人事・労務なんでもQ&A
外国人の雇用を検討しています。雇用上の注意点はありますか? また、助成金制度などもあれば知りたいです。
大友 大 氏
社会保険労務士
大手資格予備校にて、制作課チーフとして社労士試験必修テキストの執筆、全国模試の監修を行う。
平成20年より都内の社会保険労務士事務所に勤務ののち、平成26年に開業。
給与計算業務を中心に行いつつ、労務にまつわるさまざまな問題に取り組む。
大友労務管理事務所 代表
Q. 外国人の雇用を検討しています。雇用上の注意点はありますか? また、助成金制度などもあれば知りたいです。
事業拡大に伴い外国人材の採用を検討していますが、在留資格の確認方法や労働条件の設定など、どのような点に注意すればよいかわからず困っています。また、外国人雇用に関する助成金制度があれば活用したいのですが、どのようなものがあるか教えてください。
A. 在留資格の確認と適切な労働条件の設定が必要です
外国人を雇用する際は、就労可能な在留資格の確認が最も重要です。不法就労となる外国人を雇用した場合、企業は不法就労助長罪に問われ、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります。また、労働条件は日本人と同等以上とする必要があり、賃金や労働時間などで差別的な取り扱いは認められません。
外国人雇用には人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)をはじめ、複数の助成金制度が用意されています。適切な手続きと制度活用により、安心して外国人材を受け入れることができます。ただし、助成金の要件は細かく定められているため、事前の確認が欠かせません。
外国人雇用における法的義務と基本原則
外国人を雇用する企業には、出入国管理及び難民認定法(入管法)や労働基準法など複数の法律に基づく義務が課されています。これらの法令を正しく理解し遵守することが、適正な外国人雇用の第一歩となります。
在留資格の確認義務
外国人が日本で就労するには、就労が認められた在留資格が必要です。企業は雇用前に必ず在留カードで資格外活動許可の有無を含めて確認しなければなりません。在留資格には「技術・人文知識・国際業務」「技能」「特定技能」などさまざまな種類があり、それぞれ従事できる業務内容が定められています。
在留カードは偽造されるケースもあるため、出入国在留管理庁の在留カード等番号失効情報照会で真贋を確認することが推奨されます。また、在留期間の更新手続きが必要な場合は、期限を管理して適切に対応する体制を整えましょう。
労働条件の平等原則
労働基準法第3条では、国籍を理由とする労働条件の差別的取り扱いを禁止しています。外国人労働者に対しても、日本人と同等以上の賃金や労働時間、休日などの労働条件を保障しなければなりません。「外国人だから最低賃金でよい」という考え方は法律違反となります。
同一労働同一賃金の原則が適用されるため、業務内容や責任の程度が同じであれば、国籍にかかわらず同じ待遇としなければなりません。賃金テーブルの設計時には、職務内容を基準とした公平な評価制度を構築しましょう。
ハローワークへの届出義務
外国人を雇用または離職させた場合、ハローワークへの届出が義務づけられています。雇用保険の被保険者となる外国人については雇用保険の届出(資格取得届・喪失届)を行います。被保険者とならない外国人の場合は別途「外国人雇用状況届出書」の提出が必要です。届出を怠ると30万円以下の罰金が科される可能性があります。
届出には氏名(ローマ字表記含む)、在留資格、在留期間、生年月日、国籍・地域、資格外活動許可の有無、在留カード番号などの情報が必要となるため、雇用契約時にこれらの情報を正確に記録する体制を整えておくことが重要です。
外国人雇用状況届出書の届出期限は、雇い入れ、離職の場合ともには翌月末日までです。雇用保険の届出に関しては、資格取得届が雇い入れの翌月10日まで、資格喪失届が離職日の翌日から10日以内となっています。届出の種類によって期限が異なるため、区別して対応する必要があります。
外国人雇用状況届出書については、以下の記事で詳しく解説しています。
在留資格の種類と就労範囲
日本の在留資格は29種類あり、それぞれ就労の可否や従事できる業務内容が異なります。採用したい業務内容に適合する在留資格を持つ人材を選定することが、トラブル防止の基本です。
主な在留資格と就労範囲
| 在留資格 | 就労制限 | 従事可能な業務例 | 単純労働 |
| 永住者 | なし | 制限なし | 可 |
| 技術・人文知識・国際業務 | あり | 技術者、通訳、デザイナー | 不可 |
| 特定技能 | あり | 介護、建設、農業等 | 可 |
| 留学(資格外活動許可) | 週28時間以内 | パートタイム全般 | 可 |
参考:
就労制限のない在留資格
永住者、日本人の配偶者、永住者の配偶者等、定住者の在留資格を持つ外国人は、就労に制限がありません。どのような業務にも従事させることができるため、企業にとって採用しやすい人材といえます。ただし、永住者以外は在留期間の管理や更新手続きが必要です。
これらの在留資格保持者は長期的な雇用が見込めるため、キャリア形成を視野に入れた採用計画を立てやすいメリットがあります。企業は安定した人材確保の観点から、積極的な採用を検討できるでしょう。
就労内容に制限がある在留資格
「技術・人文知識・国際業務」は、理工系の技術者や通訳、デザイナーなど専門的な業務に従事する場合の資格です。「技能」は、外国料理の調理師や貴金属加工など特殊な技能を要する業務が対象となります。これらの資格では、単純労働や現場作業に従事させることはできません。
「特定技能」は、人手不足が深刻な特定の16分野において、一定の専門性を持つ外国人を受け入れる制度です。介護、建設、農業、飲食料品製造業などが対象となり、比較的幅広い業務に従事できます。企業はそれぞれの資格の要件を正確に把握し、業務内容との適合性を慎重に判断する必要があります。
資格外活動許可について
「留学」など本来は就労が認められない在留資格でも、資格外活動許可を得れば週28時間以内のパートタイム労働が可能です。在留カード裏面の「資格外活動許可」欄を確認し、許可の有無や就労時間の上限を把握しましょう。許可なく就労させた場合、企業側も罰則の対象となります。
資格外活動の許可には包括許可と個別許可の2種類があり、留学生は通常包括許可となります。包括許可は、一定の条件の下で広範囲の活動を一括で許可するもので、アルバイト先を変えても再申請が不要です。一方、個別許可は特定の活動や勤務先ごとに審査されます。
ただし、風俗営業関連の業務に従事する活動は禁止されているため、業種によっては雇用できない点に注意が必要です。就労時間管理を徹底し、上限を超えないよう勤怠管理システムでアラート設定するなどの対策が求められます。
外国人雇用時の具体的な手続き
外国人を雇用する際は、日本人の採用とは異なる特有の手続きが必要です。段階的に確実に進めることで、法令違反やトラブルを防ぐことができます。
採用前の確認事項
面接時には必ず在留カードの原本を確認します。コピーだけでなく原本を見ることで、偽造カードの使用を防げます。在留資格の種類、在留期間、就労制限の有無を確認し、採用予定の業務内容と照合しましょう。
出入国在留管理庁のウェブサイトで在留カード番号の失効情報を照会することも重要です。また、パスポートもあわせて確認し、在留カードとの整合性を確認します。在留期間の残りが短い場合は、更新手続きのタイミングや更新の見込みについても確認が必要です。
労働契約書の作成
労働契約書は日本語だけでなく、外国人労働者が理解できる言語でも作成することが望ましいとされています。労働条件を明確に示し、誤解やトラブルを防ぐためです。賃金、労働時間、休日、契約期間などの基本的な労働条件を具体的に記載します。
在留資格に適合した業務内容を明記することも重要です。契約書に記載された業務が在留資格で認められた範囲を超えていると、更新時に不許可となる可能性があります。社会保険や雇用保険の加入についても明記し、日本の労働法制に基づいた適切な待遇を保障する姿勢を示しましょう。
就業規則の多言語化
外国人労働者が一定数在籍する場合、就業規則を主要言語に翻訳することが推奨されます。労働条件や服務規律、懲戒事由などを母国語で理解できることで、職場でのトラブル防止につながります。
翻訳の際は専門用語や法律用語を正確に訳すため、法律知識のある翻訳者に依頼することが望ましいでしょう。また、日本特有の労働慣行や企業文化についても、わかりやすい説明を添えることで、円滑な職場適応を支援できます。
ハローワークへの届出手続き
雇用開始後、速やかにハローワークへ届出を行います。雇用保険被保険者の場合は「雇用保険被保険者資格取得届」に在留資格などの情報を記載して提出します。雇用保険に加入しない場合は「外国人雇用状況届出書」の提出が必要です。
届出はハローワークの窓口または電子申請で行えます。電子申請を利用すると手続きが効率化されるため、外国人を継続的に雇用する企業には導入がおすすめです。届出情報は適切に管理し、在留期間更新時にも速やかに更新届を提出できる体制を整えましょう。
外国人雇用に関する助成金制度
外国人の雇用や定着支援には一定のコストがかかりますが、国は複数の助成金制度を用意して企業を支援しています。要件を満たせば、これらの制度を活用して費用負担を軽減できます。
※ここで紹介している助成金は2025年11月時点で有効なものです。最新の情報は付記されているリンクからご確認ください。
人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)
外国人労働者の職場定着を目的とした就労環境整備を行う事業者に対して支給される助成金です。外国人労働者の雇用管理改善や職場環境の整備に取り組む企業が対象となります。外国人労働者を雇用する事業者が、就労環境整備措置を実施した場合に支給されます。
具体的には、雇用労務責任者の選任、就業規則等の多言語化、苦情・相談体制の整備、一時帰国のための休暇制度の整備などの取り組みが対象です。支給額は実施した措置の内容に応じて決定され、上限額が設定されています。計画的に環境整備を進めることで、外国人労働者の定着率向上と助成金の受給を同時に実現できます。
参考:
人材開発支援助成金(人材育成支援コース)
従業員に対して職業訓練や能力開発を実施する事業主に支給される助成金で、外国人労働者も対象となります。日本語教育や業務に必要な専門技能の習得研修などを実施する際に活用できます。
OFF-JT(座学研修)やOJT(実地訓練)にかかる経費や、訓練期間中の賃金の一部が助成されます。外国人労働者の早期戦力化と定着促進に効果的な制度です。支給額や要件は訓練内容や企業規模によって異なるため、計画段階で労働局に相談することが重要です。
参考:
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
一定期間試行雇用することで、求職者と企業の相互理解を深め、早期就職の実現や雇用機会の創出を図る制度です。外国人求職者も対象となり、原則3カ月間のトライアル雇用期間中、1人あたり月額最大4万円が支給されます。
トライアル雇用を経て常用雇用に移行することで、企業はミスマッチのリスクを軽減できます。外国人労働者にとっても、日本の職場環境に慣れる期間として有効です。ハローワークや職業紹介事業者の紹介が要件となるため、募集段階から連携しておくことが重要です。
参考:
キャリアアップ助成金(正社員化コース)
有期雇用労働者を正規雇用労働者に転換した場合に支給される助成金で、外国人労働者も対象となります。ただし、長期就労が可能な在留資格を持ち、雇用保険の被保険者であることが条件です。2025年4月の改正により、支給額は基本的に中小企業の場合、重点支援対象者であれば1期40万円ずつの2期、計80万円を受給可能です。重点支援対象者以外の場合は1期40万円が基本となります。初めて正規転換制度を作成し利用した場合の加算もありますが、基本は1期のみの40万円です。
外国人材の長期雇用と定着促進には、正社員登用制度と助成金を組み合わせた人事戦略が効果的です。計画的な転換制度の設計が企業と労働者双方にメリットをもたらします。
参考:
助成金申請時の注意点
助成金の申請には、事前の計画届の提出や詳細な要件確認が必要です。多くの助成金は事後申請ができないため、雇用前または施策実施前に労働局やハローワークに相談することが重要です。また、申請には就業規則の整備や賃金台帳の作成など、適切な労務管理体制が前提となります。
助成金は年度ごとに制度内容や予算が変更される場合があります。最新の情報を厚生労働省のウェブサイトで確認し、不明点は専門家に相談しながら進めることをおすすめします。社会保険労務士に依頼すれば、申請手続きの代行も可能です。
外国人労働者の定着支援と職場環境整備
外国人労働者を採用した後は、長期的に活躍できる環境を整えることが企業の競争力強化につながります。文化や言語の違いに配慮した支援体制の構築が欠かせません。
コミュニケーション支援
言語の壁は外国人労働者が直面する最大の課題のひとつです。業務上必要な日本語教育の機会を提供することで、円滑な業務遂行とコミュニケーションを促進できます。社内文書や業務マニュアルの多言語化も効果的です。
日本語教育は外部の日本語学校と提携する方法や、社内でeラーニングシステムを導入する方法があります。また、日本人社員に対しても異文化理解研修を実施することで、相互理解が深まり、より良い職場環境が実現します。
メンター制度の導入
外国人労働者に対して、相談役となるメンターを配置することが推奨されます。業務上の疑問や生活面での困りごとを気軽に相談できる存在がいることで、早期離職を防ぎ、職場への定着が促進されます。
メンターには異文化理解や外国人労働者の支援に関する研修を受けさせることが望ましいでしょう。定期的な面談の機会を設け、困りごとがないか確認する仕組みを作ることで、問題の早期発見と解決が可能です。
キャリアパスの明確化
外国人労働者にも日本人と同様に、明確なキャリアパスを示すことが重要です。昇進・昇格の基準を明確にし、能力や成果に応じた評価制度を整備します。長期的なキャリア形成の見通しが持てることで、モチベーション向上と定着率の改善が期待できます。
定期的な評価面談の実施や、スキルアップのための研修機会の提供も効果的です。将来的に管理職や専門職として活躍できる道筋を示すことで、優秀な外国人材の確保と育成が実現します。
勤怠管理上の注意点
外国人労働者の勤怠管理では、在留資格による就労時間の制限や文化的背景の違いに配慮した運用が求められます。適切な管理体制の構築が法令遵守と労働者保護の両立につながります。
就労時間の上限管理
資格外活動許可を得て働く留学生などは、週28時間の就労時間上限が定められています。この上限を超えた場合、労働者の在留資格は更新時に不許可となる可能性があり、企業も不法就労助長罪に問われる可能性があります。勤怠管理システムで自動的にアラートが出る仕組みを導入し、超過を未然に防ぐことが重要です。
複数の職場でパートタイムをしている場合、合算で週28時間以内に収める必要があります。採用時に他のパートタイムの有無を確認し、労働時間の管理方法について説明しておきましょう。長期休暇期間中は1日8時間まで就労可能となるため、期間ごとの制限を正確に把握する必要があります。
休暇制度の説明と配慮
日本の年次有給休暇制度は、外国人労働者にとって理解しにくい場合があります。取得方法や計画的付与制度について、丁寧に説明する必要があるでしょう。また、母国の祝日や宗教上の行事に配慮した柔軟な休暇取得を認めることで、働きやすい環境を提供できます。
一時帰国のための長期休暇制度を整備している企業もあります。こうした制度は外国人労働者の定着率向上に効果的であり、前述の人材確保等支援助成金の対象にもなります。就業規則に明記し、計画的な取得を促す運用を心がけましょう。
勤怠管理システムの運用サポート体制
外国人労働者が勤怠管理システムを適切に利用できるよう、分かりやすい操作マニュアルの整備とサポート体制の構築が重要です。システム導入時には、外国人労働者向けに丁寧な説明会を実施し、打刻方法や残業申請の手順を確実に理解させましょう。
視覚的に分かりやすいインターフェースを持つシステムを選ぶことで、言語の壁を超えた直感的な操作が可能になります。また、困ったときに相談できる窓口を設け、母国語でサポートできる担当者を配置することも効果的です。定期的に操作方法の確認を行うことで、申請漏れや誤操作によるトラブルを防げます。
外国人雇用におけるリスク管理
外国人雇用には特有のリスクが存在します。事前に想定されるリスクを把握し、適切な対策を講じることで、企業は安定的に外国人材を活用できます。
不法就労のリスクと対策
在留資格を持たない外国人や、在留期間が過ぎた外国人を就労させた場合、企業は不法就労助長罪に問われます。罰則は「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはその併科」と重く、企業の社会的信用も大きく損なわれます。
定期的な在留カードの確認を徹底し、更新時期が近づいた労働者には事前に通知する仕組みを構築しましょう。人事管理システムに在留期間を登録し、期限が近づくとアラートが出る機能を活用すると効果的です。万一、在留資格の更新が不許可となった場合の対応手順もあらかじめ定めておく必要があります。
労働条件に関するトラブル防止
言語や文化の違いから、労働条件についての認識の齟齬が生じやすくなります。契約内容を文書で明確にし、外国人労働者が理解できる言語での説明を徹底することが重要です。定期的な面談で労働条件や職場環境について確認する機会を設けましょう。
賃金の支払い方法や控除項目についても、詳細に説明することが必要です。日本では所得税や社会保険料が給与から天引きされることを理解していない場合があります。給与明細も多言語化し、各項目の意味を説明する資料を用意すると誤解を防げます。
文化的摩擦への対応
宗教上の理由による食事制限や礼拝の時間、服装に関する配慮など、文化的な違いから生じる問題に柔軟に対応する姿勢が求められます。他の従業員への理解促進も含めて、多様性を尊重する職場文化を醸成することが大切です。
ダイバーシティ研修を実施し、異文化理解を深める機会を定期的に設けることが推奨されます。外国人労働者と日本人社員の交流イベントを企画することで、相互理解が進み、より良いチームワークが生まれます。
まとめ
外国人雇用は、適切な手続きと環境整備により、貴重な戦力補強策となり得ます。在留資格の確認と労働条件の平等な設定が最重要ポイントです。ハローワークへの届出を忘れず、法令遵守を徹底しましょう。
助成金制度を活用すれば、雇用コストの負担を軽減しながら、外国人労働者の定着支援や職場環境整備を進められます。また、勤怠管理システムの導入により、就労時間管理の適正化と業務効率化を同時に実現できます。
外国人材の活用は、企業のグローバル化と競争力強化の重要な施策です。適切な労務管理体制を構築し、多様性を生かした組織づくりを進めましょう。
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