• ホーム
  • なんでもQ&A
  • 労働安全衛生関係手続きの電子申請義務化で社内の手続きフローをどう見直すべきでしょうか?

人事・労務なんでもQ&A

労働安全衛生関係手続きの電子申請義務化で社内の手続きフローをどう見直すべきでしょうか?

2025年1月から特定の労働安全衛生関係手続きについて電子申請が義務化されています。対象手続きを正確に把握し、社内の承認フローや担当者の役割分担を見直すとともに、勤怠管理システムとの連携も視野に入れた体制整備が必要です。
公開日時:2025.12.17
詳しく解説
大友 大 氏

大友 大 氏

社会保険労務士

大手資格予備校にて、制作課チーフとして社労士試験必修テキストの執筆、全国模試の監修を行う。

平成20年より都内の社会保険労務士事務所に勤務ののち、平成26年に開業。

給与計算業務を中心に行いつつ、労務にまつわるさまざまな問題に取り組む。

大友労務管理事務所 代表

Q. 労働安全衛生関係手続きの電子申請義務化で社内の手続きフローをどう見直すべきでしょうか?

2025年1月から労働安全衛生関係の手続きが電子申請に義務化されたと聞きました。これまで紙で行っていた手続きを電子化するにあたり、社内のフローをどのように見直せばよいでしょうか。また、勤怠管理システムとの連携についても教えてください。

A. 電子申請の対象手続きを把握し、システム連携を含めた社内フローの再設計が必要です

2025年1月から特定の労働安全衛生関係手続きについて電子申請が義務化されています。対象となる手続きを正確に把握し、まだ完全に移行できていない場合は早急な対応が必要です。社内の承認フローや担当者の役割分担を見直し、勤怠管理システムとの連携も視野に入れた体制整備が求められています。

電子申請義務化は業務効率化を進めるきっかけにもなります。適切なシステム選定と運用ルールの整備により、手続きの迅速化とミス削減を実現できます。

労働安全衛生関係手続きの電子申請義務化とは

厚生労働省は労働安全衛生法に基づく各種手続きについて、段階的に電子申請を義務化しています。この取り組みは行政手続きのデジタル化推進の一環であり、企業の事務負担軽減と手続きの迅速化を目的としています。

電子申請の義務化については、以下の記事でも詳しく解説しています。

義務化の対象となる手続き

2025年1月1日以降に提出する書類から一部の労働安全衛生関係手続きは電子申請のみの受付となっています。対象となる主な手続きは以下のとおりです。対象手続きは今後も段階的に拡大される可能性があるため、自社に該当する手続きを定期的に確認することが重要です。

電子申請義務化の対象手続き一覧

手続き名対象事業場提出期限備考
定期健康診断結果報告書常時50人以上の労働者を使用する事業場健康診断終了後、遅滞なく(通常は健康診断実施後3か月以内)年1回の定期健康診断実施後に提出
特殊健康診断結果報告書特定の有害業務に従事する労働者がいる事業場健康診断終了後、遅滞なく有害業務の種類により実施頻度が異なる(6か月ごと、年1回など)
労働者死傷病報告すべての事業場(労働者死亡や休業災害発生時など)発生後、遅滞なく(休業4日以上は直ちに、4日未満は四半期の翌月末)
  • 電子申請義務化の対象は段階的に拡大される可能性があります。
  • 事業場の規模や業種により対象となる手続きが異なる場合があります。
  • 最新の情報は厚生労働省のウェブサイトまたは所轄の労働基準監督署でご確認ください。

電子申請義務化の背景と目的

政府は「デジタル・ガバメント実行計画」に基づき、行政手続きのオンライン化を推進しています。労働安全衛生分野でも、紙ベースの手続きによる時間的・物理的コストを削減し、企業と行政双方の業務効率化を図っているのです。

電子申請により、書類の郵送手配が不要になり、提出状況の確認や修正対応もオンラインで完結します。行政側でもデータの一元管理が可能になり、統計分析や政策立案の精度向上につながります。

電子申請義務化への対応が遅れるリスク

すでに義務化が実施されていますが、まだ完全に移行できていない企業もあるかもしれません。対応の遅れは企業にさまざまな影響をおよぼします。速やかな体制整備が不可欠です。

法定手続きの不履行となる

電子申請が原則義務化されていますが、当面は書面での報告も認められる経過措置があります。しかし、電子申請を怠ると法定期限内に適切な届出がなされなかったとみなされるリスクがあるため、速やかな対応が必要です。

遅延が続くと労働基準監督署から是正勧告や行政指導の対象となる可能性があります。特に健康診断結果の報告遅延は従業員の健康管理体制に問題があるとみなされ、企業の信頼性低下につながりかねません。

重大な違反と判断された場合には罰則適用も考えられるため、早期に電子申請への切り替えと適切な手続き運用を進めることが重要です。

業務の混乱と手続き遅延

体制整備が不十分なまま運用を続けると、担当者が慣れないシステム操作に時間を取られ、通常業務に支障をきたします。複数の事業場を持つ企業では、各拠点での対応状況の把握も困難になります。

電子申請に必要な電子証明書の取得やシステムへのアクセス権限設定にも時間が必要です。適切な準備なしでは提出期限を過ぎてしまうリスクが高まります。

コスト増加の可能性

対応が遅れると、外部の専門家への緊急依頼や急ぎでのシステム導入により想定外のコストが発生します。計画的に体制を整えれば最小限ですむコストも、後手に回ることで増加してしまいます。

手続き遅延による行政指導への対応や、従業員の健康管理体制の見直しにも追加の人的・経済的負担が生じるでしょう。

社内手続きフローの見直しポイント

電子申請への移行を成功させるには、現状の業務フローを棚卸しし、電子化に適した体制に再設計する必要があります。すでに電子申請に移行済みの企業も、業務フローの見直しは運用の最適化を図る際の参考になります。

現状の手続きフローの可視化

まず、現在行っている労働安全衛生関係の手続きを洗い出します。どの部署が、いつ、どのような書類を作成し、誰が確認して提出しているのかを明確にします。

手続きごとに関係者、所要時間、使用する帳票、保管方法を整理しましょう。複数の事業場がある場合は、拠点ごとの運用の違いも把握します。これらを可視化することにより、電子化で削減できる作業や改善すべき非効率な工程が見えてきます。

担当者と役割分担の明確化

電子申請では、システムへのアクセス権限や電子証明書の管理が必要です。申請作業を行う担当者、承認を行う管理者、システム管理を行う情報システム部門など、役割分担を明確にします。

特に電子証明書の取得と管理は重要です。誰が証明書を保有し、どのように更新するかをルール化します。担当者の異動や退職時の引き継ぎ方法も事前に定めておきましょう。

承認プロセスの電子化対応

紙ベースでは上司のハンコで承認していた工程を電子的な承認フローに置き換えます。勤怠管理システムや社内ワークフローシステムと連携させることで、申請から承認、提出までを一貫して処理できます。

承認権限のレベル設定や承認者不在時の代理承認ルールも整備しましょう。電子承認の証跡が残るため、監査対応も容易になります。

勤怠管理システムとの連携メリット

労働安全衛生関係の手続きには、労働時間や勤務状況のデータが必要です。勤怠管理システムと連携することで、データ入力の手間を大幅に削減できます。

労働時間データの自動連携

時間外労働や休日労働に関する協定届の作成には、正確な労働時間データが不可欠です。勤怠管理システムで集計した労働時間データをe-Gov連携機能を持つシステム(電子申請専用システムや労務管理システムなど)へ自動連携し、そのデータをもとに協定届などの申請書類を自動生成して e-Gov から電子申請する仕組みを構築することで、手入力によるミスを防ぎ、作業時間を削減できます。

具体的には、以下のようなデータフローになります。

  • 勤怠管理システムで労働時間を集計
  • 電子申請システムや労務管理システムが勤怠データを自動取得
  • 取得したデータをもとに申請書類を自動生成
  • 生成した申請書類を e-Gov へ電子申請

月別、部署別、個人別など、必要な単位で集計されたデータをそのまま活用できるため、担当者の負担が軽減されます。また、リアルタイム(またはそれに近いタイミング)でデータを参照できるようにしておくことで、申請のタイミングも逃しません。

なお、e-Gov に直接「勤務情報(出勤日数や労働時間等)」そのものを提出する手続きがあるわけではなく、電子申請されるのはあくまで協定届などの申請書類です。

健康診断データとの統合管理

定期健康診断や特殊健康診断の結果報告には、従業員の勤務状況や配属部署の情報が必要です。勤怠管理システムと連携することで、誰がどの部署で、どのような業務に従事しているかを正確に把握できます。

健康診断の受診対象者の抽出も自動化できます。勤続期間や年齢、従事業務の種類などの条件に基づき、受診が必要な従業員をシステムが自動的にリストアップします。

申請漏れ防止のアラート機能

勤怠管理システムに電子申請の期限管理機能を組み込むことで、提出期限が近づくと自動的にアラートが発信されます。これにより申請漏れのリスクを大幅に低減できます。

特定の条件を満たした場合に通知する設定も可能です。例えば、時間外労働が一定時間を超えた場合に関係者へ自動通知することで、適切なタイミングでの手続きを促せます。

電子申請システムの選定基準

電子申請に対応するシステムは複数ありますが、自社の規模や業務特性に合ったものを選ぶことが重要です。すでにシステムを導入している企業も、運用改善の際の参考にしてください。

e-Govへの対応状況

労働安全衛生関係の電子申請は、政府が運営する「e-Gov」ポータルを通じて行います。選定するシステムがe-Govとの連携に対応しているかを確認しましょう。

API連携により、システムから直接e-Govへデータを送信できる機能があると便利です。手動でのデータ移行が不要になり、入力ミスのリスクも削減されます。

既存システムとの連携性

勤怠管理システム、給与計算システム、人事システムなど、すでに導入している社内システムとスムーズに連携できるかが重要です。データの二重入力を避け、業務全体の効率化を実現するためには、システム間の連携性がカギとなります。

クラウドベースのシステムであれば、複数拠点からのアクセスも容易です。拠点ごとに異なるシステムを使用している場合は、統合の機会としてとらえることもできます。

セキュリティと運用コスト

労働者の個人情報や健康情報を扱うため、高度なセキュリティ対策が施されたシステムを選びましょう。データの暗号化、アクセスログの管理、バックアップ体制などを確認します。

初期導入費用だけでなく、月額利用料、保守費用、電子証明書の更新費用など、継続的なコストも考慮します。従業員数や事業場数に応じた料金体系になっているか、将来的な拡張性も検討しましょう。

まだ移行できていない企業が今すぐ取るべき対応

電子申請の義務化はすでに実施されています。まだ完全に電子申請に移行できていない企業は、早急に以下の対応を進める必要があります。

対象手続きの緊急確認

自社が提出すべき労働安全衛生関係の手続きのうち、どれが電子申請義務化の対象となっているかを至急確認します。特に常時50人以上の労働者を使用する事業場は、定期健康診断結果報告書が義務化の対象です。

提出期限が迫っている手続きがないか、過去に提出漏れがないかも確認しましょう。必要に応じて労働基準監督署や社会保険労務士に相談することをおすすめします。

最小限の体制整備

完璧なシステム構築を目指すあまり時間をかけすぎると、さらなる提出遅延のリスクが高まります。まずは最小限の体制で電子申請を開始できるよう準備します。

電子証明書の取得、e-Govへのアカウント登録、担当者の決定など、必須の準備項目を優先的に進めます。システム連携などの高度な機能は、基本的な運用が安定してから段階的に導入しても構いません。

外部専門家の活用

自社だけでの対応が難しい場合は、社会保険労務士などの外部専門家に相談しましょう。手続きの代行やシステム導入のサポートを受けることで、スムーズな移行が可能になります。

特に複数の事業場を持つ企業や特殊な業種の場合は、専門家の知見が役立ちます。初期のコストはかかりますが、法令違反のリスクを回避できることを考えれば、投資する価値は十分にあります。

 

電子申請義務化後の運用改善

電子申請を開始した後も継続的に運用を見直し、改善することが大切です。

定期的な運用状況の確認

申請件数、処理時間、エラー発生状況などを定期的に監視します。当初想定していた業務フローで問題がないか、制約が生じていないかを確認します。

担当者からのフィードバックを収集し、使いにくい点や改善要望を吸い上げます。システムのバージョンアップや新機能の追加があれば、積極的に活用を検討しましょう。

他の手続きへの展開

労働安全衛生関係以外にも、社会保険手続きや労働保険手続きなど、電子申請が可能な手続きは多数あります。一度電子申請の体制を整えれば、他の手続きにも展開しやすくなります。

段階的に電子化の範囲を広げることで、人事労務業務全体のデジタル化を推進できます。最終的には、ペーパーレスで効率的な業務環境を実現できるでしょう。

法改正への対応体制の構築

労働関連法規は頻繁に改正されており、電子申請の対象手続きや提出期限も変更される可能性があります。法改正情報を迅速に把握し、社内の手続きフローに反映できる体制を構築します。

社会保険労務士など外部専門家との連携も有効です。定期的な情報交換や相談を行うことで、法令遵守と業務効率化の両立を維持できます。

まとめ

2025年1月から労働安全衛生関係手続きの電子申請義務化が実施されています。まだ完全に移行できていない企業は、法令違反のリスクを避けるため早急な対応が必要です。社内の手続きフローを見直し、勤怠管理システムとの連携を整備することで、法令遵守と業務効率化を同時に実現できます。

重要なのは速やかな体制整備です。対象となる手続きを正確に把握し、システム選定から担当者の教育まで計画的に進めましょう。電子申請への移行を契機に、人事労務業務全体のデジタル化を推進することで企業の競争力強化にもつながります。

電子申請に必要な労働時間データの管理を効率化するアマノのソリューション

アマノでは、労働安全衛生関係の電子申請に必要な労働時間データを正確に管理し、労務管理システムとスムーズに連携できる勤怠管理ソリューションをご用意しています。電子申請業務の効率化と法改正への対応を実現したい企業の皆様は、以下のラインアップをご参照ください。

参考:

GUIDE

勤怠管理のパイオニア「AMANO」のノウハウをぎゅっと凝縮してお届けします!

01基礎知識

勤怠管理の意義と
重要性

02選び方

勤怠管理システム
選び方の基本

03実践編

勤怠管理システム
導入のポイント

全てを1つの資料にまとめた総集編「勤怠管理の選び方完全ガイド」無料配布中!

「高いシステムと安いシステムでは何が違うのか」を徹底解説