杉本 一裕 氏
社労士・行政書士事務所SRO労働法務コンサルティング 代表
人事コンサルタント。大阪府立大学大学院 経営学修士(MBA)修了。IT企業在職中は人事領域のコンサルティングを多数実施。2007年には消えた年金問題で総務省 大阪地方第三者委員会調査員を兼務する。その後、社労士と行政書士事務所を開業。IT・医療・学校・製造業や流通業など幅広い業種の顧問先業務に従事。
連載執筆の労務記事
日経xTECK 「職場のトラブル相談室」、日経SYSTEMS 「IT職場のトラブルQ&A」、他
新たに注目されているGビズID
2019年4月号でe-Govについて掲載しました。その号で社会保険手続きの電子申請義務化によりe-Govの利用は加速すると述べました。
それから1年、電子申請で新たに注目されてきたのがGビズIDです。ご存知のとおり厚生労働省は社会保険手続きにおける電子申請の義務化について大企業からのスタートとしました(2020年4月)。従来から用意されているe-Govを利用する企業も多いと思います。筆者の事務所はe-Govを活用しています。
GビズIDは経済産業省が推進しているサービスです。メリットは無料で利用できるということ。電子申請を行うためにe-Govは電子証明書(有料)が必要ですが、GビズIDの申請では必要ありません。無料のアカウントを取得することで電子申請が可能となります。この「GビズID」のアカウントで社会保険手続き以外にも複数の行政サービスにアクセスできます。その中の1つとして社会保険手続きが用意されているイメージになります。
現在のところe-Govに比べて申請種類が少なく拡充が期待されるところですが、主要な手続きは揃っています(後述)。
e-Gov、GビズIDのいずれかのサービスを利用することで年金事務所やハローワークに出向くことなく社会保険の手続きは完了します。まずは大企業からです。今後は自社で使用している人事システムや給与計算パッケージと連携させることで、さらに効率化を行いたいという動きが加速するでしょう。
GビズID、e-Govとの違いは手続きの種類数
GビズID で社会保険手続きの電子申請が行えると昨年秋頃から頻繁に広報されるようになりました。詳細は厚生労働省ホームページで電子申請(申請・届出等の手続案内)というページで紹介されています。
GビズIDで実際に利用できる社会保険手続きの種類を見ていきましょう。e-Govに比べると種類は少ないです。会社が社員対応で頻繁に利用する手続きは揃っていますが、高年齢継続給付金や育児休業給付金などの対応がない状況です。
電子申請義務化の対象となる手続きを含めて、できるかぎり電子化を進めたいのであれば現時点ではe-Govでの運用が必要です。まずは利用したい手続きの種類や使用頻度の状況を整理し確認しておくことをお勧めします。現在のところGビズIDで申請できる社会保険の手続きは以下となります。
【社会保険】
資格取得届、被扶養者(異動)届、資格喪失届、報酬月額算定基礎届、報酬月額変更届、賞与支払届、国民年金第3号被保険者関係届
【雇用保険】
資格取得届、資格喪失届、転勤届、個人番号登録届
利用にはGビズIDの取得が必要です!
まずはGビズID のアカウント取得が必要になります。経済産業省が掲載しているホームページから申請します。
「gBizIDプライム」と「gBizIDエントリー」の2つあります。会社(法人)が使用する社会保険手続きでは「gBizIDプライム」が必要です。取得後は、年金機構が提供する「届書作成プログラム」もしくは市販の電子申請パッケージ(給与計算や社会保険手続きのソフト)により申請可能となります。e-Govも含め、これらを活用することで申請、審査状況の照会、決定通知書等の取得が可能となります。
年末調整の手続きも電子化へ
従来から会社が行ってきた年末調整事務では、社員からの手書きの申告書提出(保険料控除申告書など)が必要になります。社員は保険会社等から自宅に送ってきた控除証明書から計算した金額を転記し会社に提出します。
この部分が電子化される予定です。電子化により社員は保険会社等から控除証明書を電子データで受領することになります。国税庁が用意する年末調整控除申告書作成用ソフトウェアに、データを取り込むことで控除額が自動計算されるというものです。
従来方式では、社員が提出してくる申告書は手計算であり間違っていることもあるのでチェックが欠かせません。電子化がスタートすると自動計算されますのでデータのチェックが楽になるでしょう。
電子化対応が標準装備されているパッケージ使用がベスト
社会保険手続き、年末調整の計算事務は会社(人事部や総務部)が行っています。そこで使用しているのが給与計算パッケージです。例えば算定基礎届のデータ(CD)や帳票作成、年末調整計算などを給与計算パッケージで行っているはずです。これからは、CDや紙ではなく電子化対応になります。
国が社会保険や年末調整関係で電子化に対応しても、使用している給与計算パッケージにデータ連携機能がなければ事務処理の効率化が図れません。
日頃から使っている人事システムや給与計算パッケージから簡易的な操作で申請もしくはデータ取り込みができることがベストだと言えます。例えば、年末調整のデータを社員から受け取っても、取り込む機能がなければ手入力となります。社員の入退社での社会保険資格取得や喪失の手続き、算定基礎届などで必要となるデータが既にシステム内にあります。そのまま電子申請できることが理想です。
使用している給与計算ソフトと連携して電子申請ができるか否かが社内事務の効率化ポイントとなります。社会保険や年末調整に限らず、多様な分野で電子化が加速します。電子申請等の機能有無がパッケージ選定の重要な判断材料になる日も近いと筆者は思います。中小企業は1年猶予がありますが、あわてることのないように今から検討しておくことをお勧めします。