加藤 大輔氏
特定社会保険労務士
大学卒業後、物流企業の輸出入業務部門での勤務を経て、2013年に社会保険労務士法人エールに入社。建設業界をメインとしつつ、企業と従業員双方が発揮し得る能力を、最大限引き出せるような制度設計を提案する人事労務コンサルタントとして活動。個々の企業に対し適切かつ効果的な人事制度整備・就業規則策定などの人事労務環境整備を行いつつ、関連するテーマにて企業、団体向けの講演や執筆等も行っている。
派遣労働者の受け入れは3年まで?
改正法では、従来、期間制限の無かったいわゆる専門26業務を含めた全ての業務で、2つの「3年間」という期間制限が設けられました。この3年間のカウントが改正法施行後からとなり、よってその最初の期限は2018年9月末となります。これが一つ目の2018年問題です。尚、派遣元に無期雇用されている派遣労働者や、60歳以上の者については以下の期間制限の対象外とされています。
「事業所単位」の期間制限、ただし延長が可能
期間制限の一つ目は「事業所単位」であり、これは同一の派遣先事業所に対して派遣できる期間上限を原則として3年とするものです。あくまでも事業所単位での受け入れ期間で考えますので、その3年間に派遣労働者が交替した場合でも、派遣可能期間の起算日は変わりません。
尚、事業所の定義については、支店、事務所、店舗など、場所的に独立して存在しているものや、人事・経理などがある程度独立しているものを指します(法人単位ではない)。
尚、この期間制限については、派遣先が事業所の過半数労働組合等からの意見聴取を行うなどの手順を踏むことで延長が可能ですので、大半の派遣先事業者はこの点での定期的な対応を求められることとなるでしょう。
「組織・個人単位」の期間制限とは?
もう一つの期間制限は「組織・個人単位」です。これは「同一の派遣労働者」を、派遣先の事業所における「同一の組織」に対し派遣できる期間の限度を3年とするものです。
組織の定義は事業所に比べ曖昧になりがちですが、典型的には「○○課」「××グループ」など、業務としての類似性、関連性があるものとされています。その他の考え方としては、ある組織の長が業務配分、労務管理上の指揮監督権限を有する集団、というものもあるので、社内での部門が異なっていたとしても、同じ組織長が管理を行い、業務にも類似性がある場合は、同一の組織であると判断されやすいと言えますので、この点は派遣元・派遣先事業者ともに注意が必要です。
労働契約申込みみなし制度との関連
労働契約申込みみなし制度は、2015年10月1日から施行されている制度で、派遣先が違法な派遣を受け入れた場合、その時点で、派遣先が派遣労働者に対して、その派遣労働者の派遣元における労働条件と同一条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなされるというものです。
違法な派遣の典型例は無許可の事業者からの派遣受け入れですが、先述の期間制限を超えて派遣労働者を受け入れた場合も当然違法な派遣に該当するため、期間制限が厳格化した現在においては特に注意を払う必要があるといえます。
当該制度は派遣先等が違法派遣に該当することを知らず、かつ知らなかったことに過失が無かった時は適用されませんが、期間制限については法制化されているものですので、これを知らなかったとして過失を免れることは難しいでしょう。
該当した派遣労働者が派遣先に雇用されることを希望した場合、このことを想定していない場合では派遣先・派遣元・派遣労働者間でのトラブルに発展する可能性がありますので、十分に注意が必要です。
特定派遣事業の廃止、一本化へ
従来は特定労働者派遣事業(届出制)と一般労働者派遣事業(許可制)に区分されていた派遣業において、全てが許可制である「労働者派遣事業」に一本化されました。
改正法施行後は新たな特定労働者派遣の届出はできなくなりましたが、改正法施行から3年後の2018年9月29日までは経過措置により、従来から特定派遣事業を営んでいる事業者については、引き続き特定派遣の実施が可能とされています。
この経過措置も終了が間近となり、特定労働者派遣事業を営んでいた事業者が派遣事業を継続するためには、新たに設けられた要件を満たして許可を得なければならない期限が迫っていることが、二つ目の2018年問題です。
許可要件の中でも厳しいハードル「資産要件」
届出制であった特定労働者派遣事業に比べ、許可制である労働者派遣事業における許可要件は、あらゆる面でハードルが高いため、これまで特定派遣事業者の中には、切り替えが難しいところも出てきています。
その中でも、直近の決算書における貸借対照表で確認される「資産要件」が特に中小零細事業者にとっては大きな障害となっています。この点を鑑みて、資産要件には緩和措置も設けられていますが、これも一部は2018年9月29日までの措置とされていますので、この点でも切り替え検討が急がれます。
また先述の通り、資産要件は直近の決算により要件を満たすことを基本としていますが、公認会計士、または監査法人による監査証明を受けた中間や月次の決算書によりこれを満たすことも認められています。その際には増資により要件を満たすことも可能であり、また先述の小規模事業者の緩和措置との併用も可能です。
派遣先企業にも求められる対応
厳しい許可要件を満たさねばならない派遣元事業者にとって、今回の改正は大きなものと言えますが、このことは派遣先事業者にとっても大きな課題となり得ます。
なぜなら、改正法における許可要件を満たすことが出来ず、派遣事業を継続できない事業者が一定数でてくると想定され、従来取引をしていた派遣元事業者からの派遣労働者の受け入れが出来なくなる可能性があるためです。
よって派遣先事業者は、従来より取引のある特定派遣事業である派遣元事業者に現状や、今後の方針についての聞き取り等を行い、その上で、取引派遣会社の見直しも含めた検討を進めることが重要です。
まとめ
派遣取引においては、契約書の締結、情報提供などについて、派遣元と派遣先のいずれかが主導しているケースも多くあります。ただ、今回の改正は双方の業務運営に大きな影響を及ぼすものとなっておりますので、それぞれが主体的に自社の課題として取り組み、その上で必要な連携を取ることが、適切な対応に結びつくこととなるでしょう。