています。そのため、テレワーク勤務日と通常勤務日が混在する場合にも活用しやすいよう、テレワークの実態に応じたフレックスタイム制の見直しが必要と考えられています。また、テレワーク勤務日だけでなく、通常勤務日にも部分的にフレックスタイム制を適用できる制度の導入が検討されています。

テレワーク時のみなし労働時間制

自由度の高い働き方を実現する労働時間制として、テレワークに特化したみなし労働時間制の活用が検討されています。現行のみなし労働時間制度には、事業外みなし労働時間制と専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制があります。しかし、いずれも一定の要件を満たさなければ適用できないという問題を抱えています。

一方、フレックスタイム制では使用者による実労働時間の管理が求められます。このため、使用者が自宅内での就労を過度に監視したり、家事や育児などのための中抜け時間の扱いについて労使間で紛争が生じたりするおそれもあります。

このような事情があるため、テレワークの実態に合わせた適切な条件設定が必要と考えられています。具体的には、集団的合意に加えて個別の本人同意を要件とすること、制度の適用後も本人同意の撤回を認めることなどが挙げられます。

みなし労働時間制は実労働時間にしばられないといった自由がある反面、長時間労働に陥りやすいリスクも抱えています。そのため、健康確保をいかに実現するかといった課題も解決する必要があります。

主な労働時間制度の見直し概要

制度名現行制度改正検討案改正のポイント
フレックスタイム制全日適用のみ部分適用可能テレワーク日のみ適用など
みなし労働時間制3種類(事業場外等)テレワーク特化型追加個別同意・撤回権付与
週44時間特例特定業種で適用廃止検討87.2%が未使用
管理監督者健康確保措置なし措置義務化の検討要件明確化もあわせて実施
時間外労働上限月45時間/年360時間更なる短縮の検討業種別特例の見直し

その他の労働時間制の見直し

法定労働時間週44時間特例措置の廃止

商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業で常時10人未満の労働者を使用している事業者は、1週間44時間まで働かせることができる特例措置が認められています。ただし、この特例措置を使っている事業場は少なく、87.2%の事業場が使用していないのが現状です。このことから、この特例措置の役目は終了していると考えることができ、制度の撤廃に向けた検討が必要とされています。

管理監督者に対する措置

実労働時間規制の対象外である管理監督者については、現行では健康・福祉確保措置が設けられていません。このため、管理監督者等に関する健康・福祉確保措置について検討が必要とされています。

より効果的に健康・福祉確保措置を位置付けるため、労働基準法以外の法令で規定することも選択肢として提案されています。

また、本来は管理監督者等に当たらない労働者が管理監督者等として扱われている場合があります。これに対し、現行の管理監督者等に関する制度の要件を明確化することが必要と考えられています。

時間外・休日労働時間の上限規制の強化

時間外・休日労働時間の上限規制を導入した働き方改革関連法が2019年4月に施行されて以降、時間外・休日労働は減少傾向が見られます。この上限規制は、原則として月45時間・年360時間、特別条項では単月100時間未満・複数月平均80時間以内・年720時間と定められています。

ただし、自動車運転者や医師などは他業種よりも長い上限規制を設けていることから、現状の上限規制は不十分であると考えられています。

この状況を解決するためには、労働時間制度の見直しだけではなく、より包括的な取り組みが必要であるとしています。具体的には、「官公庁取引を含む商慣行の見直し」、「大企業や親会社、国・地方自治体の働き方改革が中小企業や子会社をはじめ取引先にしわ寄せを生じさせる状況の是正」などが挙げられます。

これらの課題に対しては、厚生労働省と他の省庁が協力した取り組みを行っていく必要があるとしています。また、企業による労働時間の情報開示制度も設けるべきという議論がされています。

参考:

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