本記事では、法定雇用率や除外率とは何かを説明したうえで、企業担当者が押さえておくべき改正内容やポイントについても解説します。
井上 敬裕 氏
中小企業診断士・社会保険労務士
青果加工場の工場長を約9年間務めた後、40歳の時に中小企業診断士として独立。販路開拓支援、事業計画作成支援、6次産業化支援、創業支援などを行う。
平成27年社会保険労務士として開業し、現在は社会保険労務士として給与計算を中心に労務関連業務を行っている。
社会保険労務士法人アスラク 代表社員
https://sr-asuraku.or.jp/about/
法定雇用率とは
まずは法定雇用率について解説します。
法定雇用率の概要
障害者雇用促進法とは、障がい者の雇用義務、障がい者の雇用上の差別の禁止、障がい者の職業リハビリテーションの推進について定めた法律です。この法律のもとでは、一定の従業員数以上の規模の企業は一定人数以上の障がい者を雇用する義務があります。この人数の割合を法定雇用率といいます。
障がい者の雇用義務があるのは、常時雇用労働者数が40人以上の企業で、法定雇用率は2024年4月から2.5%になっています。2026年7月以降は、さらに2.7%へと引き上げられるとともに、常時雇用労働者数も37.5人以上に引き下げられる予定です。
しかし、一般的に障害者雇用が困難な業種や職種もあるため、法定雇用率の算定に当たっては、後述する「除外率」が業種ごとに設定されています。
障害者雇用納付金との関係
常用雇用労働者の総数が100人を超える事業主の障がい者雇用が法定雇用率に満たない場合は、法定雇用障害者数に対し不足する人数に応じて、1人当たり月額5万円の障害者雇用納付金の納付が必要となります。法定雇用率を満たしているかどうかは月ごとに算定する必要があり、申告は年度ごとに行います。
例えば、法定雇用障害者数の不足人数2人が1年間続いた場合、障害者雇用納付金は5万円×2人×12か月=120万円となります。障害者雇用納付金は、後述する障害者雇用調整金、報奨金、障害者雇用納付金関係助成金などの原資として使われています。
除外率とは
次に除外率制度について解説します。
除外率の概要
前述のように、すべての業種について法定雇用率を一律にしてしまうと、障がい者の就業が困難な業種では対応が難しい場合があります。そのため「除外率」を業種ごとに設け、企業の障害者雇用義務の負担を軽減しています。
2025年4月から除外率を引き下げ
除外率は2025年4月1日以降、現在より各除外率設定業種ごとに10ポイント引き下げられ、以下のようになります。
現在除外率が10%以下の業種については除外率制度の対象外となります。除外率(改正後)が最も高い業種は船員等による船舶運航等の事業で70%、次に高い業種は幼稚園、幼保連携型認定こども園で50%です。最も低い除外率は非鉄金属第一製錬、精製業、貨物運送取扱業で5%となっています。
なお、飲食店や小売業・卸売業、製造業に除外率は設けられていません。
法定雇用障害者数の計算方法
法定雇用率の引き上げと除外率の引き下げが進むと、「法定雇用障害者数」が増加していくことになります。法定雇用障害者数とは、企業が法律で定められた割合(法定雇用率)に基づいて雇用しなければならない障がい者の人数を指します。
法定雇用障害者数は以下の計算式で求められます。
法定雇用障害者数 = (常時雇用労働者数‐常時雇用労働者数×除外率) × 法定雇用率
今後の除外率、法定雇用率の変更を踏まえ、法定雇用障害者数の計算方法を示すと以下のようになります。ここでは、常時雇用労働者数が900人のケースを想定しています。
除外率対象外 | 現在 (除外率30%) | 2025年4月1日以降 (除外率20%) | 2026年7月1日以降 (法定雇用率2.7%) | |
常時雇用労働者数 | 900人 | 900人 | 900人 | 900人 |
除外率 | なし | 30% | 20% | 20% |
法定雇用率 | 2.5% | 2.5% | 2.5% | 2.7% |
計算式 | 900 × 2.5% | (900 - 900 × 30%) × 2.5% | (900 - 900 × 20%) × 2.5% | (900 - 900 × 20%) × 2.7% |
計算結果 | 22.5人 | 15.75人 | 18人 | 19.44人 |
最終結果 (1人未満の端数は切り捨て) | 22人 | 15人 | 18人 | 19人 |
雇用障害者数の計算方法
一方、企業が実際に雇用している障がい者数の算定方法についても、障害の程度によって一律に扱うことは難しいので、障害の程度、労働時間によって異なる算定方法が定められています。
障がい者の障害の程度については、身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者の3つがあります。身体障がい者と知的障がい者には、障害の程度により重度である者とそうでない者との区分が設けられています。
労働時間は、週30時間以上と週20時間以上30時間未満の短時間労働者、週10時間以上20時間未満の特定短時間労働者の3つの区分があります。
週10時間以上20時間未満の特定短時間労働者は、2024年の障害者雇用促進法改正で新たに設けられた枠組みです。改正前までは、特定短時間労働者を雇用していても法定雇用率の算定にその人数を含めることはできませんでした。しかし今回の改正により、重度身体障がい者、重度知的障がい者、精神障がい者は0.5人としてカウントされるようになりました。
なお、改正前は、特定短時間労働者を雇用している企業には特例給付金が支給されていましたが、こちらは廃止されました。
障害者雇用に関するそのほかの改正
ここまで法定雇用率・除外率について解説してきましたが、障害者雇用促進法の改正に伴い、ほかにも把握しておくべき変更点があります。あわせて確認しておきましょう。
障害者雇用調整金・報奨金の支給の減額
障害者雇用調整金、報奨金が減額調整され、2025年度から新たな調整額が支給されることになります。
現在、障害者雇用調整金は法定雇用率を超えて雇用している障がい者数に応じて1人当たり月額29,000円が支給されます。しかし、2024年4月以降の雇用期間については、支給対象人数が年間120人(12か月の合計)を超える場合は、当該超過人数分については1人当たり月額23,000円として算出されます。
障害者雇用報奨金は、常時雇用している労働者数が100人以下の企業が、障がい者を年間を通じて一定数以上雇用している場合に支給されます。通常、超過した障がい者1人当たり月額21,000円が支給されます。ただし、2024年4月以降の雇用期間については新たな規定が適用されます。支給対象人数が年間420人(12か月の合計)を超える場合、その超過分については支給額が変更されます。具体的には、超過分に対して1人当たり月額16,000円として計算されます。
障害者雇用納付金関係助成金の拡充と新設
また、2024年度から、障害者雇用納付金関係助成金の拡充がなされました。障害者雇用納付金関係助成金は企業が障がい者の雇用にあたって、施設・設備の整備等や適切な雇用管理を図るための特別な措置が必要な場合に支給される助成金です。職場介助者の配置を行った企業が支給対象の障害者介助等助成金、職場適応援助者による支援を行った企業が支給対象の職場適応援助者助成金、障がい者の通勤を容易にするための措置を行う企業に支給される重度障害者等通勤対策助成金などの拡充が行われています。
また、障害者雇用相談援助助成金が新設されました。この助成金は、都道府県労働局長の認定を受けて、対象障がい者の雇い入れおよびその雇用の継続を図るために必要な雇用管理に関する一定の要件を満たす援助の事業(障害者雇用相談援助事業)を行う企業を対象に支給されます。助成金額は1社1回限りで60万円 (中小企業事業主または除外率設定業種の事業主は80万円 )となります。また、実際に対象障がい者の雇い入れおよびその雇用の継続を行った場合には、この助成金額に一人当たり7.5万円(中小企業事業主または除外率設定業種の事業主は10万円)が、4人を上限として上乗せされます。
企業は、これらのポイントについてもいま一度押さえておきましょう。
まとめ
法定雇用率の引き上げ、除外率の引き下げとともに、企業の障害者雇用義務の範囲は年々大きくなっています。2026年7月からは、障がい者の雇用義務対象企業も現在の40人から37.5人に引き下げられます。障害者雇用納付金についても、現在は常時雇用者数101人以上の企業が対象ですが、常時雇用者数の基準が下がる可能性も十分にありえます。
現在は障がい者を雇用していない企業も、障害者雇用義務について正しく理解しておくことが大切です。どのようにすれば障がい者を雇用して社会的な責任を果たすことができるかという積極的な姿勢で、障害者雇用に取り組んでいく必要があります。