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人事・労務なんでもQ&A

勤怠の締め後や給与支払い後に、残業等の申請ミスがあったので遡及払いをしてほしいと依頼を受けることがあります。現状応じていないのですが問題ないでしょうか?

従業員から遡及払いの依頼があった場合は応じる必要があります。労働基準法では賃金の全額払いが義務付けられており、申請ミスがあったとしても実際に労働した分の賃金は支払わなければなりません。ただし、適切なルール設定により運用負荷を軽減することは可能です。
公開日時:2025.10.31
詳しく解説
大友 大 氏

大友 大 氏

社会保険労務士

大手資格予備校にて、制作課チーフとして社労士試験必修テキストの執筆、全国模試の監修を行う。

平成20年より都内の社会保険労務士事務所に勤務ののち、平成26年に開業。

給与計算業務を中心に行いつつ、労務にまつわるさまざまな問題に取り組む。

大友労務管理事務所 代表

Q. 勤怠の締め後や給与支払い後に、申請ミスがあったので遡及払いをしてほしいと依頼を受けることがあります。応じる必要があるのでしょうか?

人事担当をしています。毎月の給与計算を終えた後に、従業員から「残業申請を忘れていた」「休日出勤の申請漏れがあった」として遡及払いの依頼を受けることがあります。現在は一律でお断りしているのですが、法的に問題はないでしょうか。また、このような事態を防ぐ方法があれば教えてください。

A. 実際に労働した分の賃金は遡及して支払う必要があります

従業員から遡及払いの依頼があった場合は応じる必要があります。労働基準法第24条では賃金の全額払いが義務付けられており、申請ミスがあったとしても実際に労働した分の賃金は支払わなければなりません。

第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
② 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

引用:労働基準法 | e-Gov 法令検索

一方で、頻繁な遡及処理は給与計算業務の負担増大につながりかねません。他の従業員への影響も考慮する必要があります。そのため、遡及払いの期限設定や申請手続きの明確化など、適切なルールづくりが重要です。申請ミス自体を減らすための仕組みもあわせて検討しましょう。

労働基準法における賃金支払いの原則

労働基準法第24条では、賃金は「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定められています。これは「賃金全額払いの原則」と呼ばれ、実際に提供された労働に対する対価は必ず支払う必要があることを意味します。

申請ミスがあっても支払い義務は発生する

従業員が残業申請を忘れていた場合でも、実際に残業をしていた事実があれば賃金支払い義務は発生します。会社側が「申請がなかったから支払わない」とすることは、労働基準法違反となる可能性があります。

特に、タイムカードや入退室記録などで実際の労働時間が確認できる場合は、申請の有無にかかわらず適正な賃金を支払う必要があります。

遡及払いを拒否するリスク

正当な遡及払い請求を拒否することは、企業にとってさまざまなリスクがあります。法的な問題だけでなく、組織運営面にも深刻な影響をおよぼす可能性があるため、適切な対応が欠かせません。

労働基準監督署からの指導対象となる可能性

遡及払いを一律で拒否している場合、労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性があります。特に従業員からの申告があった場合は、調査対象となりやすくなります。過去の未払い事例についても遡って調査される場合があり、企業の信用失墜にもつながりかねません。

未払い賃金の利息や付加金の発生

未払い賃金には年3%の遅延損害金(利息)が発生します。ただし、従業員が退職した場合は、「賃金の支払の確保等に関する法律」により、より高い年14.6%の利率が適用されます。

また、未払い賃金に関する訴訟で企業の悪質性が認定された場合、裁判所から未払い賃金と同額の付加金支払いを命じられることがあります(労働基準法第114条)。未払いを長期間放置すると、遅延損害金や付加金を含め最終的に当初の支払額以上の金銭的負担が生じるリスクが高まるのです。

労使関係の悪化

正当な遡及払い請求を拒否することで、従業員との信頼関係が損なわれ、労使関係の悪化につながるおそれがあります。一人の従業員への不適切な対応が他の従業員にも知れ渡り、組織全体のモチベーション低下や離職率の増加を招く可能性もあります。

遡及払いの適切な運用方法

遡及払いは法的義務である一方、無制限に対応すると給与計算業務に大きな負担をかけてしまいます。そこで重要なのが、法令遵守と業務効率化を両立する運用ルールの策定です。

遡及期間の設定

法的には賃金請求権の時効は、2020年4月以降の分については原則3年間ですが、それ以前は2年間となっています。実務上は時効内であることを前提に、遡及申請可能な期間を企業が独自で設定することが一般的です。例えば「給与支払い日から3か月以内」など、合理的かつ運用しやすい期間を定めましょう。

遡及期間を設定したら就業規則に明記し、従業員への周知を徹底することが重要です。また、例外的な事情がある場合の取り扱いについても基準を定め、運用ルールを明確にしておくことが望まれます。なお、社内ルールで申請期限を設けても、法的には時効期間内の賃金請求権が消滅するわけではありません。法定時効の範囲内で請求された場合、企業には賃金の支払い義務があるため、その点を理解した運用が必要です。

申請手続きの明確化

遡及払いの申請方法や必要書類を明確に定めることで、適正な審査が可能になります。申請書には労働した日時、業務内容、承認者のサインなどを記載させることが重要です。また、申請理由の記載を必須とし、今後の予防策についても従業員に考えさせることで、同様のミスの再発防止につなげます。

証拠書類の提出を求める

タイムカード、パソコンのログイン記録、業務メールの送信時刻など、実際に労働していたことを示す客観的な証拠の提出を求めましょう。これにより虚偽申請を防ぐことができます。複数の角度から労働実態を確認して正確な判断ができるように、可能な限り多角的な資料の提出を求めます。

申請ミスを防ぐための予防策

遡及払いの根本的な解決には、申請ミス自体を防ぐ仕組みづくりが必要です。システム化と運用ルールの見直しにより、従業員の負担軽減と管理業務の効率化を同時に実現できます。

残業申請の具体的なルール設定や運用方法については、以下の記事で詳しく解説しています。

申請期限の明確化と周知徹底

勤怠締め日を明確に設定し、従業員への周知を徹底します。締め日前にリマインドメールを送信するなど、申請漏れを防ぐ仕組みを構築しましょう。新入社員研修や定期的な説明会での周知、社内ポータルサイトでの常時掲示など、複数のチャネルを活用して情報浸透を図ることが重要です。

上司による承認フローの強化

残業や休日出勤は事前申請を原則とし、上司の承認を必須とします。事後申請の場合は理由書の提出を求めるなど、手続きを厳格化することで申請ミスを減らせます。また、承認者向けのチェックリストを作成し、部下の勤怠状況を定期的に確認する習慣を定着させることで、管理職の意識向上も図れます。

勤怠管理システムの活用

勤怠管理システムを導入することで、申請漏れのアラート機能や自動集計機能により、ヒューマンエラーを大幅に削減できます。また、承認フローの電子化により管理負荷も軽減されます。スマートフォン対応システムなら外出先からでも申請・承認が可能になり、タイムリーな処理によって申請漏れのリスクをさらに低減できます。

勤怠管理システムによる業務効率化については、以下の記事で詳しく解説しています。

遡及払い対応時の注意点

実際に遡及払いを行う際は、単発的な対応に留まらず、組織全体への影響や今後の運用改善を視野に入れた対応が必要です。適切な手順を踏むことで、問題の再発防止と公平性の確保を実現できます。

他の従業員への影響を考慮する

遡及払いを行う際は、同様のケースがないか他の従業員にも確認することが重要です。公平性を保つため、同じ基準で対応しなければいけません。一人の従業員への対応が前例となり、別の従業員からも同様の申請が増加する可能性があるため、組織全体への波及効果を十分に検討したうえで判断することが求められます。

再発防止策の検討

遡及払いが発生した原因を分析し、同様の問題が再発しないよう制度や運用の見直しを行いましょう。根本的な問題解決が重要です。原因分析では個人的な要因だけでなく、システムの不備や業務フローの問題点も洗い出し、組織的な改善策を策定することで、持続可能な勤怠管理体制を構築できます。

記録の保存

遡及払いを行った場合は、その経緯や根拠となる資料を適切に保管します。後日のトラブル防止や労働基準監督署の調査への対応として必要です。記録には申請内容、承認プロセス、支払い根拠となった証拠書類、今後の予防策まで含めて文書化し、類似事例が発生した際の判断基準としても活用できるよう整理しておくことが大切です。

まとめ

勤怠申請ミスによる遡及払い請求は、労働基準法の観点から原則として応じる必要があります。ただし、適切なルール設定により運用負荷を軽減し、予防策を講じることで申請ミス自体を減らすことが可能です。

重要なのは法令遵守と業務効率化のバランスを取ることです。勤怠管理システムの導入により、申請漏れの防止と遡及処理の効率化を同時に実現できます。従業員との信頼関係を維持しながら、適正な労務管理を行いましょう。

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参考:

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01基礎知識

勤怠管理の意義と
重要性

02選び方

勤怠管理システム
選び方の基本

03実践編

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導入のポイント

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