改定額は全国加重平均額が昨年度から66円引き上げの1,121円となり、過去最高だった昨年の引き上げ額の51円を15円上回りました。令和7年度の最低賃金は同年10月1日から順次施行されます。
今回の改定で特に注目すべきポイントを詳しく見ていきましょう。
井上 敬裕 氏
中小企業診断士・社会保険労務士
青果加工場の工場長を約9年間務めた後、40歳の時に中小企業診断士として独立。販路開拓支援、事業計画作成支援、6次産業化支援、創業支援などを行う。
平成27年社会保険労務士として開業し、給与計算を中心に労務関連業務を行っている。
社会保険労務士法人アスラク 代表社員
https://sr-asuraku.or.jp/about/
令和7年度改定のポイント
最低額が初めて1,000円を超過
令和7年度の改定で特徴的なことのひとつが、地域最低額が1,000円を超えたことです。令和6年(2024年)度の地域最低額は951円(秋田県)でしたが、今回の改定で地域最低額は1,023円(沖縄県など)になりました。
令和6年度では900円台のところは31都道府県もありましたが、今回の改定ですべて1,000円台になったのです。最高額が1,200円を超えるのは今回が初めてで、1,200円台は東京都(1,226円)と神奈川県(1,225円)となっています。
厚生労働省 「平成14年度から令和7年度までの地域別最低賃金改定状況」を加工して引用
最低賃金の地域格差は改善
今回の改定でもうひとつ特徴的なのが、引き上げ額が異なる都道府県数が昨年よりも増加し、地域格差の改善が見られたことです。昨年は47都道府県で50円から84円の引き上げ幅がありましたが、最も低い引き上げ額50円は20都道府県で、50円との目安差額(中央最低賃金審議会が示した目安額を上回った金額)の全国加重平均は+1円でした。
今年は47都道府県で63円から82円の引き上げ幅があり、最も低い引き上げ額63円は東京都など8都道府県にとどまり、63円との目安差額の全国加重平均は+3円になりました。このことから最高額である東京都との差額を解消しようとする傾向が見られ、最高額(1226円)に対する最低額(1023円)の比率は83.4%となっており、昨年度の81.8%から1.6%改善されています。
最低賃金とは
最低賃金の対象となる賃金
ここで、最低賃金の対象となる賃金、対象とならない賃金について見てみましょう。最低賃金の対象となる賃金は毎月支払われる基本的な賃金で、具体的には基本給と諸手当です。ただし、諸手当のうち、精皆勤手当と通勤手当、家族手当は最低賃金の対象とはなりません。また、毎月支払われる給与であっても、時間外割増賃金、休日割増賃金、深夜割増賃金は対象外です。賞与や臨時に支払われる賃金(結婚手当)など毎月支払われない賃金も対象となりません。
具体例を挙げてみると、東京都の最低賃金は1226円なので、毎月支払われる賃金が基本給のみの場合は基本給が1226円以上である必要があります。基本給と諸手当(例えば処遇改善手当)を時給として一緒に支払う場合は、基本給1176円、諸手当50円であれば最低賃金を満たしていることになります。
賃金が月給の場合は時給に換算
賃金が月給の場合は、時給に換算して最低賃金以上になっている必要があります。時給換算額は月給を1か月の平均所定労働時間で除して求めます。1か月の平均所定労働時間は1日の所定労働時間×年間労働日数÷12か月で求めます。年間労働日数は1年間の暦日数から年間休日を引くことで求められます。
具体的な数字を挙げて計算してみましょう。例えば、月給制で基本給20万円、1日8時間労働、土日祝が公休、土日祝日以外に年末年始休暇として3日、夏季休暇として3日の場合、2025年であれば年間休日は125日となります。
- 年間労働日数:365日 - 125日 = 240日
- 1か月の平均所定労働時間:240日 × 8時間 ÷ 12か月 = 160時間
- 時給換算額:200,000円 ÷ 160時間 = 1,250円
この結果、東京都の最低賃金1226円を満たしていることになります。
では、上記と同じ労働条件で、年末年始休暇と夏季休暇がなかった場合はどうなるでしょうか?この場合だと2025年の年間休日は119日となります。
- 年間労働日数:365日 - 119日 = 246日
- 1か月の平均所定労働時間:246日 × 8時間 ÷ 12か月 = 164時間
- 時給換算額:200,000円 ÷ 164時間 = 1,219.51円
この結果、東京都の最低賃金1,226円を下回り最低賃金割れとなってしまうので、基本給を上げるか公休を増やすかの対策が必要となります。
このように月給の場合は年間休日をもとに時給換算額を計算してみなければ最低賃金以上かが明確にならないので、年間休日を毎年確認する必要があります。今回の改正では63円以上も引上げが行われているため、事業者は注意が必要です。
最低賃金引き上げの支援策
業務改善助成金
最低賃金引き上げ支援策として最も代表的なものが業務改善助成金です。業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者が事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を30円以上引き上げ、生産性向上に資する設備投資等を行った場合に、その設備投資等にかかった費用の一部を助成する制度です。賃金引上げのコース区分は次の4区分あり、賃金を引き上げる労働者数によって助成金の上限額が上がっていく仕組みになっています。
- 30円コース(30円以上)
- 45円コース(45円以上)
- 60円コース(60円以上)
- 90円コース(90円以上)
事業場規模が30人未満の事業者の場合、助成金の上限額は最低60万円(30円コース1名)、最大600万円(90円コース10人以上)が支給されます。
業務改善助成金は、常時雇用する労働者が1名いれば申請は可能で、雇用保険に加入していないパートタイム労働者を1名雇用しているだけでも対象となります。ただし、助成金の対象となるのは賃金引き上げ前に6か月以上雇用している労働者という要件があります。また事業所は、中小企業・小規模事業者である、事業場内最低賃金が改定後の地域別最低賃金未満であるなどの要件を満たす必要があります。
働き方改革推進支援助成金
働き方改革推進支援助成金は、労働時間の削減や年次有給休暇の取得促進等に取り組む中小企業事業主が、外部専門家のコンサルティング、労働能率の増進に資する設備・機器の導入等を実施し、成果を上げた場合に助成する制度です。賃上げを行うことにより助成金の加算が行われます。賃金加算は次の3区分あり、最大で360万円(常時使用する労働者数が30人以下の場合は720万円)の加算が行われます。
- 3%以上引き上げ
- 5%以上引き上げ
- 7%以上引き上げ
助成の対象となるのは中小企業のみで、特別条項付きの36協定を届け出ていること、時間単位の有給休暇制度を導入していないことなどの要件を満たす必要があります。導入する設備等が前述した業務改善助成金と異なる場合であれば、業務改善助成金との併給が可能です。
まとめ
2025年の地域別最低賃金の改定額は過去最大の引き上げ額であるため、想定範囲を超えたと感じた事業者が多いのではないでしょうか。政府は最低賃金1,500円を目標としており、来年以降も景気の動向や政局によっては今年以上の賃金引き上げがあるかもしれません。事業者には支援策等を活用しながら、抜本的な経営改善を行っていくことが求められています。

