• ホーム
  • HR News
  • 【社労士監修】賃上げ、業務環境の改善を支援する助成金の概要と令和7年度の改正内容

HR News

【社労士監修】賃上げ、業務環境の改善を支援する助成金の概要と令和7年度の改正内容

公開日時:2025.04.10 / 更新日時:2025.04.17

近年、少子高齢化に伴う人口減少や若者の仕事に対する意識の変化により、多くの企業で人材確保が課題となっています。優秀な人材を確保・維持するためには、「賃上げ」による処遇改善や、特に若年層従業員に重要な「働きやすい業務環境」の整備が効果的です。
本記事では、厚生労働省が公表した「令和7年度予算概算要求の主要事項」に基づき、企業の賃上げや業務環境改善を支援する主要な助成金制度について解説します。
大友 大 氏

大友 大 氏

社会保険労務士

大手資格予備校にて、制作課チーフとして社労士試験必修テキストの執筆、全国模試の監修を行う。

平成20年より都内の社会保険労務士事務所に勤務ののち、平成26年に開業。

給与計算業務を中心に行いつつ、労務にまつわるさまざまな問題に取り組む。

大友労務管理事務所 代表

賃上げ等支援のための助成金拡充

厚生労働省が公表した「令和7年度予算概算要求の主要事項」のなかで、「賃上げ」支援助成金パッケージとして、以下の3つの支援を掲げています。

  1. 生産性向上(設備・人への投資等)への支援
  2. 正規・非正規の格差是正への支援
  3. より高い処遇への労働移動等への支援

上記のうち1や2に該当し、企業が「賃上げ」や「設備投資等による業務環境の改善」に取り組むことによって活用できる代表的な助成金と、令和7 (2025)年度の改正内容について紹介します。

業務改善助成金

助成金の概要

業務改善助成金は中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援し、事業内最低賃金(事業内で最も低い賃金)の引き上げを図るための制度です。

業務環境改善のための機械設備の導入、人材育成・教育訓練の実施、専門家によるコンサルティングの依頼などを行い、かつ事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた事業者に対し、要した経費の一部が助成されます。

助成される金額と助成率の改正

助成金額は、設備投資などにかかった費用に一定の助成率をかけた金額と助成上限額とを比較し、いずれか安い方の金額です。助成上限額は令和6(2024)年度と変わらず、助成率の区分については改正されます。

【助成上限額】(令和6年度と変更なし)

コース区分 事業場内最低賃金の引き上げ額 引き上げる労働者数 助成上限額
事業場規模30人以上の事業者 事業場規模30人未満の事業者
30円コース 30円以上 1人 30万円 60万円
2〜3人 50万円 90万円
4〜6人 70万円 100万円
7人以上 100万円 120万円
10人以上※ 120万円 130万円
45円コース 45円以上 1人 45万円 80万円
2〜3人 70万円 110万円
4〜6人 100万円 140万円
7人以上 150万円 160万円
10人以上※ 180万円 180万円
60円コース 60円以上 1人 60万円 110万円
2〜3人 90万円 160万円
4〜6人 150万円 190万円
7人以上 230万円 230万円
10人以上※ 300万円 300万円
90円コース 90円以上 1人 90万円 170万円
2〜3人 150万円 240万円
4〜6人 270万円 290万円
7人以上 450万円 450万円
10人以上※ 600万円 600万円
引き上げ労働者数10人以上の上限額は、一定の要件を満たした場合に適用

【助成率】(令和7年度から変更あり)

〔令和6年度まで〕

事業場内最低賃金
900円未満 10分の9
950円以上950円未満5分の4(10分の9)
950円以上4分の3(5分の4)
()内は生産性要件を満たした場合

〔令和7年度から〕

事業場内最低賃金
1,000円未満5分の4
1,000円以上4分の3

改正により、助成率は最大で80%(5分の4)になります。

令和6年度の最低賃金の平均が1,055円となったことにより地域間格差の是正を図った結果、区分の基準を変更したものと思われます。

また、生産性要件による助成率の引き上げについては廃止されます。

働き方改革推進支援助成金

助成金の概要

生産性向上に向けた設備投資などの取り組みに係る費用を助成し、労働時間の削減などに向けた環境整備に取り組む中小企業事業主を支援する制度です。

基本的に取り組みにかかった費用の4分の3が助成されます。業務効率化のための設備・機器、ソフトウエアの導入などに限らず、外部の専門家によるコンサルティング料も助成の対象に含まれます。

4つのコースにはそれぞれ「成果目標」が定められていて、達成状況に応じて助成を受けられます。

支給対象となるコース

  1. 業種別課題対応コース…(長時間労働などの課題を抱える業種などを支援するため、労働時間の削減に向けた環境整備に取り組む中小企業事業主に助成)
  2. 労働時間短縮・年休促進支援コース…(労働時間の削減や、年次有給休暇の取得促進に向けた環境整備に取り組む中小企業事業主に助成)
  3. 勤務間インターバル導入コース…(勤務間インターバルを導入する中小企業事業主に助成)
  4. 団体推進コース…(傘下企業の生産性向上に向けた取り組みを行う事業主団体に対し助成)

賃上げ加算制度の改正

団体推進コースを除く各コースについては賃上げ率による加算制度があります。

これまでは、賃金を3%以上引き上げた場合と5%以上引き上げた場合に、その労働者数に応じて一定の助成上限額が加算されていました。今回の改正により、新たに「7%以上引き上げた場合」が加わります。一方で、「3%以上引き上げた場合」の加算額が縮小される予定です。

【令和6年度まで】

3%以上引き上げた場合助成上限額に15万円~最大150万円まで加算
5%以上引き上げた場合助成上限額に24万円~最大240万円まで加算

【令和7年度から】

3%以上引き上げた場合助成上限額に6万円~最大60万円まで加算
→縮小
5%以上引き上げた場合助成上限額に24万円~最大240万円まで加算
→変更なし
7%以上引き上げた場合助成上限額に36万円~最大360万円まで加算
→追加

なお、常時使用する労働者数が30人以下の場合の加算(加算額2倍)は引き続き行われます。したがって、最大で720万円(360万円x2)まで助成上限額に加算されることになります。

キャリアアップ助成金

助成金の概要

有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者(以下、「有期雇用労働者等」)といった非正規雇用労働者の企業内キャリアアップを促進するため、正社員転換、処遇改善などの取り組みを実施した事業主に対して助成する制度です。

正社員化支援として2つのコース、処遇改善支援として4つのコースがあります。

正社員化支援

  1. 正社員化コース…有期雇用労働者などを正社員に転換し、転換前6か月間の賃金から転換後6か月間の賃金が3%以上増額していることが必要
  2. 障害者正社員化コース…障害のある有期雇用労働者などを正社員に転換(3%の増額要件はなし)

処遇改善支援

  1. 賃金規程等改定コース…有期雇用労働者等の基本給を定める賃金規定を3%以上増額改定し、その規定を適用
  2. 賃金規定等共通化コース…有期雇用労働者等と正規雇用労働者との共通の賃金規定等を新たに規定・適用
  3. 賞与・退職金制度導入コース…有期雇用労働者等を対象に賞与・退職金制度を導入し、支給または積立てを実施
  4. 社会保険適用時処遇改善コース…短時間労働者を新たに社会保険に適用した際に、手当等の支給、賃上げ、所定労働時間の延長等を実施

正社員化コースの重要な改正 二期にわたる受給には新しい条件が

上記のコースのうち、正社員化支援の「1.正社員化コース」に気になる改正があります。

有期雇用労働者等を正社員転換した場合、6か月経過ごとに二期にわたり40万円(大企業は30万円)ずつ受給できますが、これについて新たな条件が加わります。

令和6年度と同様に二期にわたり受給できるのは、次のいずれかに該当する場合に限られます。

  • 雇い入れから3年以上の有期雇用労働者等
  • 雇い入れから3年未満の有期雇用労働者等であって、過去から不安定雇用が継続している者
  • 人材開発支援助成金の対象訓練を受けた者、母子家庭の母等

これらに該当しない場合は令和7年度から一期分のみとなります。

この改正は、例えば入社6か月から1年程度経過したところで登用試験などにより正社員化していた企業には、かなり影響があると思われます。以前からキャリアアップ助成金を活用して正社員転換制度を採用している企業は、規定の見直しが必要になるかもしれません。

賃金規定等改定コースの区分追加

処遇改善支援のうち「1.賃金規程等改定コース」の賃上げ区分にも改正があります。

賃金引き上げ率の区分が「3%以上5%未満」および「5%以上」の2区分とされていましたが、次のようにさらに2区分が追加されました。

【令和6年度まで】

〈賃金引き上げ率別の支給額〉

3%以上5%未満5万円(3.3万円)
5%以上6.5万円(4.3万円)

【令和7年度から】

〈賃金引き上げ率別の支給額〉

3%以上4%未満4万円(2.6万円)
4%以上5%未満5万円(3.3万円)
5%以上6%未満6.5万円(4.3万円)
6%以上7万円(4.6万円)
()は大企業の場合

「6%以上」の区分追加は拡充といえるでしょう。ただし、3%以上4%未満の上昇分は以前より支給額がやや少なくなる予定です。厚生労働省の資料「令和7年度予算概算要求の主要事項」では、拡充された「6%以上」の区分の部分のみピンク色で強調されていますが、縮小予定の区分もあることに注意が必要です。

まとめ

紹介した3つの助成金のうち、「業務改善助成金」は予算額が大幅に上昇(8.2億円→22億円)しています。「働き方改革推進助成金」、「キャリアアップ助成金」も昨年と同程度の予算となっており、国も企業の賃上げなどを促す支援に力を入れていることがうかがえます。

賃金制度の変更や業務環境の改善、また正社員転換制度の導入などは一定の準備や費用を要します。今回紹介した助成金を活用し、必要な支援を受けながら優秀な人材を確保することを検討するとよいでしょう。

参考:

GUIDE

勤怠管理のパイオニア「AMANO」のノウハウをぎゅっと凝縮してお届けします!

01基礎知識

勤怠管理の意義と
重要性

02選び方

勤怠管理システム
選び方の基本

03実践編

勤怠管理システム
導入のポイント

全てを1つの資料にまとめた総集編「勤怠管理の選び方完全ガイド」無料配布中!

「高いシステムと安いシステムでは何が違うのか」を徹底解説