人事・労務なんでもQ&A
会食やゴルフなどの接待が労働時間に該当するか判断基準を教えてください。
 
                                                                大友 大 氏
社会保険労務士
大手資格予備校にて、制作課チーフとして社労士試験必修テキストの執筆、全国模試の監修を行う。
平成20年より都内の社会保険労務士事務所に勤務ののち、平成26年に開業。
給与計算業務を中心に行いつつ、労務にまつわるさまざまな問題に取り組む。
大友労務管理事務所 代表
Q. 接待の労働時間判定で悩んでいます。明確な基準はあるのでしょうか?
人事部で勤怠管理を担当しています。営業部門では取引先との関係維持のため、夕食での接待やゴルフ接待を頻繁に行っています。これらの接待活動について、労働時間として扱うべきかどうか判断に迷うケースが多く発生しています。
特に休日のゴルフ接待や平日夜の会食について、社員から「業務の延長なので労働時間ではないか」との指摘もあります。一方で、すべてを労働時間とすると残業代の支払いが大きな負担となります。接待が労働時間に該当するかどうかの明確な判断基準を教えてください。
A. 業務性・指揮命令性・義務性の3要素で総合的に判断します
接待が労働時間に該当するかは、労働基準法における労働時間の定義に基づいて判断されます。重要なのは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」かどうかという点です。
具体的には、業務との関連性、会社からの指示・命令の有無、参加の義務性という3つの要素を総合的に検討します。これらの要素が強く認められる場合は労働時間となり、そうでない場合は労働時間外の活動とみなされます。ただし、実際の判断は個別の事情によって左右されるため、あらかじめ明確な基準を設けることが大切です。
労働時間の基本的な定義と接待の位置づけ
労働基準法には「労働時間」の明確な定義は規定されていませんが、判例により「使用者の指揮命令下に置かれている時間」として解釈されています。この判例による定義を接待活動に当てはめる際は形式的な勤務時間の内外ではなく、実質的な指揮命令関係の有無が重要な判断要素となります。
接待は通常の業務とは異なる特殊な活動であるため、一律に労働時間と判断することは適切ではありません。しかし、業務の一環として行われる接待については、労働時間としての性質を持つ場合があります。
接待活動の特殊性
接待は営業活動や取引先との関係維持という業務目的を持つ一方で、食事やゴルフといった娯楽的要素も含んでいます。このような二面性により、労働時間の判定が複雑になることが多いのが実情です。
そのため、接待の性質や目的、参加の経緯などを個別に検討し、労働時間該当性を判断する必要があります。会社としては、あらかじめ明確な基準を設けることで、適切な勤怠管理と労務リスクの回避を図ることが重要です。
労働時間判定の3つの要素
接待が労働時間に該当するかは、以下の3つの要素を総合的に検討して判断します。これらの要素が強く認められるほど、労働時間としての性質が強くなります。
業務性(業務との関連性)
接待活動が会社の業務と密接な関係にあるかを判断します。営業活動の一環として行われる取引先との接待や契約獲得を目的とした接待は業務性が高いといえます。
一方で、単純な親睦目的の会食や、個人的な関係構築のための活動については、業務性が低いと判断される傾向があります。接待の目的や相手方との関係性を明確にすることが重要です。
指揮命令性(会社からの指示・命令)
会社や上司からの明確な指示・命令に基づいて行われる接待は、指揮命令性が認められやすくなります。特定の取引先との関係改善を目的とした接待指示がある場合などが該当します。
ただし、明確な指示がない場合でも、営業担当者の職務上当然に期待される活動については、黙示的な指揮命令があるとみなされる場合があります。職位や職責に応じた判断が必要です。
義務性(参加の義務・強制性)
接待への参加が業務上の義務として課せられているかも重要な判断要素です。参加を拒否できない状況や参加しないことで不利益を被る可能性がある場合は、義務性が認められやすくなります。
逆に、完全に自由参加で参加しなくてもなんら不利益がない場合は、労働時間としての性質は弱くなります。ただし、組織の慣習や職場の雰囲気による事実上の強制がある場合はその限りではありません。
具体的なケース別判断例
接待の労働時間判定について、よくあるケースごとに具体的な判断例を示します。ただし、これらはあくまで一般的な考え方であり、個別の事情によって判断が変わる可能性があることにご注意ください。
労働時間に該当する可能性が高いケース
会社から明確に指示された取引先との接待は労働時間に該当する可能性が高くなります。特に、契約締結や重要な商談に関連する接待については、業務の延長として扱われることが一般的です。
また、営業ノルマ達成や売上目標実現のために必要不可欠な接待活動も、労働時間としての性質が強いと判断される傾向があります。上司の同席や会社経費での実施も判断材料のひとつです。
労働時間に該当しない可能性が高いケース
完全に自発的で個人的な関係構築を目的とした接待は、労働時間に該当しない可能性が高くなります。社員個人の判断で行われ、会社からの指示や業務上の必要性が認められない接待が該当します。
また、すでに良好な関係が築かれている取引先との純粋な親睦目的の会食や、業務と直接関係のない個人的な接待も、労働時間外の活動とみなされることが一般的です。ただし、職場の慣習として事実上の参加義務がある場合は別途検討が必要です。
判断が困難なグレーゾーンのケース
営業担当者が自主的に行う既存取引先との関係維持のための接待は、判断が分かれやすいケースです。直接的な指示はなくても、職務上当然に期待される活動として労働時間とみなされる場合があります。
休日のゴルフ接待についても、業務性や指揮命令性の程度により判断が変わります。会社の方針として推奨されている場合や、営業成績に直接影響する場合は労働時間としての性質が強くなります。
休日・夜間の接待における特別な考慮事項
通常の勤務時間外に行われる接待の労働時間判定は、より慎重な検討が必要です。時間外労働や休日労働の観点からも適切な管理が求められます。
休日接待の労働時間判定
休日に行われるゴルフ接待や会食は、会社の明確な指示に基づくものである場合は、休日労働に該当し、割増賃金の支払い義務が生じる可能性があります。特に、法定休日における業務命令による接待は、割増賃金の支払い対象となります。
一方で、完全に自発的な接待や、代休取得を前提として実施された接待は、通常の休日労働とは区別される場合があります。いずれの場合も接待時間の労働時間該当性を事前に明確にし、適正な手続きを講じることが必要です。
夜間接待と時間外労働
平日の所定労働時間終了後に行われる接待は、業務上の指示や必要性が認められる場合、時間外労働に該当し、残業代の支払い義務が発生します。特に、勤務時間の延長として連続して行われるケースや、会社の指示により参加が義務付けられている場合はこの傾向が強まります。
接待の開始・終了時間、参加者、目的などを正確に記録し、労働時間管理の透明性を維持することが重要です。これにより、労働時間の適正な把握と残業代等支給の根拠を確保できます。
接待費用と労働時間判定の関係
接待費用の負担方法は労働時間判定の補助的な判断材料となります。会社経費での実施は業務性の高さを示すひとつの要素ですが、費用負担だけで労働時間の該当性が決まるわけではありません。
会社負担の場合の考慮事項
接待費用が会社負担の場合は、その接待が業務の一環であり、会社の指揮命令下で行われたことを示す重要な材料となります。特に会社が経費として処理し、業務上の目的が明確である場合は、労働時間の該当性が強まる傾向にあります。
ただし、福利厚生や社員の親睦・士気向上など、業務直接性がない目的での費用負担も存在します。そのため、単に会社負担という理由だけで労働時間と一律に判断することは適切ではありません。費用負担の根拠や目的を明確にするとともに、接待の性質に応じた適切な会計処理(業務費用か福利厚生費等の区分)を行うことが重要です。労働時間の該当性と会計処理が矛盾しないよう整合性のある運用を心がけましょう。
個人負担の場合の判断への影響
社員個人が接待費用を負担した場合でも、その接待が会社の指示・業務命令に基づき業務上必要と認められる場合は、労働時間に該当することがあります。また、費用を一時的に個人が立て替え、事後精算や手当支給によって最終的に会社が負担する場合は、実質的には会社負担と同様の扱いになります。費用負担の表面的な形式にとらわれず、接待の実質的な目的や内容、指揮命令性、業務性といった中身で労働時間の該当性を判断しなければいけません。
適切な勤怠管理と記録保持
接待に関する労働時間管理を適切に行うためには、詳細な記録の保持と管理システムの整備が不可欠です。客観的な記録により、労働時間該当性の判断根拠を明確にできます。
記録すべき項目と管理方法
接待に関しては、日時、場所、参加者、目的、費用、指示者などの詳細な記録を残すことが重要です。これらの記録により、労働時間の該当性を客観的に判断できます。
勤怠管理システムを活用し、接待時間を適切に記録・管理することで、労務リスクの軽減と法的要件の遵守を実現できます。電子記録により記録の改ざんを防止し、信頼性の高い勤怠管理を実現しましょう。
労働時間該当接待の申請・承認フロー
労働時間に該当する可能性のある接待については、事前申請・承認制度の導入が効果的です。接待の必要性や業務性を事前に検討し、労働時間該当性を明確にできます。
承認フローにより、不必要な接待の抑制と適切な労働時間管理の両立が可能になります。管理職の判断による、統一的な基準での運用を実現しましょう。
会社としての明確な方針策定
接待ガイドラインの策定
接待に関する詳細なガイドラインを策定し、労働時間該当性の判断基準を明文化します。具体的なケース例を示すことで、現場での判断に迷いが生じることを防げます。
ガイドラインには、事前申請の手続き、記録の方法、費用処理の方針なども明記します。包括的な運用指針として活用し、定期的な見直しを行って、法改正や実務の変化に対応しましょう。
管理職教育と現場への浸透
接待を承認する管理職に対する教育を充実させ、適切な判断能力の向上を図ります。労働基準法の基本的な考え方から実務上の注意点まで、体系的な教育を実施しましょう。
現場の営業担当者に対しても、接待の労働時間該当性に関する正しい理解を促進します。コンプライアンス意識の向上と適切な勤怠管理の実現により、労務リスクの軽減を図りましょう。
労働基準監督署の調査対応
接待の労働時間判定について労働基準監督署から調査を受ける場合があります。適切な記録の保持と合理的な判断根拠の説明により、調査に対応できる体制を整えることが重要です。
調査時に求められる資料と説明
労働基準監督署の調査では、接待に関する詳細な記録と判断根拠の説明が求められます。接待の目的、指示系統、参加の義務性などを客観的に示す資料を準備しておきましょう。
勤怠記録、接待費用の精算書類、会議録、メール記録など、多角的な視点から労働時間の該当性を説明できる資料の整備が必要です。日頃の適切な記録管理が重要になります。
是正指導への対応と予防策
労働基準監督署から是正指導を受けた場合は、速やかな改善措置が必要です。接待の労働時間該当性に関する判断基準の見直しや勤怠管理システムの改善を行いましょう。
予防策として、定期的な内部監査の実施や労働時間管理に関する継続的な教育を行うことが効果的です。法的リスクを未然に防ぐ体制づくりが重要です。
まとめ
接待の労働時間該当性は、業務性・指揮命令性・義務性の3要素を総合的に判断する必要があります。明確な基準の策定と適切な勤怠管理により、労務リスクを回避しつつ、営業活動の効果的な推進を実現しましょう。
重要なのは、形式的な判断ではなく実質的な労働の性質を見きわめることです。社員との十分なコミュニケーションを図り、接待活動が適切に評価される環境を整備することが大切です。
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