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【社労士監修】令和7年度の賃金引き上げ支援策について

公開日時:2025.07.15

毎年10月1日に実施される最低賃金の改定で、2024年は全国平均で50円という過去最大の引き上げが行われました。昨今も物価高騰が続いていることから、2025年も同程度の最低賃金の引き上げが予想されます。厚生労働省では、賃上げによる事業者の負担を緩和する施策としてさまざまな助成金を設けています。今回は賃上げを支援する助成金について解説します。
井上 敬裕 氏

井上 敬裕 氏

中小企業診断士・社会保険労務士

青果加工場の工場長を約9年間務めた後、40歳の時に中小企業診断士として独立。販路開拓支援、事業計画作成支援、6次産業化支援、創業支援などを行う。
平成27年社会保険労務士として開業し、現在は社会保険労務士として給与計算を中心に労務関連業務を行っている。

社会保険労務士法人アスラク 代表社員
https://sr-asuraku.or.jp/about/

業務改善助成金

事業内最低賃金を引き上げることで設備導入などを助成

業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者が事業場内でもっとも低い賃金(事業場内最低賃金)を30円以上引き上げ、生産性向上に資する設備投資等を行った場合に、その設備投資等にかかった費用の一部に対して支給される助成金です。

賃金引き上げのコース区分は

  • 30円コース(30円以上)
  • 45円コース(45円以上)
  • 60円コース(60円以上)
  • 90円コース(90円以上)

の4区分があります。

賃金を引き上げる労働者数によって助成金の上限額が上がっていくしくみです。事業場規模が30人未満の事業者の場合、助成金の上限額は最低60万円(30円コース、引き上げる労働者数1人)、最大600万円(90円コース、引き上げる労働者数10人以上)です。助成率は、引き上げ前賃金の時給換算額が1,000円未満の場合は5分の4、1,000円以上の場合は4分の3となっています。

賃金要件等を満たせば申請が可能

業務改善助成金は、常時雇用する労働者が1名いれば申請可能で、雇用保険に入っていないパートを1名雇用しているだけでも対象となります。ただし、その労働者の時給(事業場内最低賃金)と事業場の属する都道府県の地域別最低賃金との差額が50円以内という要件を満たす必要があります。労働者が複数いる場合は、そのうち最低1名の時給について地域別最低賃金との差額が50円以内でなければなりません。月給者しかいない場合は、月給を所定労働時間で除して算出した時給換算額が事業場内最低賃金要件を満たしているかどうかを確認します。

さらに、交付申請を行う時点で事業場内最低賃金要件を満たす労働者を6か月間以上雇用しているということも要件です。この要件を満たしていない場合は6か月間の雇用実績を作ったうえで交付申請を行うことになります。

申請事業者が中小企業・小規模事業者であり、みなし大企業でないこと、そして解雇や賃金引き下げなどの不交付事由がないことも必要です。

これらの要件をすべて満たせば、業務改善助成金の申請が可能になります。

交付申請と賃金引き上げのタイミング

10月の最低賃金引き上げ実施後に申請する場合、事業内最低賃金が改定後の地域別最低賃金を下回る可能性があります。その場合は、事業内最低賃金を地域別最低賃金水準まで引き上げたうえで、30円以上の賃上げを行う必要が生じます。そのため、10月になる前に賃金引き上げの計画を策定し交付申請を行うとよいでしょう。

キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース )

非正規雇用者の基本給のベースアップが対象

キャリアアップ助成金賃金規定等改定コースは、有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、適用させた場合に支給されるコースです。1人あたりの助成額として、賃金増額幅に応じて以下の4つの支給区分が設定されています。

(1) 3%以上4%未満:支給額4万円(大企業2.6万円)
(2) 4%以上5%未満:支給額5万円(大企業3.3万円)
(3) 5%以上6%未満:支給額6.5万円(大企業4.3万円)
(4) 6%以上:支給額7万円(大企業4.6万円)

賃金規定等改定コースには加算措置があり、「職務評価」の手法の活用により賃金規定等を増額改定した場合は1事業所あたり1回のみ20万円(大企業は15万円)が加算されます。また、有期雇用労働者等の昇給制度を新たに設けた場合は、1事業所あたり1回のみ20万円(大企業は15万円)が加算されます。

要件や取り組みのポイントなど

この助成金の対象となるのは雇用保険の被保険者のみで、被保険者であっても正社員は対象にはなりません。同一の雇用管理区分(労働者の職種、資格、雇用形態、就業形態などによって異なる雇用管理のこと)にある労働者については、全員に3%以上増額改定した賃金テーブルを適用させる必要があります。また、賃金規程改定を行う前に労働局にキャリアアップ計画書を提出しなければなりません。

働き方改革推進支援助成金

労働時間削減や年次有給休暇の取得促進が対象

働き方改革推進支援助成金は、中小企業事業主を支給対象とする制度です。労働時間の削減や年次有給休暇の取得促進に取り組み、外部専門家のコンサルティング、労務管理用機器の導入などを実施し成果を上げた場合に支給されます。

賃上げを行うことにより助成金の加算が行われます。賃金加算は引き上げ幅に応じて、

(1) 3%以上

(2) 5%以上

(3) 7%以上

の3区分あり、常時使用する労働者数が30人以下の場合は最大で720万円の加算が行われます。

要件や取り組みのポイントなど

この助成金は雇用保険の適用事業所でなくても(雇用保険の被保険者がいなくても)対象になります。したがって、前述した業務改善助成金の要件を満たさない場合にも、この助成金に取り組むことにより、労働生産性の向上に資する設備・機器導入等を行うことが可能です。ただし、設備・機器導入等は交付決定を受けたのちに行う必要があるので注意が必要です。

人材開発支援助成金

研修の費用や研修中の賃金を助成

人材開発支援助成金は、職務に関連した専門的な知識および技能を習得させるための職業訓練等を実施した場合に訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度です。訓練終了後に5%以上の賃上げまたは資格等手当を就業規則等に規定し、訓練受講者に実際に資格等手当を支払い3%以上賃金を上昇させた場合に、賃金助成額や経費助成率、OJT実施助成額の加算が行われます。賃上げ加算の対象となるのは、

  • 人材育成支援コース
  • 教育訓練休暇等付与コース
  • 人への投資促進コース

の3コースで、事業展開等リスキリング支援コースには賃上げ加算はありません。

要件や取り組みのポイントなど

この助成金の対象となるのは雇用保険の被保険者のみです。職業訓練を開始する日の1か月前までに訓練計画届を労働局に提出する必要があります。ここで取り組むOFF-JTによる訓練等は10時間以上のものでなければなりません。

人材育成支援コース、人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コースの訓練を修了した有期雇用労働者等が正規雇用労働者へ転換した場合は、キャリアアップ助成金正社員化コースの重点支援対象者となり助成金額が2倍の80万円となります。

人材確保等支援助成金(雇用管理制度・ 雇用環境整備助成コース )

雇用管理制度導入や雇用環境整備の取り組みが対象

人材確保等支援助成金(雇用管理制度・ 雇用環境整備助成コース )は、離職率低下に取り組む事業主を助成する制度です。雇用管理制度(賃金規定制度、諸手当等制度、人事評価制度など)や業務負担軽減機器等を導入して雇用管理改善を行い、離職率低下に取り組んだ場合に助成されます。

この助成金では、雇用管理制度の導入や雇用環境の整備を行ったのちに5%以上の賃上げを行うことにより助成額・助成率の加算が行われます。同助成金は一時新規受付を休止していましたが、2025年4月1日より整備計画の新規受付が開始されました。

要件や取り組みのポイントなど

助成金の対象となるのは雇用保険の被保険者であって、期間の定めなく雇用されている者または一定の期間を定めて雇用され、その雇用期間が反復継続され、事実上期間の定めなく雇用されている場合と同等と認められる者となります。雇用管理制度導入や雇用環境整備の取り組みを行った後の12か月間(評価時離職率算定期間)に離職率の目標を達成する必要があり、その後に支給申請が可能になるため、支給までに時間がかかるのが注意点です。

まとめ

今回は賃上げ支援策となる厚生労働省の助成金を取り上げましたが、経済産業省の補助金や地方自治体の実施する補助金・助成金についても賃上げが要件となっているものや、賃上げにより助成額や助成率が加算されるものが多くあります。賃上げをする際はこれらの制度に取組んでみてください。

参考:

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