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【社労士監修】人事・労務担当者のAI活用におけるポイントや注意点とは?

公開日時:2026.08.06

ChatGPTをはじめとする生成AIの普及により、人事・労務の現場でもAIを業務に使う場面は増えています。 資料づくりや制度説明の整理など、幅広い場面でAIが試みられるようになってきました。
しかし同時に「便利なはずなのに、なぜか手間が増える」 という経験をすることも少なくありません。AIは万能ではなく得意な領域と明確に苦手な領域があり、その境界を知らずに使っていて実務負担が増えることがあるのです。
本記事では、私が人事労務の現場でAIを使い続けて見えてきたAIの得意・苦手分野や付き合い方を、具体的な事例とともに整理します。
井上 敬裕 氏

井上 敬裕 氏

中小企業診断士・社会保険労務士

青果加工場の工場長を約9年間務めた後、40歳の時に中小企業診断士として独立。販路開拓支援、事業計画作成支援、6次産業化支援、創業支援などを行う。
平成27年社会保険労務士として開業し、給与計算を中心に労務関連業務を行っている。

社会保険労務士法人アスラク 代表社員
https://sr-asuraku.or.jp/about/

人事・労務領域におけるAI活用の現状

「AIを業務に取り入れよう」という動きは、ここ数年で確実に広がっています。とはいえ、実際に日常業務でAIを使いこなしている人がどれほどいるかというと、まだ少数派というのが現実です。

株式会社ネオマーケティングが2025年4月に有職者1,000名を対象に行った調査では、業務でAIを活用していると答えた人は全体の約17%でした。そのうち、人事・労務では約4割が活用しており、全職種中では高い数値となっています。

ただし同調査では、人事・労務と同様にルーティンワークの比率が高い「財務・会計・経理」や「事務・総務」では、AI活用率が相対的に低いという結果も出ています。

つまり、AIを活用できるかどうかは業務の性質だけでなく、「現場でどう扱うか」という運用設計にかかっていると考えられます。

人事・労務に役立つAIの得意分野

AIは、人事労務の現場でも活躍の場が広がっています。 特に、情報を整理する、文章を構造化する、資料のたたき台を作成するといった作業では、驚くほどのスピードと安定感を発揮します。AIが得意で実際に活用されている例を以下に挙げます。

法改正資料の要約

AIは法改正の資料や厚生労働省の通知など、文章量が多く読みにくい資料を短時間で整理できます。重要ポイントの抽出や、章ごとの要点整理、実務に関係する部分の抜き出しなど、人間がやると数時間かかる作業を、数十秒でたたき台として出してくれます。

社内向け文書や研修資料の作成

頭の中にある情報を文章化したいときに、 「とりあえずAIに一度話してみて、それを整えてもらう」という使い方は、かなり実務的です。

AIは研修資料を完成させることはできませんが、構成案やたたき台を作るのが得意です。章立ての案、スライド構成のラフ、説明文の初稿作成などを手早く行えます。ゼロから作成するより、AIの素案をベースに「ここは違う」「ここは足す」と修正していくほうが、速く進むことが多いようです。

人的資本経営への活用

AIは、人的資本経営の領域でも実務的な補助ツールとして活用できます。たとえば、従業員エンゲージメントサーベイの自由記述回答の傾向を整理する、人材育成方針のたたき台を作成する、といった使い方は非常に有効です。

採用業務への活用

採用業務においても、AIは作業効率化の強い味方になります。求人票の文章作成や表現の見直し、面接質問リストの作成、採用基準・評価シートのたたき台づくりなど、繰り返し発生する文書作成業務との相性は良いといえます。

実際に起きた、AI活用にリスクが伴うケース

ここまで見ると、AIはかなり頼りになるように見えます。 しかし、AIが得意なのは「素材を並べること」であって、「意味を理解すること」ではないというポイントを押さえておく必要があります。

たとえば、AIは法改正資料の要約はできますが、「どの事業所に関係するのか」「過去の手続きとの整合性」「地域ごとの運用差」「例外的な扱い」といった、実務上の文脈 は理解できません。つまり、AIの得意領域はあくまで「実務の入口」までであって、そこから先の「判断」「解釈」「説明責任」などは、必ず人間が担う必要があります。

この境界線を見誤ると「AIがここまで言うなら正しいだろう」と過信してしまい、実務上のミスや法的なリスクにつながる可能性が高くなります。

それでは、実際にAIがどのように誤るのか、実際のケースをもとに、AIの苦手な分野や実務における対策を具体的に見ていきます。

ケース1:チャット履歴を使った事故分析で、発言者の読み違いが起きた

AIを実務相談に使う際に最も強く感じられる弱点は、 「会話の流れを理解できない」 という点です。AIは文章を整えることは得意でも、 「誰が何を言ったのか」「どの順番で起きたのか」といった会話の前提を保持できません。

あるトラブルの事故分析にAIを活用した際の出来事です。LINEやチャットワークなどのチャットのスクリーンショットをAIに渡して整理を依頼したところ、AIは「Aさんの発言をBさんの発言として扱う」「こちらの発言を相手側の発言として扱う」「相手の発言をこちらの意見として要約する」といったズレを連発しました。

このことから、AIは、主語のない会話から誰の発言か理解することが苦手であることがわかります。しかし実務では「誰が何を言ったか」が最重要です。ここを取り違えると分析は成立しないため、注意する必要があります。

またAIは、チャットの時系列の順番を正しく把握できないことも判明しました。先の出来事を「後」と判断する、後の説明を「原因」と扱うなどもあり、重要な時系列を誤ると事故分析を適切に行う際の支障になります。

そのため、上記で上げたような誤りや違和感は「おかしいな」と思った時点できちんと確認する必要があります。特に、懲戒処分の判断、労使トラブルの交渉といった局面では、法的・倫理的な責任が伴います。こうした場面でAIの出力をそのまま使うことは、重大なリスクにつながりかねません。

確認を怠り放っておくと、思わぬ事故やトラブルにつながる可能性があるため、最終確認は徹底する必要があります。

ケース2:例外的な社会保険手続きで、誤った方法を案内された

私はある歯科医院から 「歯科医師国保に加入している従業員を厚生年金だけ加入させたい」 という相談を受けました。歯科医師国保に加入している従業員の厚生年金の加入手続きは初めて行うため、AIに手続き方法を尋ねました。するとAIは、「通常の被保険者資格届に適用除外申請を添付して、電子申請で送信すれば問題ない」と回答してきました。

私はこの回答を信じて提出しましたが、後日年金事務所に確認したところ、実際は適用除外申請と被保険者資格届を「郵送で」提出する必要があることが判明しました。そのため、電子申請の取消願いを提出したうえで、改めて適用除外申請と被保険者資格取得届を年金事務所に郵送することになりました。

AIの回答と実際の正しい手続きの乖離が、余計な手間と修正作業を生んでしまった事例です。

このことから、AIは例外的な手続きの判断が苦手であると考えられます。AIは原則や一般論には対応できますが、 例外・運用差・地域ごとの扱いなどを理解できません。また、AIは正確な情報がわからない点について、素直に「わかりません」と答えず、間違った回答をあたりまえのように回答してしまう傾向があります。

そのため、人事労務に関する重要な手続きについては、AIの使用は補助的なものにとどめ、公的機関が発行する最新情報をきちんと読み込むことが何より大切です。

人事・労務のAI活用の注意点

ここまで見てきたように、AIには「会話の理解ができない」「手続きの例外を扱えない」といった苦手領域があります。では、こうした弱点を踏まえたうえで、 実務でAIをどう使えばよいのしょうか。結論はシンプルです。AIには「判断」をさせず、「照合」だけを任せるのです。AIは「全部を理解する」ことはできませんが、 「指定された一点を確認する」ことは得意だからです。

AIに丸投げしない

AIに「全て確認してください」、「おかしいところを教えてください」などと丸投げするような依頼は、AIが苦手とする部分です。しかし、条件を絞って「この3つの数字が一致しているか確認して」「この流れに抜けがないかだけ見て」、「この文に明らかな誤りがないかだけチェックして」といった依頼を出せば、AIの得意領域である 「照合」「比較」「整形」 に一致します。

つまり、AIは「判断者」ではなく「検証者」として使うのがポイントです。整理・照合・比較といった検証作業はAIに任せつつ、判断・解釈・例外処理といった最終部分は人間が担う。この役割分担ができると、AIは実務の負担を減らすことができるでしょう。

これは採用の現場でも同様です。求人票の文章チェックや応募書類の項目確認といった作業はAIが得意とするところですが、最終的な合否判断はAIに委ねてはいけません。AIはあくまで情報整理の補助役であり、最終判断は必ず人間が責任を持って行う必要があります。

AIの“やっているふり”に惑わされない

実際の例でも見てきたように、AIは理解していなくても理解したように振る舞います。「理解しました」「前提を把握しました」「読み取っています」と回答してきますが、実際にはそうではないことが多いのです。

したがって、AIの出す「一見正しそうに見える誤案内」に惑わされないことも重要です。 AIの回答は必ず疑い、補正しながら使うことで、予期せぬトラブルを防止できます。

個人情報の漏洩に注意する

AIを人事・労務業務に活用する際に、もう一つ忘れてはならないのが個人情報の取り扱いです。氏名・住所・給与・病歴・家族構成など、人事労務の現場には多くの個人情報が集まります。これらを含むデータをAIツールに入力することは、個人情報保護法上のリスクや、情報漏洩事故につながる可能性があります。

特に、無料のAIサービスでは、入力した内容がAIの学習データとして使用される場合があります。社員の個人情報や機密情報をそのまま入力することは避け、氏名はイニシャルや仮名に置き換える、といった匿名化・仮名化の処理を行ってからAIに渡すことが大切です。

まとめ

AIは万能ではありません。 しかし、使い方を誤らなければ、人事・労務担当者にとって非常に強力な補助者になります。特に大事なのは、AIは完成品として与えられるものではなく、 使いながら「自分側の使い方を開発していく相手」であるという視点です。

人間でも、長く付き合うほどその人の癖や考え方がわかっていくように、 AIも使い続けることで少しずつ「こういうときに間違える」「こういう投げ方なら安定する」が見えてきます。AIに期待しすぎず、 しかし突き放しもしない。こちら側で主導権を握りながら、 少しずつ扱い方を育てていくこと。それが、人事労務の現場でAIと付き合っていくうえで、 いま一番現実的なスタンスではないでしょうか。

AIサービスはChatGPT・Microsoft Copilot・Claudeなど複数存在し、得意分野もそれぞれ異なります。また、これらのサービスは非常に速いペースで進化しており、本記事で取り上げた注意点が、掲載後まもなく改善・解消されている可能性も十分にあります。そのため、特定のサービスや現時点の情報だけを正解とせず、各サービスの最新動向を継続的に確認しながら、安全かつ効率的な活用を心がけていくことが大切です。

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