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【社労士監修】2025年1月以降、定期健康診断結果報告等の電子申請が義務化!労働安全衛生法改正について解説
公開日時:2024.12.06
本記事では、電子申請が原則義務化される手続きと、労働者死傷病報告の改正内容について解説します。
井上 敬裕 氏
中小企業診断士・社会保険労務士
青果加工場の工場長を約9年間務めた後、40歳の時に中小企業診断士として独立。販路開拓支援、事業計画作成支援、6次産業化支援、創業支援などを行う。
平成27年社会保険労務士として開業し、現在は社会保険労務士として給与計算を中心に労務関連業務を行っている。
社会保険労務士法人アスラク 代表社員
https://sr-asuraku.or.jp/about/
電子申請が原則義務化される手続き
電子申請の義務化は、報告者(事業者)の負担軽減や報告内容の適正化、統計処理の効率化などを目的に進められています。今回の改正で電子申請が原則義務化されるのは、以下の手続きです。ただし、いずれも電子申請が困難な場合には、紙媒体での報告が経過措置として認められています。
定期健康診断結果報告
労働安全衛生法では、「事業者は労働者に対して医師による健康診断を実施しなければならず、また、労働者は事業者が行う健康診断を受けなければならない」と定められています。健康診断には「一般健康診断」と、有害な業務に従事する労働者が受ける「特殊健康診断」の2種があります。うち一般健康診断には、雇入時の健康診断、定期健康診断、特定業務従事者の健康診断、海外派遣労働者の健康診断、給食従業員の検便の5つがあります。
このうち定期健康診断については、1年以内ごとに1回実施する必要があり、常時50人以上の労働者を使用する事業者は、定期健康診断結果を遅滞なく所轄の労働基準監督署長に提出する義務があります。この定期健康診断結果報告について、原則電子申請で行うことが義務化されます。また、特別な健康診断のうち、有害な業務に係る歯科健康診断報告、有機溶剤等健康診断結果報告、じん肺健康管理実施状況報告についても原則電子申請が義務化されます。
ストレスチェック結果報告
ストレスチェック(心理的な負担の程度を把握するための検査)の結果報告も、原則電子申請で行うことが義務化されます。
事業者は毎年1回、常時使用する労働者に対して、医師や保健師によるストレスチェックを実施することが義務付けられています(労働者数50人未満の事業場は当分の間努力義務)。そしてストレスチェック検査の結果、一定の要件に該当する労働者から申し出があった場合は、医師による面接指導を行い、面接指導の結果に基づいて医師の意見を聞き、必要に応じて就業上の措置を講じなければなりません。
常時50人以上の労働者を使用する事業者は、検査、面接指導の実施状況等について、毎年1回、定期的に所轄の労働基準監督署長に報告する義務があり、ストレスチェックを行わなかった場合も報告しなければなりません。
総括安全衛生管理者/安全管理者/衛生管理者/産業医の選任報告
総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医の選任報告を原則電子申請で行うことも義務化されます。
総括安全衛生管理者
常時100人以上(業種によっては300人以上または1,000人以上の事業場)の労働者を使用する事業場に選任義務があります。
安全管理者
常時50人以上の労働者を使用する特定の業種の事業場に選任義務があります。
衛生管理者と産業医
常時50人以上の労働者を使用するすべての業種の事業場に選任義務があります。
これらの選任は、その選任すべき事由が発生した日から14日以内に行い、遅滞なく所轄の労働基準監督署長に報告する必要があります。
労働者死傷病報告
最後に、労働者死傷病報告も原則電子申請で行うことが義務化されます。すべての事業者に対し、以下の場合は遅滞なく労働者死傷病報告を労働基準監督署長に提出することが義務付けられています。
- 労働者が労働災害により死亡し、又は休業したとき
- 労働者が就業中に負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したとき
- 労働者が事業場内又はその附属建設物内で負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したとき
労働者死傷病報告を提出しなかったり、虚偽の報告をしたりした場合には、「労災かくし」として50万円以下の罰金が課されることがあります。
なお、労働者死傷病報告の電子申請義務化と同時に報告内容の改正も行われます。従来の報告書では、以下の5項目について自由記載で手入力が必要でしたが、改正により1.2.3.5は選択式となり、4については記入欄が5分割されました。
- 事業の種類
- 被災者の職種
- 傷病名及び傷病部位
- 災害発生状況及び原因
- 国籍・地域及び在留資格
電子申請の方法
現状では、上記手続きを含む労働安全衛生法関係の届出・申請の方法には以下の3つがあります。
- 労働基準監督署にある印刷された様式に手書きで記入する方法
- パソコン等で帳票作成を行い、帳票を印刷して提出する方法
- 電子申請により紙を使わずに申請する方法
このうち2、3については、厚生労働省が運営する「労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス」を無料で利用することができます。
同サイトでは、電子申請を利用する・しないという2つの作成メニューに分かれており、電子申請を選択した場合は、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末での操作も可能です。総務省が運営する行政サービスの情報サイト「e-Gov(イーガブ)」のIDとパスワードを通じてログインすると、同サービスの電子申請手続きの帳票作成メニュー画面につながるようになっています。
まとめ
電子申請の義務化によって、現状より電子申請が進むことが考えられますが、電子申請に至るまでには、オンラインとe-Govという2つの壁があります。オンライン化はかなり普及していると思われますが、オンライン環境が整っていなければ帳票を入力作成・印刷することができません。また、オンライン環境が整っているにもかかわらず、e-Govの設定が分かりにくいといった理由でe-Govを利用していない事業者も一定数いるのが現状です。e-Govの設定が分かりにくくなっている原因のひとつとしては、電子署名が必要な手続きと必要でない手続きが混在していることがあります。電子署名を取得しないと電子申請はできないという誤解もあるようです。
今回の改正による手続きは、すべて電子署名がなくても申請可能です。入力画面も分かりやすいことから、今まで電子申請を利用していなかった事業主も、電子申請を始めるきっかけにつながるのではないかと期待されます。