人事・労務なんでもQ&A
育成就労制度とはなんですか? 技能実習制度との違いは?
井上 敬裕 氏
中小企業診断士・社会保険労務士
青果加工場の工場長を約9年間務めた後、40歳の時に中小企業診断士として独立。販路開拓支援、事業計画作成支援、6次産業化支援、創業支援などを行う。
平成27年社会保険労務士として開業し、給与計算を中心に労務関連業務を行っている。
社会保険労務士法人アスラク 代表社員
https://sr-asuraku.or.jp/about/
Q. 育成就労制度とはなんですか? 技能実習制度との違いは?
2027年から技能実習制度に代わって育成就労制度が始まると聞きました。外国人材の受け入れを検討しているのですが、これまでの技能実習制度とどう違うのでしょうか。また、企業側にどのような影響があるのか教えてください。
A. 育成就労制度は人材育成と確保を両立させる新しい外国人受け入れ制度です
育成就労制度は2027年度から開始される新しい外国人受け入れ制度です。技能実習制度が「国際貢献」を主目的としていたのに対し、育成就労制度は「人材育成」と「人材確保」を明確な目的としています。転職制限の大幅な緩和や受け入れ企業の要件厳格化など、実質的な労働力確保と外国人労働者の権利保護を両立させる仕組みへと進化しました。
技能実習制度では原則として転職が認められず、劣悪な労働環境からの離脱が困難という課題がありました。育成就労制度ではこの点が改善され、一定条件下での転職が可能になります。企業にとっては優秀な人材の確保がしやすくなる一方、労務管理や育成体制の整備がより重要になります。
育成就労制度創設の背景
日本の労働市場は深刻な人手不足に直面しています。特に製造業や建設業、介護分野では外国人材への依存度が年々高まっています。しかし、従来の技能実習制度には構造的な問題が指摘されてきました。
技能実習制度の課題
技能実習制度は本来、新興国への技能移転を目的とした国際貢献の制度でした。しかし、実態としては人手不足を補う労働力として機能しており、制度の建前と実態に大きな乖離が生じていました。
最も深刻だったのは転職の自由がほぼ認められていなかった点です。実習生は受け入れ企業を変更することが原則できず、劣悪な労働条件や人権侵害があっても我慢せざるを得ない状況が生まれていました。失踪者の増加や賃金未払いなどの問題が相次ぎ、国際社会からも批判を受けてきました。
また監理団体による中間搾取や実習生への不当な借金負担など、制度の不透明性も問題視されていました。こうした課題を抜本的に解決するため、新たな制度設計が求められたのです。
人材確保と人権保護の両立へ
政府は2024年に技能実習制度の廃止と育成就労制度の創設を閣議決定しました。新制度では外国人材を単なる一時的労働力ではなく、中長期的に育成・確保する人材として位置づけています。
育成就労制度は労働力確保という実態を正面から認めつつ、同時に外国人労働者の権利保護を強化する仕組みです。転職の柔軟化により、外国人材が自らのキャリアを主体的に選択できるようになります。企業側も優秀な人材を引き留めるため、待遇改善や育成環境の整備に積極的に取り組む必要が生じます。
育成就労制度の基本的な仕組み
育成就労制度は特定技能制度への移行を前提とした3年間の人材育成プログラムです。受け入れ対象分野や在留資格の取得要件など、基本的な枠組みを理解しておくことが重要です。
制度の目的と対象分野
育成就労制度の目的は、人手不足が深刻な特定分野において外国人材を段階的に育成し、即戦力として定着させることです。対象となるのは特定技能制度と同様に、介護、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業など主に16分野です。これに加えて新たな分野の追加も検討されています。
各分野では日本人労働者の確保が困難な状況が続いており、外国人材の受け入れなしには事業継続が難しい業種が多く含まれています。制度開始時点では技能実習制度からの移行分野が中心となる見込みですが、今後の労働市場の変化に応じて対象分野の見直しや拡充も行われます。
在留期間と特定技能への移行
育成就労の在留期間は最長3年間です。この間に一定の技能水準に達した外国人材は、より長期の就労が可能な特定技能1号へ移行できます。特定技能1号では最長5年間の就労が認められるため、通算最長8年間日本で働くことが可能になります。
さらに特定技能2号へ移行すれば、在留期間の更新制限がなくなり、家族の帯同も認められます。つまり育成就労制度は単なる一時的な受け入れではなく、優秀な人材を長期的に確保し定着させるためのステップとして機能します。
企業にとっては投資した育成コストを長期的に回収できる見通しが立ちやすくなり、計画的な人材育成が可能になります。
技能実習制度との主な違い
育成就労制度は技能実習制度の課題を踏まえて設計されており、多くの点で大きな変更が加えられています。企業が特に注意すべき違いを確認しましょう。
| 項目 | 技能実習制度 | 育成就労制度 |
| 主な目的 | 国際貢献(技能移転) | 人材育成・人材確保 |
| 転職 | 原則不可(やむを得ない事情のみ例外) | 就労開始1年経過後、一定の日本語能力・技能水準を満たせば同一業務区分内で可能 |
| 在留期間 | 最長3年または5年 | 3年(特定技能移行で最長8年以上) |
| 賃金水準 | 日本人と同等以上 | 日本人と同等以上(より厳格に審査) |
| 受入企業要件 | 基本的要件を満たす | 厳格化(育成計画・コンプライアンス・労働環境等) |
| 監理・支援体制 | 監理団体による管理 | 許可要件厳格化・透明性向上 |
| 対象分野 | 技能実習職種 | 特定技能対象分野(16分野) |
転職制限の大幅な緩和
最も重要な変更点は転職の自由度が大幅に高まったことです。技能実習制度では原則として転職は認められず、やむを得ない事情がある場合に限り例外的に認められていました。
育成就労制度では就労開始から1年経過後、一定の日本語能力と技能水準を満たした上で、同じ業務区分内であれば本人の意思による転職が可能になります。ただし、転職回数や転職先企業には要件があり制限されます。転職前には支援機関によるキャリア面談が必須で、安易な転職を防ぐ仕組みも導入されます。
この変更により、外国人材はより良い職場環境を選択する権利を持つことができ、企業側は待遇や職場環境の改善に努めなければ人材流出のリスクが高まります。労務管理の質向上がより重要となる点も変わりません。
受け入れ企業の要件厳格化
技能実習制度で問題となっていた劣悪な受け入れ環境を排除するため、育成就労制度では受け入れ企業に対する要件が大幅に厳格化されます。
まず、日本人従業員と同等以上の報酬支払いが明確に義務付けられます。賃金水準の適正性は客観的な基準で判断され、地域の最低賃金を大きく上回る水準が求められる見込みです。
また受け入れ企業には計画的な人材育成体制の構築が必須となります。単なる労働力としてではなく、技能を段階的に向上させるカリキュラムの作成と実施が求められます。育成計画の進捗は定期的に確認され、不十分な場合は受け入れ停止などの措置が取られます。
さらに、労働関係法令の違反歴がある企業や、過去に外国人材の失踪が多発した企業は受け入れが制限されます。コンプライアンス体制の整備が受け入れの前提条件となるのです。
監理・支援体制の変更
技能実習制度では監理団体が実習生の受け入れや管理を担当していましたが、組織の質にばらつきがあり、中間搾取などの問題も指摘されていました。
育成就労制度では監理・支援を行う機関の許可要件が厳格化され、透明性の高い運営が義務付けられます。不適切な手数料徴収は禁止され、外国人材への支援内容も具体的に定められます。
また外国人材に対する相談窓口の設置や、母国語でのサポート体制の整備も必須となります。トラブルが発生した際に適切に対応できる仕組みが制度に組み込まれるため、外国人材の権利保護が強化されます。
企業が準備すべき対応事項
育成就労制度の開始に向けて、受け入れを検討する企業は早期の準備が必要です。労務管理体制の見直しから育成計画の策定まで、幅広い対応が求められます。
賃金・労働条件の見直し
育成就労者には日本人従業員と同等以上の賃金を支払う義務があります。単に最低賃金を満たすだけでなく、同じ業務に従事する日本人の給与水準と比較して適正かどうかが厳しくチェックされます。
残業代や各種手当の支給、社会保険の加入なども適切に行う必要があります。外国人だからという理由で不利な労働条件を設定することは認められません。
また、転職が可能になることを踏まえ、他社と比較して競争力のある待遇を用意しなければ、せっかく育成した人材が流出してしまいます。賃金体系や福利厚生の充実を図り、魅力的な職場環境を整備することが人材確保のカギとなります。
育成計画の策定と実施体制
育成就労制度では計画的な人材育成が義務付けられます。3年間で段階的に技能を向上させるカリキュラムを作成し、定期的な評価と改善を行う必要があります。
まず、受け入れ時点で外国人材の技能レベルを評価し、3年後に特定技能1号へ移行できる水準まで引き上げるための具体的な育成計画を立てます。計画には習得すべき技能の内容、指導方法、評価基準などを明記します。
育成の実施には専任の指導担当者の配置が推奨されます。日本語でのコミュニケーションが難しい初期段階では、通訳を介した指導や視覚的な教材の活用も有効です。
また、育成状況は記録として保管し、監督機関の求めに応じて提出できるよう整備しておくことが重要です。
勤怠管理システムの整備
外国人材の労働時間管理は特に厳格に行う必要があります。不適切な長時間労働や賃金未払いは制度からの退場理由となるため、正確な勤怠管理が不可欠です。
勤怠管理システムを導入することで、労働時間の把握や残業申請の管理が効率化されます。多言語対応のシステムであれば、外国人材自身も容易に操作でき、申請漏れや認識違いを防げます。
また、システムによる客観的な記録は、労働基準監督署の調査や監理機関のチェックにも対応しやすくなります。紙ベースの管理では記録の改ざんや紛失のリスクもあるため、電子化による透明性の確保が重要です。
勤怠管理システムの選定については、外国人材の受け入れに対応した機能を持つものを検討しましょう。アラート機能や自動集計機能により、管理業務の負担を軽減しながら適正な労務管理を実現できます。
育成就労制度のメリットと注意点
新制度は企業と外国人材の双方にメリットをもたらしますが、対応を誤ると大きなリスクも伴います。制度を効果的に活用するためのポイントを押さえましょう。
企業側のメリット
育成就労制度では人材の中長期的な確保が可能になります。技能実習制度では3年または5年で必ず帰国する必要がありましたが、新制度では特定技能への移行により最長8年以上の就労が見込めます。
投資した育成コストを長期的に回収できる見通しが立つため、より計画的な人材育成が可能になります。優秀な人材を見きわめて重点的に育成し、基幹人材として定着させる戦略も取りやすくなります。
制度の透明性が高まることで、外国人材にとって日本での就労がより魅力的になり、優秀な人材の応募が増えることも期待できます。
外国人材側のメリット
外国人材にとっては転職の自由度が高まり、自らのキャリアを主体的に選択できるようになります。劣悪な環境にしばられることなく、より良い条件の職場へ移ることが可能になります。
また、育成プログラムが体系化されることで、確実に技能を習得し、キャリアアップできる見通しが立ちます。特定技能へ移行すれば長期的な日本滞在も可能になり、人生設計がしやすくなります。
賃金水準の適正化により、家族の生活向上にも貢献します。
企業が注意すべきリスク
転職が可能になることで、育成した人材が他社へ流出するリスクが高まります。待遇や職場環境が他社より劣っていれば、優秀な人材ほど転職を選択する可能性があります。
また、受け入れ要件の厳格化により、準備不足や法令違反があれば受け入れ自体が認められなくなります。一度問題を起こすと、今後の外国人材受け入れが困難になるおそれもあります。
労務管理の不備や育成計画の未達成は企業の評判にも影響します。監理機関や行政からの指導が入れば、取引先や求職者からの信頼低下にもつながりかねません。
制度を適切に運用するには、経営層の理解とコミットメントが不可欠です。単なる人手不足対策ではなく、外国人材を組織の一員として育成する覚悟が求められます。
勤怠管理における実務上のポイント
外国人材の受け入れでは勤怠管理に特有の注意点があります。言語の壁や文化の違いを考慮した運用が必要です。
わかりやすい操作性の重要性
日本語が不自由な外国人材にとって、勤怠管理のルールや申請方法の理解は容易ではありません。操作マニュアルを母国語で用意したり、視覚的に理解しやすいシステムを導入することで、認識違いによるトラブルを防げます。
勤怠管理システムを選ぶ際は、記号やピクトグラム、アイコンなど言語に依存しない表示を採用したものが効果的です。出勤・退勤・休憩などを直感的に理解できる画面設計であれば、日本語能力にかかわらずスムーズに操作できます。
また、定期的な説明会を開催し、残業申請のルールや有給休暇の取得方法などを丁寧に説明することも重要です。通訳を介して理解度を確認しながら進めましょう。実際の画面を見せながら操作手順を実演することで、より確実な理解につながります。
労働時間の適正管理
外国人材の長時間労働は制度運用上の大きなリスクです。技能実習制度では過重労働が問題となった事例が多く、育成就労制度でも厳格な監視が行われます。
時間外労働の上限規制を遵守することはもちろん、恒常的な長時間労働は避けるべきです。繁忙期であっても適切な人員配置を行い、過度な負担がかからないよう配慮します。
休日出勤や深夜労働については、特に慎重な管理が必要です。法定割増賃金の適正な支払いはもちろん、外国人材の健康面への配慮も欠かせません。
勤怠管理システムのアラート機能を活用し、時間外労働が一定時間を超えた場合に自動で通知されるよう設定しておくと、リスクの早期発見につながります。
休暇取得の促進
外国人材が有給休暇を取得しやすい環境を整えることも重要です。文化の違いから、日本人以上に休暇取得をためらう傾向がある場合もあります。
上司から積極的に休暇取得を促し、計画的な取得を支援しましょう。母国への一時帰国を希望する場合は、まとまった休暇の取得ができるよう配慮することも大切です。
勤怠管理システム上で有給休暇の残日数を常に可視化し、取得率が低い場合は個別に声をかけるなど、きめ細かな対応が求められます。
今後の制度運用の見通し
育成就労制度は2027年度からの本格運用開始に向けて、関連法令の整備が進められています。制度の詳細が確定次第、企業は速やかに対応する必要があります。
段階的な移行期間
技能実習制度から育成就労制度への移行は段階的に行われる見込みです。既存の技能実習生については一定の経過措置が設けられ、急激な変更による混乱を避ける配慮がなされます。
ただし、新規の受け入れについては、制度開始後は育成就労制度の枠組みで行われます。早期に新制度の要件を満たす体制を整えた企業ほど、優秀な人材の確保で有利になります。
制度の見直しと改善
育成就労制度は運用開始後も定期的な見直しが予定されています。受け入れ現場の実態や外国人材からのフィードバックを踏まえ、より実効性の高い制度へと改善されていきます。
企業は制度改正の動向を常に把握し、柔軟に対応できる体制を整えておくことが重要です。業界団体や監理機関からの情報収集を怠らず、法改正に先手を打って対応しましょう。
外国人材との良好なコミュニケーションを通じて、制度運用上の課題を早期に発見し、改善につなげる姿勢も大切です。
まとめ
育成就労制度は技能実習制度の課題を克服し、人材育成と確保を両立させる新しい仕組みです。転職の柔軟化や受け入れ要件の厳格化により、外国人材の権利保護と企業の人材確保ニーズの双方に応える制度設計となっています。
企業にとっては賃金・労働条件の適正化、育成体制の構築、勤怠管理の厳格化など、準備すべき事項は多岐にわたります。特に、正確な労働時間管理は制度運用の要となるため、勤怠管理システムの整備が不可欠です。
制度開始に向けて早期に準備を進め、外国人材が安心して働ける環境を整えることが、優秀な人材の確保と企業の持続的成長につながります。
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