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【社労士監修】厚生年金「106万円の壁」対策について

公開日時:2025.05.21

報道機関によると、厚生労働省は、従業員が払う社会保険料の一部を企業が肩代わりできる仕組みを導入した場合に、肩代わり分の8割を中小企業側に還付する方向で調整に入りました。この施策は106万円の壁対策の一環として行われ、保険料を労使で折半する企業側の負担軽減を目的とするもので、2026年10月から3年間の特例とされています。
井上 敬裕 氏

井上 敬裕 氏

中小企業診断士・社会保険労務士

青果加工場の工場長を約9年間務めた後、40歳の時に中小企業診断士として独立。販路開拓支援、事業計画作成支援、6次産業化支援、創業支援などを行う。
平成27年社会保険労務士として開業し、現在は社会保険労務士として給与計算を中心に労務関連業務を行っている。

社会保険労務士法人アスラク 代表社員
https://sr-asuraku.or.jp/about/

「106万円の壁」とは

「106万円の壁」とは、2024年10月から導入された社会保険の適用拡大によって生じた現象です。従業員数が51人以上の事業所で週20時間以上働き、年収が106万円を超え、雇用期間が2か月を超える見込みがある学生ではない労働者は、社会保険の加入対象になります。年収106万円以上は月額8万8千円以上に相当します。このため、社会保険料の負担を避けるために年収106万円を超えないよう就業時間を調整する「働き控え」が発生しており、これを「106万円の壁」と呼びます。

「106万円の壁」撤廃の動き

106万円の壁は従業員数が50人以下の規模の企業で働いていれば現時点では生じません。しかし、2026年10月以降には年収106万円以上の賃金要件が、2027年10月には従業員数51人以上という企業要件が撤廃される見込みです。そうなると、週20時間以上働いたり、雇用期間が2か月を超える見込みがある学生以外の労働者は社会保険に全員加入しなければならなくなります。106万円の壁撤廃により新たに生じる被保険者数は200万人になると見込まれており、働き控え(就業調整)による労働力不足が懸念されています。

保険料負担割合を変更できる特例措置

就業調整を防ぐ対策として、保険料の労使折半の原則を見直し、労使合意によって使用者の負担割合を増加させる特例措置が行われる予定です。この特例措置は、あくまでも時限措置で、対象者は標準報酬月額が12.6万円以下(月収では13万円未満、年収では156万円未満)とされています。

区分現行制度
(労使折半の原則)
特例措置適用後
(標準報酬月額12.6万円以下の場合)
労働者負担50%50%未満(労使合意による引き下げ可能)
事業主負担50%50%超(労働者負担分の一部を肩代わり)
適用期間通常時限措置(2026年10月から3年間)
対象者すべての被保険者標準報酬月額12.6万円以下(月収13万円未満、年収156万円未満)
中小企業への支援措置なし肩代わり分の8割を還付
特例措置は労使合意を前提としています。
標準報酬月額12.6万円超の被保険者には適用されません。

中小企業への配慮が必要

一方、企業負担割合を増加させることは、大企業に比べ経営基盤の弱い中小企業には負担が大きく、特例措置を利用できるのは大企業だけになることが懸念されています。企業側の保険料負担軽減についても措置が必要ということから、被保険者の保険料を肩代わりした分の8割を中小企業側に還付する仕組みづくりが進んでいるのです。

中小企業の保険料負担軽減措置とは?

中小企業の保険料負担軽減措置とは具体的にどのような仕組みになるのでしょうか?106万円の壁対策の企業支援政策はすでに行われていることから、現在の支援策がモデルになることが考えられます。

現在106万円の壁対応策として行われているキャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)について見てみましょう。この助成は労働者を新たに社会保険に加入させるとともに、収入増加の取り組みを行った事業主に助成する制度です。1. 手当等支給メニューと2. 労働時間延長メニュー、1.と2.の併用メニューの3つがあります。

企業が負担した労働者の保険料を助成(手当等支給メニュー)

この助成は労働者が新たに社会保険の被保険者要件を満たし加入した際、企業が賃金を追加支給する取り組みを支援するものです。3年間の取組期間中、1・2年目は労働者負担分の社会保険料相当額(標準報酬月額等の15%以上)の手当支給、3年目は基本給の総支給額18%以上増額(賃上げまたは労働時間延長による増額)が要件です。

特に、2年目までは社会保険適用促進手当の活用が可能です。これは、労働者の保険料負担を軽減するため事業主が支給する手当で、標準報酬月額10.4万円以下の労働者を対象に、新たに発生した本人負担分の保険料相当額を上限として標準報酬算定から除外できます(最長2年間)。

例えば、中小企業の場合、2年間の社会保険適用促進手当(例: 316,800円)と3年目の賃上げ分(例: 190,080円)の合計額(例: 506,880円)に対し、3年間で50万円の助成が受けられます。この制度により、企業は労働者の社会保険加入を促進し、手取り収入の減少を抑えつつ、短時間労働者の就労促進にも貢献できます。

増加した人件費を助成(労働時間延長メニュー)

新たに社会保険の被保険者となった際に、助成金が支給される場合があります。具体的には、週の所定労働時間を4時間以上延長する等の措置を講じた場合です。または、週の所定労働時間を4時間以上延長する等の措置を実施した結果、労働者が社会保険の被保険者要件を満たし、被保険者となった場合も助成対象となります。

週所定労働時間の延長が4時間未満の場合は賃上げが必要となります。手当等支給メニューの場合は、労働時間は変わらないため労働コストが増加する一方で、生産性の拡大効果を得られません。労働時間延長メニューの場合は生産性の拡大が可能です。また、取り組み開始後6カ月で中小企業の場合は労働者1人あたり30万円が助成されるため、取り組みやすいのがメリットです。

キャリアアップ助成金メニュー比較表

項目手当等支給メニュー労働時間延長メニュー
概要社会保険料相当額の手当支給と賃上げ週の所定労働時間を延長
助成金額中小企業:3年間で最大50万円中小企業:1人あたり最大30万円(条件により変動)
支給時期3年間の取り組み期間終了後労働時間延長後6カ月分の賃金支払い完了後
主な要件・1-2年目:社会保険料相当額の手当
・3年目:基本給18%以上増額
・週所定労働時間を1時間以上延長
・4時間未満の場合は賃上げ必要
メリット・手取り収入減少を緩和
・労働者の離職防止
・生産性の拡大が可能
・早期に助成金受給可能
適している企業労働時間を増やせない労働者を多く雇用している企業労働力不足に悩む企業

課題は利用しやすいかどうか

キャリアアップ助成金社会(保険適用時処遇改善コース)は、社会保険の適用拡大の企業支援対策として一定の成果が期待できます。ただし、助成金の支給までには、キャリアアップ計画書の作成、就業規則の整備等、申請書類の作成が必要です。中小企業でも簡単に利用できるような仕組みを作る必要があります。

まとめ

2026年10月以降に予定される106万円の壁撤廃について、中小企業の間ではまだ認知度が十分ではありません。この制度変更に向け、中小企業の経営者は情報収集や従業員への周知、財務計画の見直し、業務プロセスの改善、専門家への相談、支援制度の活用といった準備を早期に進めることが重要です。これらの対策を通じて、制度変更による影響を最小限に抑え、企業の持続可能性を高めることが求められます。

参考

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