服部 英治氏
株式会社名南経営コンサルティング 人事コンサルタント/社会保険労務士
大学卒業後、大手社会保険労務士事務所を経て1999年株式会社名南経営に入社。約400名のスタッフを抱える名南コンサルティングネットワークのトップコンサルタントの一人として、全国各地で人事制度改定支援、職場の風土改善、就業規則策定支援、株式上場支援、各種人事労務相談等に応じている。経営者視点のアドバイスは好評で上場企業から零細企業に至るまで、多数の顧問先を抱えながら執筆や講演等を行っている。著書多数、講演年間約50回。
既にスタートしているマイナンバー
今年1月より、マイナンバー制度がスタートしました。すべての国民にマイナンバーが通知され、希望者はプラスチック製の写真付である個人番号カードの申請ができますので、申請した人も少なくないでしょう。しかし、システムトラブル等もあり、交付に遅れが生じたり、市役所等による受取りに相当の時間を要したりと、今後の改善課題も同時に浮き彫りとなっていますが、様々な分野で活用されていく将来を考えると個人番号カードが普及していくことは間違いなさそうです。
企業における実務面では、昨年の今頃は「専用の金庫を購入しなければならない」「裁断の目が更に細かいシュレッダーに切り替えなければならない」等、多くの企業がマイナンバーの管理方法等を巡って大騒ぎをしていた印象がありましたが、いざスタートしてみると大山鳴動して鼠一匹の如く、拍子抜けしており何も管理もしていないという企業が少なくないように感じます。一方で、行政機関からも運用方法の見直しや書式の見直しも相次ぎ、少なからずの混乱が見られますが、制度運用にあたっての根本的なところは特に変わっていませんので、注意をしなければなりません。そこで、これから企業内において年末調整業務が進もうとしている中で、改めてマイナンバーの管理や運用方法について振り返ってみましょう。
変更された書式等
当初、マイナンバーは様々な申請書類等にそれぞれ記載をしなければならないといわれていました。しかし、それは実務面では相当な混乱が生じるとの懸念から書式等の見直しが行われ、今回の年末調整においても当初の予定から変更されています。
図1は国税庁から発表されている「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」改定書式ですが、従業員本人のマイナンバーのみならず、扶養控除対象配偶者や家族に対しても同様にマイナンバーの記載が求められるようになっています。ただし、既に他の方法によってマイナンバーを会社に提供している場合には、この記載は必ずしも必要ではなく、従来どおりの運用でよいことになっています。
また、源泉徴収票においても書式が改定され、図2のようになります。保険料控除申告書、配偶者特別控除申告書、住宅借入金特別控除申告書については平成28年4月1日以後に提出するものからマイナンバーの記載は不要となります。
通常、給与計算ソフトには、保守によりソフトのアップデートがされてこれらの書式に対応することができるようになるものと考えられますが、記載方法等がわからない場合には、関与税理士に相談をしながら進めていくとよいでしょう。
従業員がマイナンバーの提供を拒む場合の対応
年末調整業務に限らず、従業員がマイナンバーの提供を拒むケースが相変わらず多くの企業において散見されます。企業としては、大変困惑することになり、書式のマイナンバー記載欄が空白になってしまいます。しかし、マイナンバー記載欄が空白であるからといって行政機関が書式を受理しないということは現時点ではなく、昨年同様に受理はしてくれますが、企業としての社会的責任感を持った対応は、当然必要となります。また、拒否の意思表示として意図的に「0000」等といったようなとてもマイナンバーとは考えられないような番号を記載するケースも想定されますが、番号を確認することは会社に求められておりますので、本人を呼び出すなどの方法で確認をすることがまずは求められています。
Q2-3-2 申告書等にマイナンバー(個人番号)・法人番号を記載していない場合、税務署等で受理されないのですか。
【答】税務署では、番号制度導入直後の混乱を回避する観点などを考慮し、申告書等にマイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合でも受理することとしていますが、マイナンバー(個人番号)・法人番号の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務ですので、正確に記載した上で提出してください。
Q2-3-3 税務署等が受理した申告書等にマイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合や誤りがある場合には、罰則の適用はありますか。
【答】税務署等が受理した申告書や法定調書等の税務関係書類にマイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合や誤りがある場合の罰則規定は、税法上設けられておりませんが、マイナンバー(個人番号)・法人番号の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務ですので、正確に記載した上で提出をしてください。
なお、マイナンバーの提供を拒む場合については、企業としてはそれを看過しておくべきではなく、正しく求めていく姿勢を貫くことは、当初からのルールとして変更していません。基本的には、マイナンバーの提供を求めてそのやり取りを記録する等の対応が必要となりますが、毎度そのような対応を継続させることは現実的ではないことから、頑なに拒む従業員に対しては、不提供の申出書(図3)といった社内書式を整備して対応を進めていく必要があるのではないかと思います。
Q2-10 従業員や講演料等の支払先等から個人番号の提供を受けられない場合、どのように対応すればいいですか。
【答】法定調書作成などに際し、個人番号の提供を受けられない場合でも、安易に個人番号を記載しないで書類を提出せず、個人番号の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務であることを伝え、提供を求めてください。
それでもなお、提供を受けられない場合は、提供を求めた経過等を記録、保存するなどし、単なる義務違反でないことを明確にしておいてください。
経過等の記録がなければ、個人番号の提供を受けていないのか、あるいは提供を受けたのに紛失したのかが判別できません。特定個人情報保護の観点からも、経過等の記録をお願いします。
なお、法定調書などの記載対象となっている方全てが個人番号をお持ちとは限らず、そのような場合には個人番号を記載することはできませんので、個人番号の記載がないことをもって、税務署が書類を受理しないということはありません。
改めて振り返る安全管理措置
マイナンバー制度のスタート後、データや情報の外部漏えい事故が少なからずあるようですが、企業内の安全管理措置が十分に講じられていないことに起因しているものも多いものと推測されます。基本的には、以下の措置を講じることで、漏えい事故の発生率は確実に減るものと考えられますが、我が社に限ってそんなことはないと安全管理措置を講じることについて軽視していると痛い目に合う可能性は当然高まり、改めてそれぞれについて振り返り、見直しておきたいところです。
マイナンバー以外の情報管理対策
今回は年末調整に焦点を当てて改めてマイナンバーの管理の方法を振り返るという視点でまとめてみましたが、企業内にはマイナンバー以外の様々な重要な情報があるはずです。そういった情報の管理にあたっては、情報管理規程としてまとめていくことでルール化を進めることが必要であり、また、そうした規程を策定しても時代の変化によって内容や運用方法も変えていかなければ、漏えい事故の発生確率は当然高まってしまいます。そのため、外部の社会保険労務士等を交えながら定期的に規程を見直す等の運用をPDCAサイクル等によって再考する必要があるものと思います。