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病院経営のプロ × 勤怠管理のプロ “医師の働き方改革”対応セミナー【ダイジェストレポート】
公開日時:2022.03.03 / 更新日時:2023.01.24
※本記事の内容はセミナー実施日時点での情報、法律等に基づいていますが、実際の取り組みにあたっては最新の法律、制度等への対応、ケースごとの個別対応等が必要です。
「医師の働き方改革対応セミナー」開催概要
日時:2021年11月25日 14時00分~15時40分
開催場所:オンライン
費用:無料
登壇企業:株式会社日本経営、アマノ株式会社
講師紹介
【第1部:アマノより】医師の働き方改革における “最重要事項” とは?
山田:本日は、長年アマノが積み重ねてきた勤怠管理のノウハウの一部を、皆様にご紹介させていただきます。2024年4月に施行される医師の働き方改革が迫り、全国的に勤怠管理システム導入に向けご相談をいただくケースが多くなってまいりました。お客様にシステム導入で解決した課題をうかがうと、以下の要望をいただきます。
現在、医師も含めてすべての課題を解決できている病院様はほとんどありません。病院の規模が大きくなればなるほど、限りなくゼロに近くなる傾向があります。理由としては、高性能な勤怠システムを導入すればこれらの課題を解決する機能は実装されているものの、システムの運用が非常に難しいことが挙げられます。
国内において、医師まで含め、勤怠管理が完璧にできている病院様は非常に限られている認識です。そこで本日は、「医師の勤怠管理の運用をどうしたらいいのか」をメインテーマに、いろいろとお話ができればと思います。
医師の労働時間把握の現状
医師の勤怠管理の現状について、一般社団法人日本病院会「2019 年度 勤務医不足と医師の働き方に関するアンケート調査」の結果をもとに解説します。
未だに半数以上の病院で、医師の労働時間を、出勤簿などの自己申告によって記録しています。自己申告による時刻記録は、労務トラブルになった際、労基署や裁判所から信憑性の薄い記録として扱われるため、昨今は非常にリスクがある管理方法です。
また、自己申告の出退勤時刻と労働の実態に乖離がないと回答した割合は36.6%となっており、多くの病院で医師の労働時間の把握が正確にできていないことがうかがえます。
ちなみに、客観的時刻記録を取っている病院でも、約半数が正確に時刻記録できていないと回答しています。これは、医師の方々の労働時間把握に関する意識の低さが原因です。
約6割の病院で、「労働時間の記録に対する医師の意識の低さ」が課題として挙げられています。これらの結果より、「多くの病院で医師の正確な出退勤時刻を把握できていない」という医師の勤怠管理の実態があると見受けられます。ほとんどの病院様が時間外上限規制や自己研鑽、宿日直管理へ手を付ける以前の状況です。
正確に労働時間を記録しないデメリット
医師事態の労働時間の把握に関する意識の低さに加え、医師が常に多忙で人命を預かる業務に従事していることから、医師の出退勤時刻の正確な記録を諦めがちです。しかし、正確な出退勤時刻を把握できていないことは、勤怠管理を進める上で致命的であり、以下のスライドに挙げるような事態になる原因となります。
労働実態を把握していないと、現状どれだけの労働負荷があるかが分からず、正確な現状分析もできません。また、現状分析ができないとどれくらいの労働時間を削減すべきかの的確な目標値の設定もできないため、医師の働き方改革の推進が難しくなります。
医師の働き方改革においての最重要項目は、医師を含めた全従業員の正確な客観的時刻記録です。これを後回しにしたり、諦めたりすると、働き方改革のスタートラインに立てないということを今一度皆様に認識していただきたいと思います。
【第2部:株式会社日本経営様より】病院経営のプロが考える「経営戦略としての働き方改革」
橋本:2016年に働き方改革の検討がスタートしており、当時のテーマは、アベノミクスの3本の矢の一つで、日本の労働生産性の低さの改善でした。しかし、実際の議論のほとんどは長時間労働の是正というテーマの中で進んできた背景があります。一般企業においては、コロナ禍で一気に在宅勤務が進み、あらゆる面での働き方改革が一気に進みました。いわゆる長時間労働の是正については、多くの企業がクリアしており、次のステップに進んでいます。
しかし、病院様には今日のテーマである「医師の時間外労働の問題」という大きな問題が残っています。労務改善をクリアしないことには医師の働き方改革は進められません。そこで、本日のテーマとして、医師の長時間労働是正のために、まず労務的にどう改善していくかについてお伝えします。
また、多様な働き方や働きがいの向上も非常に重要ですが、医師の働き方改革においての最優先事項は労働時間の問題です。多様な働き方や働きがいの向上については、各病院様の考え方に沿って、対応していただければと思います。
医師の長時間労働是正に向けた今後の流れ
こちらのスライドは医師の長時間労働の是正に向けたスケジュールです。
2036年の4月からはBと連携B水準が廃止される予定です。これについて「そう厳しくならないだろう」とお考えの方もいらっしゃいますが、今回の廃止予定はそれなりに遵守されると考えられます。2036年には基本的にすべての病院で時間外労働の上限を、A水準並みに持っていく必要があります。
2024年の4月から、医師の時間外労働の上限規制がスタートします。2024年の段階で、A、B、Cどの水準を選択するのかについては決まっていなければなりません。A水準以外を目指す民間病院や大学病院の場合は、2023年度中には医療機関勤務環境評価センターの書面審査で承認を受ける必要があります。承認を受けていないと、2024年の4月からの時間外労働の上限はA水準の960時間になります。
もしA水準以外を取られる場合は、2023年度中に合格しなければなりません。書面を出して認定されれば問題ありませんが、対応が不十分として、評価保留やD評価になる場合があります。これらの場合、評価訪問が実施されます。ギリギリに提出すると、2024年の3月4月の段階でまだ判定してもらえてない状態になりかねません。書面審査には時間がかかるため、半年ぐらいの猶予を持っての対応が必要です。2022年度にはA水準以外を目指す病院を対象とした書面審査が開始されます。2022年度中に対応を始め、2023年の最初には申請できる状態になければ、間に合わないタイムスケジュールだと私達は認識しています。
少なくとも医師の勤務時間を適切に把握していなければ、医師の時間外労働の現状がA水準の960時間を超えているか、B水準の1,860時間を超えているかの判断がつきません。まずは労働時間の適切な把握が不可欠です。
しかし、ほとんどの病院様がなかなかできていないという現状があります。B水準を取る場合、労働時間の短縮計画の提出も必要です。これは2024年度以降の計画でも良いとされています。しかし、よく見てみると、労働時間と実際の取り組みの実績を見なさいという内容が記載されています。正確な勤務時間のデータが取れてないと、計画書を作成できないため、現状の労働時間の把握が必要です。
注意していただきたいのが、A水準の960時間の時間外計算を間違われている病院様がいらっしゃる点です。今日の話のメインである「宿日直の許可」を受けていない場合、例えば、18時から翌朝の8時までの当直の時間は、全て労働時間に入ります。これを、差し引いて計算し「うちの病院では960時間で収まっている」と認識している病院様が少なくありません。宿日直の許可を受けた宿直であれば、時間労働時間に入れる必要ありませんが、許可を受けていなければ全部時間外労働です。週に何回かやってしまっている場合、簡単に960時間、1,860時間を超えてしまう可能性があります。これも含めて医師の労働時間の適正な把握が必要です。
もう一つのポイントが、時間外手当の対象外である管理監督者も対象に含める必要があることです。労働時間短縮計画においてB水準を申請する場合、「全ての医師を対象にする」と記載されています。確定ではありませんが、働き方推進検討会の議論の中では、管理監督職も含めると前提として議論が進んでいるため、全ての医師が対象という考え方で、進めていただくことがポイントです。
医師の働き方改革の進め方
A水準以外の病院に課されることについて以下のスライドに記載しています。
一つは先ほど申し上げた審査です。審査の評価ガイドラインだけで31ページにおよぶ非常に細かい審査項目になっています。短縮時間計画の作成も必要です。こちらも32ページおよび非常に重厚な内容のガイドラインとなっています。さらに医師の労働時間短縮取り組みの実践が求められる上に、追加的健康措置として連続勤務の制限も必要です。追加健康措置は、連続する24時間の中で9時間のインターバルを必ず取らなければいけないという内容です。もし取れない場合、代償休息が必要になります。
また、当月の時間外休日労働時間が100時間に到達する見込みの医師に対しては面接指導を毎月必ず実施しなければいけません。「100時間に達する見込み」は80時間程度だと言われています。1か月の時間外勤務が80時間になった場合、他の診療科の管理職の医師との面接が必要です。この面接の要綱も非常に細かく決まっている上に、eラーニングを受けてテストに合格した医師しか面接できません。
研修医を募集する病院様はA、B、C水準の明記が必要です。例えばB水準となると「1,860時間までは時間外がある病院」と研修医から見えてしまう可能性があるため、A水準を目指す病院様が多い印象があります。
医師の働き方改革の流れ
ここからは、医師の働き方改革に対する取り組みの基本ステップについて解説します。
とにかく労働時間が把握できないと何も進められません。まず労働時間を把握した上で、どれぐらい乖離しているのかを分析し、どの基準を目指すかを設定します。その上で、対策を立案し実行する流れです。
A水準の年間960時間以内を目指すのか、それ以外の水準1,860時間以内を目指すのか、ここは現状の医師の方々の労働時間を把握する必要があります。また、宿日直の許可を受けていない場合、土曜日の日直や夜の当直もすべて時間外になり得ます。これらも含めすべて計算し、どこまで時間外になるのか、実態の把握が必要です。
目指す基準を設定するにあたって、A水準の達成が難しいようであれば、無理せずにB水準から設定することはあり得る選択です。実態に合わせて、院内で検討していただければと思います。一部の診療科や特定の先生だけをB水準とすることも可能です。また、研修医を受け入れる場合はC-1の水準の取得も考えられます。
これらの上で、労働時間算定の適正化といった労務対応や業務改善によって労働時間を削減する対応が求められます。
労働時間算定の適正化アプローチや宿日直許可、急性期病院での事例についてはセミナーレポート(完全版)で紹介しています。
医師の働き方改革を進めるにあたって直面するさまざまな課題
医師の働き方改革を進めるにあたって、さまざまな課題に直面します。これらの具体的な課題や対応について知りたい方はセミナーレポート(完全版)をご覧ください。
コロナ禍ですべき組織づくりのポイント
コロナ禍において、過去の成功体験が通用しないため、経営の4領域の明確化、再定義が必要です。組織づくりのポイントをスライドにまとめています。
特にトップ方針の再定義が重要です。コロナ禍では過去の成功体験が通じず、トップが解決策を考え指示を出す従来のマネジメントには限界がきています。そこで、今後はメンバーの力を引き出すマネジメントの力が求められると考えています。
日本経営では、チームマネジメントスキルを高める研修や医師の報酬制度・人事評価制度構築、働き方改革に向けた管理職医師向け勉強会などの支援をしております。興味や関心、質問のある方はお気軽に相談していただけたらと思います。
【第3部:アマノより】勤怠管理のプロが考える「労働時間把握のベストプラクティス」
アマノ株式会社より、病院における労働時間把握のベストプラクティスとしてスライドの内容について講演いたしました。詳細はセミナーレポート(完全版)をご覧ください。