岩瀬 秀幸氏
特定社会保険労務士・行政書士
社会保険労務士法人 あすなろ事務所 代表
平成11年7月 社会保険労務士として個人事務所を開設
平成14年12月 有限会社AS人事コンサルティング代表取締役就任
平成15年12月 株式会社タクミコンサルティング取締役就任
平成19年4月 特定社会保険労務士取得
平成20年1月 社会保険労務士法人あすなろ事務所代表社員 就任
経営法曹会議賛助会員として労働紛争に特化した事務所であり、良好な労使関係を築くには会社から依頼を受け、経営者に対して是々非々で指導するのが効果的と考えている。セミナー・研修講師、講演等も全て労働紛争に関連したものばかりで、特にユニオン(合同労組)対策には力を入れている。
介護休業(93日)をどうして分割可能としたのか?
介護休業とは、介護をする間、ずっと休業することを想定したものではなく、介護を行う体制作りのための休業です。介護を行うには病院へ入院すること、介護施設に入所すること、自宅で看取ることの3段階が考えられます。従来では、原則1回限り、93日までとなっておりましたが、これではどの段階で介護休業を利用するのかといった使い勝手の悪さがありました。そこで、介護休業を延長した場合に比べ、分割できた方が継続就業率が上がるといったデータに基づいて、3回まで分割取得できるようにしました。
休業と休業の間はどのように対応するのか?
介護休業を3分割にて取得した場合、休業と休業との間が2つ存在し、その間をどのように乗り切っていくのかが次の問題となります。そこで、各企業は選択的措置義務といわれる以下の4つのうち少なくとも1つを制度化し、介護休業の93日とは別枠で、3年間で少なくとも2回利用できるようにしました。
各企業におきまして、どれを選択するのかを検討する場合、短時間勤務は労働時間が減少することとなりますし、しっかり働いて欲しいという場合は、介護サービス費用を助成しお金を支払うことを検討していただくことになります。介護を行う労働者が会社において重要な職務を担っている場合など、介護サービス費用の助成制度が有効な方法といえます。
所定外労働の免除等は期間制限がない!
所定外労働(残業)の免除は、今回の法改正で新設され、要介護状態の申し出があってから介護の終了(対象家族の死亡)まで請求することができるようになりました。また、介護休暇は半日単位で取得できるようになり、労働者にとっては使い勝手が良くなったといえます。それから、時間外労働や深夜業の制限は従来からあるものですが、これらは選択的措置義務と異なり、3年間という制限がありませんので、5年や10年といった長期に渡る場合も考えられます。
対象家族の拡大が与える影響
介護休業の対象家族が、配偶者(事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹及び孫となり、祖父母、兄弟姉妹及び孫の同居・扶養要件が廃止されました。これは、昨今の様々な家族構成に対応したものですが、このことによりひとりの労働者につき、対象家族が5人以上ということも少なくなく、10人以上という人もいるでしょう。休業は、対象家族ひとりにつき93日まで認められる訳ですが、対象家族が5人居れば93日×5、10人ならば93日×10となります。育児休業の1年間に比べ、介護休業は短期間と思っていたら、対象家族が拡大したことに伴い、延べ取得日数が大きく拡大することになった点は要注意です。
また、平成28年8月1日より、介護休業給付金の「支給率」や「賃金日額の上限額」が変更されています。
○「支給率」 40%から育児休業給付と同じ67%にUP
これにより、休業が取得しやすくなった点もポイントとなります。
最後に
その他にも法改正がありますので、厚生労働省作成の「育児・介護休業法のあらまし」や「育児・介護休業制度ガイドブック」をご覧いただき、内容をご確認いただきたく思います。その上で、各企業においては「育児・介護休業規程」を見直していただくことが必要となります。
今回の育児・介護休業法の改正は、各企業にとって大きな負担となりますが、最も重要な財産である労働者が退職をすることなく、介護をしながら仕事を続けられることは余りあるメリットがあります。