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急遽始めたテレワークに潜む法的問題と対応方法

公開日時:2020.07.22 / 更新日時:2023.06.19

平成29年の働き方改革実行計画においても推奨されていたテレワークですが、大多数の企業において積極的に導入が進められているという状況にはありませんでした。 そのような中、コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言の発令に伴い、多くの企業が十分な準備のないままに急遽テレワーク導入に踏み切らざるを得なくなり、様々な法的問題が生じました。
村上 元茂 氏

村上 元茂 氏

2008年 弁護士登録(東京弁護士会)
2014年 株式会社アクセア社外取締役就任(現任)
2015年 弁護士法人マネジメントコンシェルジュ設立(現任)
2019年 社会保険労務士法人clarity設立(現任)

人事・労務、外国人雇用、企業に対する不当クレーム対応等の業務に従事。
弁護士法人における人事労務分野対応としては、日常的な問題社員対応に加え、訴訟、労働審判、あっせん、労働組合との団体交渉を得意とする。
社会保険労務士法人における対応業務としては、紛争対応を見据えた労務管理についてのアドバイス、各種規程整備、人事評価システムに関するアドバイス、HRテックを用いた労務管理についてのアドバイスを行っている。
また、弁護士として、BtoC企業の依頼を受け、企業に対するクレーム・クレーマー対応にも多数関わる。

なぜ、テレワークがうまくいかないのか?

近年テレワークが注目されたのは、働き方改革実行計画の「柔軟な働き方がしやすい環境整備」としてテレワークが推奨されたためでした。

また、平成29年時点における総務省のアンケートにおいて、企業が働き方改革に取り組む目的として「労働生産性の向上」が2番目に多い回答となっており、当時、テレワークについても主として労働生産性向上のための方法として位置付けられていました。

(出典)総務省「ICT利活用と社会的課題解決に関する調査研究」(平成29年)

そして、総務省が行った平成30年通信利用動向調査報告書によれば、テレワークの導入効果について、「非常に効果があった」「ある程度効果があった」という回答の比率は77%に上っており、労働生産性向上を目指し、いわば積極的な動機でテレワークを導入した企業においては、概ねテレワークは効果を上げていたと評価できます。

他方、平成29年時点における総務省のデータによれば、テレワークを導入している企業の割合は301人以上の企業においても20.4%と低く、300人未満の企業においては10%にも満たない状況であることがわかります。

企業におけるテレワークへの取組状況
企業におけるテレワークへの取組状況
(出典)総務省「ICT利活用と社会的課題解決に関する調査研究」(平成29年)

また、別のデータでは、テレワーク導入企業が19%、そのうち在宅勤務を実施している企業は37.6%にとどまることがわかっており、当該データによれば従来在宅勤務を実施していた企業は全企業の7%程度にすぎなかったことがわかります。

このような状況の中、コロナウイルスに起因して緊急事態宣言が発令され、多くの企業が急遽テレワーク、殊に在宅勤務の実施を余儀なくされました。その割合は、厚労省が実施した「新型コロナ対策のための全国調査」によれば、例えば東京ではピーク時のテレワーク実施割合が51.88%とされています。

多くの報道があったとおり、緊急事態宣言によって人の集合のみならず移動そのものが制限されていたことからすれば、「新型コロナ対策のための全国調査」でいうところの「テレワーク」の大部分は在宅勤務であると推測されます。

すなわち、新型コロナウイルスに起因して、従来テレワーク導入実績も予定もなかった多くの企業、従業員が、十分な準備のないまま、急遽テレワークを強いられる状況にあったということがいえます。

テレワークにおいて生じる法的問題と対応方法

では、今後テレワークを導入するにあたり、どのような法的問題が生じることを予期し、それに対してどのように対処するべきなのでしょうか。

この点、テレワーク導入にあたっての課題に関するアンケート調査によれば、情報セキュリティの確保と適正な労務管理(労働時間の管理)が上位に挙げられ、このうち法的問題として顕在化しやすいのは適正な労務管理ということになります。

この点、テレワーク実施にあたり典型的に問題となる項目として、テレワーク実施者との契約形態、労働時間の管理、各種費用・実費についての会社負担の要否、安全衛生・労災等があります。

また、当事務所に緊急事態宣言前後に多く寄せられた相談内容としては、コロナウイルス感染予防を理由に出社を拒否しテレワークすることを権利として要求するというケース、それに関連して休業手当支払いの要否といったものが多く、また、企業業績の急激な悪化に起因する人員削減・整理解雇といった相談も散見されました。

テレワーク実施にあたっての契約形態について

この点、働き方改革実行計画においても、テレワークの在り方として雇用型と非雇用型とが想定されているところ、今後テレワークの利用が一般化する中で、後述する労働時間管理の困難さから、従来従業員であった人を業務委託契約等の独立事業主としての契約形態に切り替えるという企業が出てくるものと思われます。

もっとも、契約の性質は契約の名称によって決まるものではなく、その実質によって判断をされるところ、実質は雇用契約であるにもかかわらず体裁のみ業務委託契約にするといった方法を取った場合、偽装請負として多大な法的リスクを負う可能性がありますので注意が必要です。企業の指揮命令監督の下に業務を行わせるといった雇用の本質を備えた契約関係なのであれば、雇用契約として正面から労働時間管理の問題にも向き合うのが適切な対応ということになります。

労働時間の管理について

雇用型のテレワークであることを前提とすれば、テレワークにおける労働時間の管理は、重要且つ難しい問題といえます。

職場での打刻等を前提とした従来の勤怠管理が難しいという問題は勿論のこと、在宅勤務においては生活圏との境界があいまいなため、多くの中抜け時間が生じることが想定され、当該時間管理の要否、方法が問題となるのです。

労働時間管理の要否という点では、裁量労働制や管理監督者、高度プロフェッショナル制度の適用を検討するほか、事業場外みなし労働時間制の適用の可否が問題となります。

この点、従来の同制度に関する裁判例では必ずしも厚生労働省のテレワークガイドラインと同様の判断がなされているわけではありません。今後テレワークの恒常化に伴い、事業場外みなし労働時間の適用を検討するにあたっては、従来の裁判例の考え方を理解しておくことが重要となります。

また、労働時間の管理に関しては、もう一つ悩ましい問題があります。

労働安全衛生法の改正において、使用者の労働時間の管理把握義務が明記されたことにより(同法66条の8の3)、結局使用者としてはあらゆる従業員について、健康管理の観点から労働時間の管理把握義務を負うということになります。

表:使用者による様々な時間の把握義務
表:使用者による様々な時間の把握義務

殊に、テレワークでは会社における就業に比して労働時間が長時間化しやすいといわれており、今後テレワークをする従業員の健康管理は重要な経営課題となるものと思われます。

そして何より、長時間業務に従事したことを評価対象とする従来型の人事評価が機能しなくなる今後、テレワークに適した人事評価制度を確立することこそ、テレワークの本来の目的であった労働生産性向上のための鍵となることは間違いないといえます。

テレワーク規程(在宅勤務規程)制定の必要性

以上のとおり、テレワークには労働生産性向上という前向きな側面もありながら、通常の就業形態に比して労務紛争が生じやすい就業形態ともいえます。

労使間の紛争を防止するための制度設計のためには、確立された規程整備が必須といえます。今後恒常的にテレワークを導入する企業におかれては、テレワーク規程(在宅勤務規程)の整備をし、労使間で制度内容に疑義が出ないように万全を尽くすことが肝要であるといえます。

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