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【社労士監修】「年収の壁・支援強化パッケージ」とは?具体的な内容や年収の壁に対する対策などを順に解説

公開日時:2024.01.18

厚生労働省は、2023年9月27日に「年収の壁・支援強化パッケージ」を発表しました。
これは、特に社会保険料の支払いを負担に感じるパートタイム・アルバイト従業員が「年収の壁」を意識せずに働ける環境づくりを後押しするための施策です。
今回は、「年収の壁」とは何かを説明するとともに、「年収の壁・支援強化パッケージ」の具体的な内容について順に解説します。
加藤 知美 氏

加藤 知美 氏

社会保険労務士

愛知県社会保険労務士会所属。総合商社、会計事務所、社労士事務所の勤務経験を経て、2014年に「エスプリーメ社労士事務所」を設立。

総合商社時では秘書・経理・総務が一体化した管理部署で指揮を執り、人事部と連携した数々の社員面接にも同席。会計事務所、社労士事務所勤務では顧問先の労務管理に加えセミナー講師としても活動。

「年収の壁」とは

企業を経営する人、働いたことがある人であれば、一度は「年収の壁」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。
年収の壁とは、パートタイム・アルバイト従業員が働くにあたって、税金・社会保険の負担が必要になるか否かが決まる収入基準を指します。

例えば、住民税の負担が必要となる収入基準、いわゆる「壁」は100万円です。ほかには、103万円を超えると所得税、106万円以上では条件付きの社会保険料、130万円以上では一般的な社会保険料、150万円を超えると配偶者特別控除が減少するという基準などがあります。
このうち、厚生労働省が焦点を当てている社会保険料の基準である「106万円の壁」と「130万円の壁」について説明しましょう。

1 106万円の壁

2022年10月に、社会保険の適用範囲が拡大されました。これにより、被保険者数101人以上規模の会社に勤めるパートタイム・アルバイト従業員などの短時間労働者で、下記のすべてに該当する人は社会保険の加入対象となり、社会保険料の支払いが必要になります。

  • 週あたりの所定労働時間が20時間以上
  • 所定内賃金が月額88,000円以上
  • 2ヶ月超の期間を雇用される見込みがある
  • 学生ではない

なお、2024年10月以降は、被保険者数51人以上の企業も社会保険適用拡大の対象となるため、さらに多くのパートタイム・アルバイト従業員に社会保険が適用される見込みとなっています。

2 130万円の壁

106万円の壁に該当しないところで働いている人も、年収が130万円以上で社会保険の適用対象となります。会社員や公務員の扶養に入っている、いわゆる「第3号被保険者」である場合は扶養から外れ、自身で国民年金や国民健康保険料の支払い義務が生じます。

ここで解説した「106万円の壁」「130万円の壁」に該当する場合、給料から保険料の負担分が差し引かれるため、手取り額が減ります。社会保険料の負担を回避するため、年収が106万円または130万円に満たないように働き方を調整して、就業を控えるパートタイム・アルバイト従業員が一定数生じているのが事実です。

少子高齢化の影響もあり、国内の労働力不足が問題視されているなか、それぞれの壁に対応し、より多くの人が多様な働き方ができるように打ち出されたのが、「年収の壁・支援強化パッケージ」です。

「年収の壁・支援強化パッケージ」とは

「年収の壁・支援強化パッケージ」として厚生労働省が公開した具体的内容は、主に以下のとおりです。

1 「106万円の壁」対応策

まず挙げられるのが「キャリアアップ助成金」の新設による対策です。
キャリアアップ助成金とは、有期雇用者や短時間労働者などの「非正規雇用者」が社内でキャリアアップできるように、待遇や処遇を改善した企業を対象とした助成制度です。
キャリアアップ助成金には、正社員化コースや賃金規程等改定コースなどのさまざまなコースが打ち出されています。そのなかで、今回の「106万円の壁」対策として新たに誕生したのが「社会保険適用時処遇改善コース」です。これは、2023年10月以降に事業主が新たに労働者へ社会保険の適用をした場合に、労働者1人あたり最大50万円を助成する制度です。金銭的支援をきっかけに、ひとりでも多くの労働者が社会保険に加入することを見越して新設されました。

また、「社会保険適用促進手当」の支給も対応策のひとつです。
社会保険適用促進手当とは、これまで社会保険へ加入していなかった非正規雇用者が新たに社会保険へ加入した場合、労働者の保険料負担を軽くするために支給する手当金です。
本来ならば加入労働者本人が負担すべき金額を、企業が負担することになりますが、最大で2年間は、社会保険適用促進手当分の金額が社会保険算定基礎から除外されます。

2 「130万円の壁」対応策

「130万円の壁」に対応する方法としては、事業主が証明する「被扶養者認定」を円滑化することが挙げられます。
社会保険上の被扶養者となるためには、被扶養者認定が必要になります。認定を受けた被扶養者がケガをしたり病気になったりした際には、被保険者が加入する健康保険や厚生年金保険による必要給付を受けられます。被扶養者認定は、被扶養者が安心して生活をするために非常に重要な存在なのです。
本来、被扶養者認定を受ける場合、被保険者と同居しており、被扶養者本人に生活を続けるだけの収入がないことを証明する書類が必要です。例えば、過去の課税証明書や給与明細書、雇用契約の書類などが該当します。しかし、これまでは、繁忙期や転換期、人手不足が重なり一時的に年収が130万円以上になった非正規雇用者が、認定を受けられず困窮する事態も生じていました。
この状況に対応するため、収入の増加要因が「人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入変動によるもの」である証明を事象主から取得すれば、被扶養者認定を受けられるようになったのです。

3 そのほかの対応策

そのほかの対応策としては、「配偶者手当」の見直しの動きが加速していることが挙げられます。
配偶者手当とは、配偶者がいる労働者に支給される手当です。「扶養手当」「家族手当」「扶養者手当」など、企業の裁量によってさまざまな名称で呼ばれています。
性別、世代、考え方、取り巻く環境などを超えて、さまざまな人が望むような働き方ができるよう推奨されている昨今、配偶者手当の存在が働く女性の足かせになっている点がかねてより問題視されていました。配偶者手当を受け取れなくなる事態を避けるため、就業を調整している被扶養者が一定数存在することも否定できません。
国では、配偶者手当を見直すメリットや手順を示したフローチャートを公表して、配偶者手当の見直し促進を図っています。

まとめ

「年収の壁・支援強化パッケージ」の概要について説明しました。これまで仕事量を調整してきたパートタイム・アルバイト従業員が思う存分働ける環境が整いはじめたことは、非常に好ましい状況です。仕事量を調整する必要がなくなることで、各世帯の総収入が増加し、貯蓄が加速します。労働力不足に悩む企業にとっても、より多く働きたいと考える労働者の存在は非常にありがたいものでしょう。
ただし、「年収の壁・支援強化パッケージ」におけるキャリアアップ助成金や社会保険適用促進手当の適用は、2025年度末までの期間限定制度です。今回の制度はあくまでも暫定的な位置づけであり、2年間のうちにどのような新たな制度が打ち出されるかは現時点では未定です。
期間限定の対応策であるとはいえ、年収の壁に悩む従業員の負担をなくせる当該制度は、企業にとっても非常に有効です。現時点での社内体制や従業員の雇用形態を洗い出したうえで、効果的な活用を検討してみてはいかがでしょうか。

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参考

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