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人生100年時代のキャリア再設計 ~70歳まで働く社会と企業の挑戦~

公開日時:2025.05.15 / 更新日時:2025.05.23

「もうすぐ定年だ」──この言葉に、かつては一区切りという安堵や老後への準備というニュアンスが込められていました。しかし今、その“定年”の意味が揺らいでいます。政府は2021年に改正高年齢者雇用安定法を施行し、70歳までの就業確保を「努力義務」としました。少子高齢化と人手不足を背景に、企業の人事労務部門には、従来とは異なる視点での労務戦略が求められています。
このコラムでは、人事・労務管理者の皆様に向けて、70歳就業時代に企業が取るべき対応と実践例、そしてその先にある経営戦略としての高齢者雇用の姿を考えていきます。
田中 敬子 氏

田中 敬子 氏

社会保険労務士clarity共同代表 特定社会保険労務士

大学卒業後、日本・外資系企業にて営業、人材紹介会社でのキャリアアドバイザーに従事。

2018年より社会保険労務士事務所に勤務。

東京都内労働基準監督署において相談員も経験し、現在に至る。

就業規則、労務管理全般、外国人雇用等に関するご相談や給与計算、安全衛生委員会におけるアドバイス、助成金や補助金のご提案等に従事。

本記事は高齢者再雇用等の労務相談に実績がある、 「社会保険労務士法人clarity」に監修いただきました。
「社会保険労務士法人clarity」では、 勤怠管理や給与、労働・社会保険に関するご相談をお受けしております。
「社会保険労務士法人clarity」へのご相談はこちら

社会保険労務士法人clarity

なぜ70歳就業が求められるのか

少子高齢化の波は、予想以上のスピードで社会を変化させています。総務省のデータによれば、2024年10月現在、65歳以上の高齢者は人口の約29%に達しています。また、65歳人口は、2020年現在3.5人に1人の割合となっており、2038年には3人に1人、そして2070年には2.6人に1人になると予想されています(国立社会保障・人口問題研究所 日本の将来推計人口(令和5年推計)結果の概要)。

一方で、生産年齢人口(15〜64歳)は減少を続けており、多くの企業では深刻な人材不足に直面しています。この中で、高齢者は“第二の労働力”として再評価されつつあります。

また、令和6年版「高齢社会白書」によれば、60歳以上で収入のある仕事に就いている人のうち、約4割が「働けるうちはいつまでも働きたい」と回答し、「70歳くらいまで」「それ以上」も含めると、9割近くが高い就業意欲を持っていることが分かっています。

高齢者の活躍は、「生きがい」や「社会参加」の手段であると同時に、経済的な安心を支える重要な基盤でもあります。

理想と現実のギャップ(現場の課題)

とはいえ、高齢者の就業を現実的に進めるには、いくつかの課題が浮かび上がります。

1)健康と体力の限界

加齢による体力の衰えや、持病の有無は避けられない現実です。特に立ち仕事や肉体労働が求められる職場では、勤務継続が難しいケースが増えており、柔軟な配置転換や負担軽減が必要です。

2)スキルとテクノロジーのギャップ

ITリテラシーの違いは、業務の円滑な遂行に影響を及ぼすことがあります。最新のシステムやデジタルツールに対する抵抗感、慣れの問題などに対して、適切な研修体制の整備が必要です。

3)若手社員との関係性

「世代間ギャップ」に起因するコミュニケーションのずれや価値観の違いも見逃せません。若手の柔軟さとスピード感、ベテランの経験と慎重さが対立する構図にならないよう、相互理解を促す環境づくりが求められます。

戦略的人事の視点(今、企業ができること)

単なる延長雇用ではなく、企業として「活かす雇用」に転換する必要があります。以下のような取り組みは、効果的な実践のヒントになるのではないでしょうか。

1)柔軟な勤務制度

就業規則どおりの1日8時間勤務にこだわるのではなく、週3勤務や時短勤務、リモート・時差出勤などをあらたに制度として取り入れる方法があります。働くペースや時間を調整できる制度は、高齢者の体力面・生活面への配慮となり、長く働き続けるためのベースとなります。

2)適材適所の配置転換

一律で決められた移動先、職務内容ではなく、労働者の希望も聞いた上で検討することはできないでしょうか。年齢を重ねた社員の経験や判断力は、後進の育成や品質管理、社内調整といった役割に活かせます。意欲の高い高齢者の場合は、新しい職種にチャレンジしたい方もおられるかもしれません。職務内容の見直しと適正な評価は、本人のモチベーション向上にも直結します。

3)学び直し支援(リスキリング)

年齢を重ねるほど企業研修の対象からはずれていく傾向がありますが、本来は「学びを止めない環境」は、世代を問わず必要です。特にデジタル化が進む今、eラーニングやOJT、メンター制度などを活用して、高齢社員にも安心してキャッチアップできる機会の提供を考えてみてはいかがでしょうか。人材開発支援助成金等の利用も検討することが可能です。

4)キャリア面談と個別設計

キャリア面談は決して若い社員のためだけではありません。定年後の再雇用者に対しても、年に1回のキャリア面談を設け、本人の希望と企業ニーズを擦り合わせることで、働く意味やゴールを再確認できます。「再雇用=現状維持」ではなく、「次のステージをどう築くか」という視点への転換が重要です。

成功事例に学ぶ:共に創る制度

ある中堅製造業では、定年後に「技能伝承アドバイザー」という役職を新設。長年の経験を持つ社員を若手育成役として再雇用し、技術の“見える化”と“伝承”を制度化しました。結果、若手の技術習得が加速し、不良品率も改善。制度の設計段階から高齢社員の意見を取り入れ、「押し付け」ではなく「共創」による制度として受け入れられています。

高齢者雇用は“人事施策”ではなく“経営戦略”

70歳まで働ける社会づくりは、もはや一部の先進企業だけの課題ではありません。高齢者雇用を、単なる「雇用延長」や「社会貢献」ではなく、人材活用・持続的経営・多様性推進という“戦略”の一部としてとらえる視点が、これからの人事労務に不可欠です。

「高齢者をどう活かすか?」という問いへの答えは、企業によって様々です。業種や全体の従業員数と年齢層、男女比、地域性や高齢者が携わる職務内容、会社の将来的な経営戦略計画などによって異なるでしょう。ただし、今後の高齢者を生かす経営戦略を考えていくにあたっては、高齢者本人の希望や意見、そして高齢者と一緒に働く社員の意見を広く集めるところからスタートしていくことが大切です。

高齢社員の声に耳を傾け、共に職場を創っていく姿勢こそが、企業の持続可能性を高める鍵となります。今こそ、“定年のその先”を、企業全体で考え始めるときではないでしょうか。

厚生労働省では、高齢者の活躍に取り組む企業の事例を公表しています。他社の成功事例を参考にし、貴社独自の戦略へと役立つ機会になれば幸いです。

GUIDE

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